日本はほとほど生きづらい国になったもんだ……。
“海岸で夕日を眺めながらお酒を飲んだら過料徴収”されるかもしれなかったり、“ポイ捨てしただけで広報誌に名前を掲載”される可能性があるといった、おかしなルールを過去2回にわたって報告してきた本連載企画。3回目となる今回も、読者からの報告を含め、“首を傾げたくなる”法律や条例の是非を問う!
【おかしなルール評議委員会はこの方々!】
▼『へんなほうりつ』著者 のり・たまみ夫妻 夫婦のフリーライターユニット。世界10か国に滞在するなかで各国の法律に興味を持ち、独学で学ぶ。『へんなほうりつ』(小社刊)など、法律関連の著書多数
▼ウェブサイト『変な法律』管理人・なかむら いちろう氏 ’69年生まれ。立命館大学法学部卒。’00年にウェブサイト『変な法律』を開始。著書に『大爆笑「変な法律」集「俺の酒が飲めねーか」は犯罪です』(講談社)
▼元芸人弁護士・角田龍平氏 コンビ解散後弁護士に。現在『サンデージャポン』(TBS系)出演。『角田龍平のオールナイトニッポンポッドキャスト』(ニッポン放送)も好評配信中
店舗や職場ではタバコを一切吸ってはいけない!?
■対象>喫煙者
いずれこの国では自宅以外でタバコが吸えなくなるかもしれない。
厚生労働大臣の諮問機関である労働政策審議会では「職場における受動喫煙防止対策」の議論を、月に2回ないし3回のペースで繰り返し行っている。11月には公聴会も開かれたが、そこでのテーマは“職場を原則禁煙化することの是非”についてだ。
現在の進捗状況について厚労省に尋ねたところ、「年度内に労政審が議論のまとめを発表し、それを受けて法改正にするか、それ以外の対策にするか決定します」という。
もし法改正ということになれば、最短で今月中に法案提出、来年1月の通常国会で可決という流れになる。結果、労働安全衛生法が改正されたならば、いかなる事業所も、“職場を全面禁煙化”するか、“喫煙室を設置”するか、“換気設備の整備”のいずれかを迫られることになる。それが飲食業であれば、店内も職場であるということになり、喫茶店も居酒屋もパチンコ店も店内全面禁煙になる可能性があるということだ。しかも全国規模で。
「『神奈川県公共的施設における受動喫煙防止条例』の法律版と言えます。それよりも配慮が義務づけられる施設の範囲が広く(職場全域)、また法律であることからその効力は全国に及びます」(ウェブサイト『変な法律』管理人のなかむらいちろう氏)
もし路上禁煙エリアで生活しているならば、もはやタバコは自宅でしか吸えなくなってしまうかもしれない。
もちろんすべての事業者が厳格な分煙施設を作れば、その危惧もなくなるが、資金的に厳しい中小の事業所には難しいだろう。仕方なく全面禁煙にした場合、特に居酒屋などの飲食店では来客数減少が容易に予想される。にもかかわらず、すべての事業所が対象となるのはいかがなものか?
「嫌煙者お断りの店があってもいいし、全員喫煙者の事業所があってもいい。自ら害悪を受容している者の喫煙にまで公権力が介入するのは、規制の合理性が認められません」(弁護士の角田龍平氏)
高齢者や障害者の個人情報を区民へ提供する!?
