多様な生き方を受け入れる社会を実現するには、障害者の参加が必須であろう。
厚労省は2004年、精神保健医療福祉のあり方について、「入院医療から地域生活中心へ」をスローガンに、「精神保健医療福祉の改革ビジョン」を示した。
厚労省のHPなどによると、このビジョンは統合失調症患者などの「社会的入院」を解消し、地域で生活しながら社会復帰を図れるよう医療・福祉の関連機関が連携し、10年で態勢を整備する「改革」を掲げたものだった。それまでの精神医療は症状の緩和、解消を重視してきたが、症状が解消した後の対応が回復には重要なのだ。
実は、こうした取り組みは40年以上前から「アルコール依存症治療」の分野で行われてきた。その歩みの中に、改革ビジョンを成功させるヒントがあるように思う。
40~50年前はアルコール依存症者の回復は絶望的だった。入院治療で、飲酒への渇望や、不安・抑うつが緩和されたとしても、退院すると多くの患者が再び飲酒し、入退院を繰り返した。そのたびに暴力的な問題が生じ、長期入院が常態化していた。
回復には、退院後にアルコール依存症者を支える施設や団体の役割が大きかった。現に、国内でアルコール依存症からの回復者がうまれたのは1950年代後半に、依存症者が集って体験を語り合う断酒会が誕生した後である。
60年代には、「院内断酒会」と呼ばれたアルコール依存症者のための集団精神療法をする病院も増えた。
一方、院外の援助網として病院や診療所の多職種の医療従事者、保健所、福祉事務所の職員らが緊密に連携し、退院者を支える仕組みも作られた。断酒会も全国に広がった。病院における治療の変化もあるが、こうした院外の援助網の充実が、依存症者の入院日数を短くしたといえる。
さて、現在の「入院医療から地域生活中心へ」についてである。まだ、入院患者のいる病院に対しての施策がほとんどで、退院患者の援助を担っている入院病床のない診療所への施策は少ない。例えば、診察と同日に集団精神療法やデイケアを行ってもその内の一方しか算定出来ない。
診療所における多面的なケアは、退院後の支援網を充実させるためにも、そもそも安易な入院を避けるためにも必要なのだ。
改革ビジョンを進めるためにも、もっと実際に沿った施策にしてほしいものだ。
アピタル・2016年3月16日