アメリカの現地時間で3月11日0時、AP通信のニュースが更新された。トップニュースは、東日本大震災に祈りを捧げる日本人の記事だった。
被災地となった東北を本拠とするイーグルスは11日、静岡で練習前に黙祷。日本中で多くの人が午後2時46分に祈りを捧げ、「あの日」に思いを馳せた。あれから5年。イーグルスには、特別な時間がこれからも流れる。
◆岩隈が震災遺児支援の強化を発表、田中は風化の懸念と活動継続を訴える
球団創設時のエース岩隈久志(現マリナーズ)は、被災した三陸鉄道が結成した草野球チーム「三陸キットDreams」のGMを務めるなど、これまでにも継続的にさまざまな活動を行っている。そんな岩隈が10日、今後さらに震災孤児の支援を強化していくと自身のブログで発表した。
2014年からヤンキースで活躍する田中将大は、ブログとツイッターで被災された人々へのお見舞いの気持ちを綴り、「5年という月日が経過しましたが、震災を風化させず、後世に伝えていくことが大切だと思います。」との決意とともに、今後の支援活動の継続を誓った。
◆嶋、銀次、今江。それぞれの思い
キャプテンの嶋基宏は、久米島キャンプの声だしで大絶叫した。「今年は震災から5年。少しずつ忘れかけています。日本一になった13年の感動を、皆さんともう一度味わいたい。ファン、監督、コーチ、チームのために全身全霊で戦います!」。
選手会長に就任した銀次も、嶋と同じように震災が忘れかけられていることへの危機感を募らせていた。そこで、声だしでは、同じ思いを違う言葉で伝えることにした。朝起きた時に、ふと思いついたという。「日本の子どもたち、もっと野球やろうぜー!」。思いは同じだった。
今季入団した今江敏晃は、社会貢献活動を称える「ゴールデンスピリッツ賞」を受賞。福島県いわき市の小・中学校を継続的に訪れ、群馬県の障害者野球チーム「群馬アトム」に交流を申し出るなど、さまざまな活動を長期に渡って続けている。
◆スポーツは日常で人生、けれども人それぞれ
日本にいても、アメリカに渡っても、風化することを憂え、未来に思いを馳せた選手たち。イーグルスには、特別な使命があるのかもしれない。
「見せましょう、野球の底力を」。2011年に嶋が行ったスピーチは、同年の流行語大賞にもノミネートされ、多方面で反響を呼んだ。ところが、この年イーグルスは5位と低迷。嶋も思うような成績を残せず。心ない野次が浴びせられたことも。言葉が一人歩きしたことで悩まされたという。
だが、この時、嶋が悩み抜いて自分で紡いだ言葉である。実際に大勢の人が勇気づけられた。そうではない人もいたかもしれないが、それは人それぞれでもある。
忘れてはいけないけれど、忘れたいという人もいるように。闇や未来はその人のもの。大きくなるほど人も言葉もそれだけでは無力。一人ひとりができることを行うという積み重ねがある限り、希望もあるはず。
スポーツに熱狂する心理を脳科学から読み解いた本「This Is Your Brain on Sports」によると、スポーツは日々の生活にあるもので、ファンにとっては人生。
競争相手がいたり、理不尽なことと折り合いをつけたり、目標を達成したり、あらゆることが自分のこととしてもリンクするから、何かにつけて感情移入するのだとか。
負ければ野次も飛ぶ。野次ってスカッとして、それで明日からがんばろうという人もいるかもしれない。それに応戦するファンもいれば、顔をしかめるファンも。負ければ悔しいし、勝てば胸がすく。
誰もが日常を投影し、それぞれに熱を放出する。応援も野次も、チームを思い、自分を投影するからこそ。さまざまなエネルギーを糧にして、これからまたチームとファンが共に強くなっていけますように。
2016年03月12日 Jsports