■対象>高齢者や障害者
「これって簡単に強盗などの犯罪に利用されてしまうのでは?」とSPA!読者から投稿されたのが、東京都中野区の「地域支えあいネットワーク推進条例」(仮)だ。
年度内の成立を目指しているというこの条例は、中野区に暮らす70歳以上の単身、75歳以上の高齢者のみで構成される世帯にある高齢者、または障害者の「氏名」「住所」「年齢」「性別」という4つの個人情報を、本人が開示を拒否しない限り、同区民に提供するというものだ。
なぜ、そのような個人情報を提供する必要があるのか? 中野区役所に問い合わせたところ、「’04年度から、支援を希望する高齢者を区民が見守る活動を推進してきました。その見守りの輪を強固にするのが目的」だという。トラブルを避けるため、最初は地域支援活動をする区民にだけ情報開示するというが……。
「先の尖閣諸島のビデオ流出問題を見てもそうですが、情報というのは必ずといっていいほど“漏れる”ことを想定して対策を立てる必要があります。情報を提供するのは『町会や自治会の役員など』となってますが、その基準は曖昧で人数も相当数になることから、漏れる可能性は高いです。考えが甘いのでは?」(『へんなほうりつ』の著者、のり・たまみ夫妻)
なお漏洩した場合、10万円以下の罰則を付ける方向だという。その額を見ても軽く考えているとしか思えないのだが……。
「高齢者保護というのが目的にありながらプライバシーが明らかになることにより、結果、犯罪の温床になる可能性も。失われる利益が重大すぎます」(角田氏)
犯罪者からの保護を第一に!
ゴミを34種類に分別して捨てなくてはならない!
■対象>面倒くさがり屋
ビン、缶、燃えるゴミ、燃えないゴミといった程度の分別は、もはや当然だろうが、その数が34種類あるとしたら……。
想像しただけで気が滅入るほどゴミを分別しなくてはならない町が徳島県にある。’03年に「ごみゼロ(ゼロ・ウェイスト)宣言」を行った上勝町だ。
’20年までにゴミを完全になくすと宣言した町に暮らす約2000人の住民は、ゴミを34種類に分別して捨てている。上勝町役場から業務委託を受けているNPO法人「ゼロ・ウェイストアカデミー」にその経緯を聞くと、「上勝町では’97年までゴミは野焼きにしていましたが、環境汚染が問題となり、小型の焼却炉を導入しました。しかし、それもダイオキシン規制法に引っかかって使用不可に。財政が豊かではないので、大型焼却炉を購入できず、可能な限り分別してリサイクルしようということになったのです」とのこと。
なお、34種類というのはゴミ引き取り業者の指定によるものだ。
「『ゴミも分別すれば資源』という言葉は定着し、細かな分別をすれば地球環境にとってのメリットにはなるでしょうが、半面、複雑すぎれば不法投棄の横行といったリスクを増大させることになりかねません」(なかむら氏)
確かに分別が面倒となれば、その辺に捨てる人も出るだろう。
また、のり・たまみ夫妻は、ゴミ収集の仕組み自体が法律違反ギリギリではないかと指摘する。
「廃棄物処理法では『市町村は、一般廃棄物を収集し、運搬し、処分しなければならない』と定めていますが、上勝町では住人自らが町にたった1か所しかない日比ヶ谷ゴミステーションまでゴミを運ばなければいけません」
必死で分別した上にゴミ捨て場が遠かったら……住みたくない!
海外編「墓を持ってなければ、死ぬことを禁止する」
■笑える[へんなほうりつ]海外編 のり・たまみ
1、タマネギ臭い子は登校してはダメ!(アメリカ)
アメリカ合衆国ウエストバージニア州で制定されている悪臭条例のひとつです。この地には、とても臭い「ランプ」というタマネギがあり、そのタマネギを食べた児童が学校内を歩いていたら、ほかの児童がとても勉強に集中できないほど、とんでもなく臭いそうです。口臭兵器という感じでしょうか(笑)。
2、死ぬことを禁止する(フランス)
日本とは異なり欧米では、火葬より土葬がメインに行われます。そのために墓地がいっぱいになる地域が続々と現れ、「墓を持ってなければ、死ぬことを禁止する」法律が各地で誕生中なのです。もし違反した場合は「厳しく本人を罰する」そうですが、その時点で亡くなっているのに、いったいどうするんでしょうか?
