◇「セーフティーネット必要」 患者団体の活動懸命に
唐津市相知町の秀島晴美さんは看護師として働いていた23歳のころ、腹痛、下血が続いた。「仕事に行けなくなるし、入院したくない」と、我慢し続けたが、40度の高熱と貧血で緊急入院。体重は約10キロ落ちていた。検査を受け、潰瘍性大腸炎と判明した。
約半年間は絶食し、点滴だけ。病院から外出もできない。腹の内部をえぐられるような痛みは24時間続いた。
一度は退院したが、半年後に再発。医師からは「看護師は無理です」とストップがかかった。しかし病気になったことで「今まで、患者さんの気持ちを十分くめていなかった」ことに気付き「このまま辞めたくない」という思いも強まった。
25歳のころに結婚、29歳で妊娠が分かった。喜び以上に感じたのは不安だ。前年に早期流産しており「2度目があったら生きていけない」という恐怖感が先行した。
無事に出産できたが、長女は腎臓や目に病気を抱えていた。現在は健康な状態だが、東京まで通院が必要な時期もあった。自身の症状は子育てに奔走していた約8年間は、不思議と治まっていた。
仕事を頑張っても、体調悪化を繰り返す。そこに差した光が子供の存在だった。将来は閉ざされていると思っていたが、子供が生まれたことで「生きていく未来が描けるようになりました」。
一方で30歳代後半からは毎年のように再発、入院を繰り返した。「もうだめ」という絶望感に何度も襲われたが「諦めたくない」とも強く思った。
「不安に襲われる自分の平常心を保つ」ため、ケアマネジャーや社会福祉士などの資格も取得し、活動の幅を広げた。現在は看護学校の非常勤講師として、後進の指導にも当たる。
クローン病をあわせた「炎症性腸疾患」の県内患者会の設立にも携わった。活動を通じ、制度の谷間に置かれる患者たちの状況を痛感し、全国組織の活動にも関わる。
雇用・生活支援が不十分で、成人患者には、医療費助成以外の支援策がほとんどない。潰瘍性大腸炎患者の障害者手帳取得率は約3%。障害者向けサービスも十分に受けられない。それなのに「助成対象から外す」という話題が何度も取りざたされる。
懸念するのは、若年患者の生活が壊れることだ。秀島さんが以前受けた治療法も助成がなければ約70万円かかっており「助成無しで高額な医療費を強いられれば、社会的基盤がない若者にとっては、就職も結婚も出産も、将来が閉ざされてしまう」と感じる。だからこそ、「患者を支えるセーフティーネットが必要です」と訴える。【蒔田備憲】
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◇潰瘍性大腸炎
大腸の粘膜に潰瘍などができる病気。原因は不明。下血や下痢、腹痛が起こる。完治に導く治療は難しく、原則は薬による治療だが、手術が必要なこともある。医療費助成の対象になる特定疾患に指定されており、10年度の受給者数は11万7855人。
毎日新聞 2012年1月22日 地方版
唐津市相知町の秀島晴美さんは看護師として働いていた23歳のころ、腹痛、下血が続いた。「仕事に行けなくなるし、入院したくない」と、我慢し続けたが、40度の高熱と貧血で緊急入院。体重は約10キロ落ちていた。検査を受け、潰瘍性大腸炎と判明した。
約半年間は絶食し、点滴だけ。病院から外出もできない。腹の内部をえぐられるような痛みは24時間続いた。
一度は退院したが、半年後に再発。医師からは「看護師は無理です」とストップがかかった。しかし病気になったことで「今まで、患者さんの気持ちを十分くめていなかった」ことに気付き「このまま辞めたくない」という思いも強まった。
25歳のころに結婚、29歳で妊娠が分かった。喜び以上に感じたのは不安だ。前年に早期流産しており「2度目があったら生きていけない」という恐怖感が先行した。
無事に出産できたが、長女は腎臓や目に病気を抱えていた。現在は健康な状態だが、東京まで通院が必要な時期もあった。自身の症状は子育てに奔走していた約8年間は、不思議と治まっていた。
仕事を頑張っても、体調悪化を繰り返す。そこに差した光が子供の存在だった。将来は閉ざされていると思っていたが、子供が生まれたことで「生きていく未来が描けるようになりました」。
一方で30歳代後半からは毎年のように再発、入院を繰り返した。「もうだめ」という絶望感に何度も襲われたが「諦めたくない」とも強く思った。
「不安に襲われる自分の平常心を保つ」ため、ケアマネジャーや社会福祉士などの資格も取得し、活動の幅を広げた。現在は看護学校の非常勤講師として、後進の指導にも当たる。
クローン病をあわせた「炎症性腸疾患」の県内患者会の設立にも携わった。活動を通じ、制度の谷間に置かれる患者たちの状況を痛感し、全国組織の活動にも関わる。
雇用・生活支援が不十分で、成人患者には、医療費助成以外の支援策がほとんどない。潰瘍性大腸炎患者の障害者手帳取得率は約3%。障害者向けサービスも十分に受けられない。それなのに「助成対象から外す」という話題が何度も取りざたされる。
懸念するのは、若年患者の生活が壊れることだ。秀島さんが以前受けた治療法も助成がなければ約70万円かかっており「助成無しで高額な医療費を強いられれば、社会的基盤がない若者にとっては、就職も結婚も出産も、将来が閉ざされてしまう」と感じる。だからこそ、「患者を支えるセーフティーネットが必要です」と訴える。【蒔田備憲】
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◇潰瘍性大腸炎
大腸の粘膜に潰瘍などができる病気。原因は不明。下血や下痢、腹痛が起こる。完治に導く治療は難しく、原則は薬による治療だが、手術が必要なこともある。医療費助成の対象になる特定疾患に指定されており、10年度の受給者数は11万7855人。
毎日新聞 2012年1月22日 地方版