川口市の福祉作業所「晴れ晴れ」に通う精神障害者らの手作りで、今月に売り始めた「ベーゴマクッキー」が大好評だ。「鋳物の街・川口ならではの新銘菓を」と、特注の鋳物の型で本物そっくりに焼き上げている。お年寄りの男性らにも「懐かしい」と歓迎され、「一カ月で千袋」の販売目標を一週間で達成。施設長の石崎美智(みち)さん(42)は「障害者の皆さんに大きなやりがいが生まれた」と喜んでいる。 (杉本慶一)
川口市北園町にある「晴れ晴れ」の作業所。白衣姿の女性五人が生地をこねて型に入れ、オーブンで焼く作業に励んでいた。「毎日百個を焼きますが、ほとんど即日完売です」。石崎さんがほほ笑んだ。
好評の理由は造形と味へのこだわりにある。モデルにしたのは、国内唯一のベーゴマ専門メーカー日三(にっさん)鋳造所(川口市)の製品だ。パレスホテル大宮(さいたま市)のパティシエにレシピなどの指導も受け、二年間近くをかけて開発した。
晴れ晴れの通所者は二十~五十代の約四十人。二〇〇八年からパンやクッキーを製造・販売し、県産の小麦や米粉を材料にするなど「地域とのつながり」を重視してきた。そんな石崎さんらが「川口土産になるお菓子をつくれないか」と思い付いたのが、本物のベーゴマと同じように鋳物で焼くクッキーだった。
石崎さんは、地元の鋳物金型メーカー「大瀧合金」に型造りを依頼。同社を通じ、日三鋳造所の辻井俊一郎社長を紹介してもらった。「社長には『そういうものが川口に欲しかった。ぜひ協力したい』と快諾いただきました」
両社とともに一四年から型造りや製法の試行錯誤を重ねる中、翌一五年に新たな協力者が加わった。パレスホテル大宮製菓料理長の伊東正弘さんらだ。
以前の試作品はベーゴマの裏の渦巻きを表現するため、硬めに焼いていた。しかし、伊東さんに「高齢者や子どもに食べづらい」と言われ、材料の砂糖やバターなどの種類を変更し、やわらかめにした。さらに半年を費やし、地元産の「川口御成道みそ」を使ったみそ味、ごま、ココア、プレーンの四種類が完成した。
そして今年三月一日。そごう川口店(川口市)と大丸浦和パルコ店(さいたま市)、晴れ晴れの店舗で販売をスタート。一袋十二個入りで計約二百五十袋を用意したが、わずか二日間で売り切れた。
購入者にはお年寄りの男性も目立つ。「『昔はベーゴマばかりで遊んでいた』『孫にプレゼントしたい』と話す方もいました」と石崎さん。飛ぶような売れ行きに、製造担当の障害者たちは「もっと頑張ろう」と士気を高めている。
今後はインターネット販売も検討する。石崎さんは「末永く愛される商品になれば」と期待する。価格は一袋四百円。問い合わせは、晴れ晴れ=電048(269)8288=へ。
<ベーゴマ> 戦後、子どもたちに大流行した遊び道具。本体は直径3センチ前後で、約1メートルのひもを巻いて回す。「台の上に複数のベーゴマを同時に投げ入れ、はじき出されたら負け」が基本ルール。昭和30年代のピーク時には川口市で約80社が製造していたが、現在、ベーゴマの専門メーカーは日三鋳造所だけになった。同社は9種類を製造・販売している。
鋳物の型に生地を詰める障害者たち
2016年3月22日 東京新聞