障害者が待ち望む「障害者差別解消法」だが、政府や自治体の準備不足もあって、民間の取り組みの遅れや、学校現場の対応への不安が浮かび上がる。四月の施行まで五十日足らず。障害者団体の関係者は「画期的な法律なので浸透してほしい」「マニュアル頼りではなく、目の前の一人一人を見て対応を」と願う。
■民間企業
「車いすの人が何人かで食事をしたくても、入れる店を見つけるのが難しい。飲食店の多い東京でさえ…」。「DPI(障害者インターナショナル)日本会議」(東京都千代田区)事務局長で、自身も車いすを使う佐藤聡さん(48)が嘆く。
障害者差別解消法は民間事業者にも、努力義務として障害を理由にした差別を禁じる。しかし、店舗の入り口に段差があったり、視聴覚障害者向けの案内が不備だったりと、法の指す「社会的障壁」が多く残っているのが現状だ。
ファミリーレストラン「デニーズ」を経営する「セブン&アイ・フードシステムズ」(墨田区)は法施行までに、約三百九十の全店で、障害者対応のスロープやトイレがあるかを再点検し、ホームページで情報提供する。スロープなどがない店は改装時に設置する方針だが、「店によっては設備を造るスペースがなかったり、テナント型でオーナーの許可が必要だったりする」と担当者。
コストも課題で、総合スーパー「アピタ」などを展開する「ユニー」(愛知県稲沢市)は「障害者対応の多目的トイレを造ると、一カ所約八百万円の投資が必要」と明かす。
障害者の就労支援や学習支援をする「LITALICO」(目黒区)が昨年十月に実施した調査では、企業百五十七社のうち、44・5%が「法の内容を把握していない」と答えた。法への対応を実施・検討しているとの回答は、わずか19・1%だった。
佐藤さんは「差別はいけない、と明示した法律を待ち望んできた。障害者は日常、飲食店や鉄道などいろんな民間事業者に接する。まずは法律の知名度を上げ、不十分な点を見直してほしい」と訴える。
■教育現場
文部科学省によると、障害者らが対象の特別支援教育を受ける子どもは全国で四十数万人。他に、通常学級に通う小中学生の6・5%に発達障害の可能性があると推計される。しかし、特別支援教育以外の現場では「一部の子を特別扱いしない」との発想が強く、障害のある子の学習環境は後回しになりがちだ。
学習障害(LD)で書くことが苦手なのに、板書の写真撮影は不可。コミュニケーションが困難なのに、何度も注意する…。発達障害の中高生を支援するNPO法人「パルレ」(品川区)の坪井久美子理事長は「つらい思いをしてきた子が少なくない」と語る。
障害者差別解消法の施行で、従来の学校の発想は転換を迫られるはずだが、注意欠陥多動性障害(ADHD)の長女(19)を持つ四十代の女性は「長年続いた慣習は急には変わらない」と不信を募らせる。
LITALICOの野口晃菜執行役員は「教員研修で小中学校を回った感触では、法を正確に理解しているのは一部」。昨年三月の同社のインターネット調査で、回答した小中学校教員三百人のうち、法について「内容も含め知っている」と答えたのは17%、「知らない」が43%だった。
文科省は法の内容や注意点を示した対応指針を作り、昨年十一月に全国の教育委員会などに通知した。理解は進むと考えられるが、障害の状態は千差万別で多様な対応が必要になる。
坪井理事長は「マニュアル頼りでなく、目の前の一人一人を見て、どう対応すればいいかを考えてほしい」と訴えている。
障害者差別解消法の施行を前に、障害者差別について学ぶ企業の担当者ら
2016年2月12日 東京新聞