動いている教育の一瞬一瞬をとらえる「ゼノンの逆説」。第22回のテーマは、ソーシャル・インクルージョン(社会的包摂)である。
去る2月15日、千葉市NPO活動大賞の表彰式があり、私が理事長をつとめるNPO法人企業教育研究会が「企業と連携した授業づくり~誰もが教育に貢献する社会へ~」というテーマで表彰をいただいたので、私も参加させていただいた。今回表彰を受けたのは3法人。懇談の場で、他の2法人の活動についてお話をうかがうことができた。
一つは、「カフェ・ハーモニー」という活動を行っている「障害者の就労を支援する会」。千葉公園内のレストランを借り受け、発達障害、知的障害、精神障害等で悩んでいる人が就労に向けた準備・練習の場としてカフェを運営する活動を行っておられる。元教員で退職した方や保護者が中心となって活動している法人だ。
もう一つは、小児がん患児・家族・小児がん経験者への支援活動に取り組む「ミルフィーユ小児がんフロンティアーズ」。入院中の患児・家族への支援や退院後の患児・家族への支援に取り組んでおられる。治癒率の向上によって社会人となる小児がん経験者が増えていることに対応して、社会的理解の不足の問題への対応や小児がん経験者のための生命保険共済事業への協力など、多くの課題への対応を進められている。
二つの法人に共通するのが、障害や病気という課題を抱えている方やその周辺の方を支援する活動をされていることだ。今年4月から障害者差別解消法が施行され、ソーシャル・インクルージョン(社会的包摂=多様な条件の人が排除されずに社会の中で共に支え合うこと)という考え方が注目されている中で、こうした活動をされている法人が表彰されることは素晴らしいことだ。
相対的に軽く思われやすい課題
だが、話をうかがっていると、それぞれの活動にはまだまだ課題が多いことがわかる。一般就労ができるかどうかという状況の軽度の障害をもつ人の課題や、小児がんを経験して社会人となっている人の課題は、重い障害を抱える人や現に闘病生活を送っている人の課題のようにわかりやすいものでない上に、相対的に課題が軽く思われやすい。見えやすい課題への対応が進む中で、見えづらい課題を抱えた人が理解されないまま取り残されてしまう恐れがある。
学校の道徳教育では、「思いやり」が扱われる。明らかにつらそうな状況の人に対しては、「思いやり」で助けることがしやすい。しかし、つらそうに見えず、むしろ大したことがないと思われがちな状況の人に対しては、「思いやり」は基本的に無力である。課題は多様であり、具体的に知ることなしに察することができない課題は多い。
ソーシャル・インクルージョンに向かう教育では、「思いやり」だけに満足することなく、多様な立場の人たちから直接学び、理解を広げ、実際に協力することが不可欠である。
2016年02月19日 読売新聞