3、チューインガム所持禁止(シンガポール)
電車のドアにガムがくっつけられて開かなくなったことから、一気に「国内でガム所持禁止」が制定されました。さすがマナーと厳罰の国ですね。日本人旅行者がうっかりバッグにチューインガムを忍ばせていたら、「ガム輸入禁止」に引っかかって、最高で禁錮2年の可能性もありますので注意しましょう。
ZAKZAK
“海岸で夕日を眺めながらお酒を飲んだら過料徴収”されるかもしれなかったり、“ポイ捨てしただけで広報誌に名前を掲載”される可能性があるといった、おかしなルールを過去2回にわたって報告してきた本連載企画。3回目となる今回も、読者からの報告を含め、“首を傾げたくなる”法律や条例の是非を問う!
【おかしなルール評議委員会はこの方々!】
▼『へんなほうりつ』著者 のり・たまみ夫妻 夫婦のフリーライターユニット。世界10か国に滞在するなかで各国の法律に興味を持ち、独学で学ぶ。『へんなほうりつ』(小社刊)など、法律関連の著書多数
▼ウェブサイト『変な法律』管理人・なかむら いちろう氏 ’69年生まれ。立命館大学法学部卒。’00年にウェブサイト『変な法律』を開始。著書に『大爆笑「変な法律」集「俺の酒が飲めねーか」は犯罪です』(講談社)
▼元芸人弁護士・角田龍平氏 コンビ解散後弁護士に。現在『サンデージャポン』(TBS系)出演。『角田龍平のオールナイトニッポンポッドキャスト』(ニッポン放送)も好評配信中
店舗や職場ではタバコを一切吸ってはいけない!?
■対象>喫煙者
いずれこの国では自宅以外でタバコが吸えなくなるかもしれない。
厚生労働大臣の諮問機関である労働政策審議会では「職場における受動喫煙防止対策」の議論を、月に2回ないし3回のペースで繰り返し行っている。11月には公聴会も開かれたが、そこでのテーマは“職場を原則禁煙化することの是非”についてだ。
現在の進捗状況について厚労省に尋ねたところ、「年度内に労政審が議論のまとめを発表し、それを受けて法改正にするか、それ以外の対策にするか決定します」という。
もし法改正ということになれば、最短で今月中に法案提出、来年1月の通常国会で可決という流れになる。結果、労働安全衛生法が改正されたならば、いかなる事業所も、“職場を全面禁煙化”するか、“喫煙室を設置”するか、“換気設備の整備”のいずれかを迫られることになる。それが飲食業であれば、店内も職場であるということになり、喫茶店も居酒屋もパチンコ店も店内全面禁煙になる可能性があるということだ。しかも全国規模で。
「『神奈川県公共的施設における受動喫煙防止条例』の法律版と言えます。それよりも配慮が義務づけられる施設の範囲が広く(職場全域)、また法律であることからその効力は全国に及びます」(ウェブサイト『変な法律』管理人のなかむらいちろう氏)
もし路上禁煙エリアで生活しているならば、もはやタバコは自宅でしか吸えなくなってしまうかもしれない。
もちろんすべての事業者が厳格な分煙施設を作れば、その危惧もなくなるが、資金的に厳しい中小の事業所には難しいだろう。仕方なく全面禁煙にした場合、特に居酒屋などの飲食店では来客数減少が容易に予想される。にもかかわらず、すべての事業所が対象となるのはいかがなものか?
「嫌煙者お断りの店があってもいいし、全員喫煙者の事業所があってもいい。自ら害悪を受容している者の喫煙にまで公権力が介入するのは、規制の合理性が認められません」(弁護士の角田龍平氏)
高齢者や障害者の個人情報を区民へ提供する!?
■対象>高齢者や障害者
「これって簡単に強盗などの犯罪に利用されてしまうのでは?」とSPA!読者から投稿されたのが、東京都中野区の「地域支えあいネットワーク推進条例」(仮)だ。
年度内の成立を目指しているというこの条例は、中野区に暮らす70歳以上の単身、75歳以上の高齢者のみで構成される世帯にある高齢者、または障害者の「氏名」「住所」「年齢」「性別」という4つの個人情報を、本人が開示を拒否しない限り、同区民に提供するというものだ。
なぜ、そのような個人情報を提供する必要があるのか? 中野区役所に問い合わせたところ、「’04年度から、支援を希望する高齢者を区民が見守る活動を推進してきました。その見守りの輪を強固にするのが目的」だという。トラブルを避けるため、最初は地域支援活動をする区民にだけ情報開示するというが……。
「先の尖閣諸島のビデオ流出問題を見てもそうですが、情報というのは必ずといっていいほど“漏れる”ことを想定して対策を立てる必要があります。情報を提供するのは『町会や自治会の役員など』となってますが、その基準は曖昧で人数も相当数になることから、漏れる可能性は高いです。考えが甘いのでは?」(『へんなほうりつ』の著者、のり・たまみ夫妻)
なお漏洩した場合、10万円以下の罰則を付ける方向だという。その額を見ても軽く考えているとしか思えないのだが……。
「高齢者保護というのが目的にありながらプライバシーが明らかになることにより、結果、犯罪の温床になる可能性も。失われる利益が重大すぎます」(角田氏)
犯罪者からの保護を第一に!
ゴミを34種類に分別して捨てなくてはならない!
■対象>面倒くさがり屋
ビン、缶、燃えるゴミ、燃えないゴミといった程度の分別は、もはや当然だろうが、その数が34種類あるとしたら……。
想像しただけで気が滅入るほどゴミを分別しなくてはならない町が徳島県にある。’03年に「ごみゼロ(ゼロ・ウェイスト)宣言」を行った上勝町だ。
’20年までにゴミを完全になくすと宣言した町に暮らす約2000人の住民は、ゴミを34種類に分別して捨てている。上勝町役場から業務委託を受けているNPO法人「ゼロ・ウェイストアカデミー」にその経緯を聞くと、「上勝町では’97年までゴミは野焼きにしていましたが、環境汚染が問題となり、小型の焼却炉を導入しました。しかし、それもダイオキシン規制法に引っかかって使用不可に。財政が豊かではないので、大型焼却炉を購入できず、可能な限り分別してリサイクルしようということになったのです」とのこと。
なお、34種類というのはゴミ引き取り業者の指定によるものだ。
「『ゴミも分別すれば資源』という言葉は定着し、細かな分別をすれば地球環境にとってのメリットにはなるでしょうが、半面、複雑すぎれば不法投棄の横行といったリスクを増大させることになりかねません」(なかむら氏)
確かに分別が面倒となれば、その辺に捨てる人も出るだろう。
また、のり・たまみ夫妻は、ゴミ収集の仕組み自体が法律違反ギリギリではないかと指摘する。
「廃棄物処理法では『市町村は、一般廃棄物を収集し、運搬し、処分しなければならない』と定めていますが、上勝町では住人自らが町にたった1か所しかない日比ヶ谷ゴミステーションまでゴミを運ばなければいけません」
必死で分別した上にゴミ捨て場が遠かったら……住みたくない!
海外編「墓を持ってなければ、死ぬことを禁止する」
■笑える[へんなほうりつ]海外編 のり・たまみ
1、タマネギ臭い子は登校してはダメ!(アメリカ)
アメリカ合衆国ウエストバージニア州で制定されている悪臭条例のひとつです。この地には、とても臭い「ランプ」というタマネギがあり、そのタマネギを食べた児童が学校内を歩いていたら、ほかの児童がとても勉強に集中できないほど、とんでもなく臭いそうです。口臭兵器という感じでしょうか(笑)。
2、死ぬことを禁止する(フランス)
日本とは異なり欧米では、火葬より土葬がメインに行われます。そのために墓地がいっぱいになる地域が続々と現れ、「墓を持ってなければ、死ぬことを禁止する」法律が各地で誕生中なのです。もし違反した場合は「厳しく本人を罰する」そうですが、その時点で亡くなっているのに、いったいどうするんでしょうか?
3、チューインガム所持禁止(シンガポール)
電車のドアにガムがくっつけられて開かなくなったことから、一気に「国内でガム所持禁止」が制定されました。さすがマナーと厳罰の国ですね。日本人旅行者がうっかりバッグにチューインガムを忍ばせていたら、「ガム輸入禁止」に引っかかって、最高で禁錮2年の可能性もありますので注意しましょう。
ZAKZAK