重い障害がありながら、東大が初めて実施した推薦入試に合格し、今春から新生活をスタートさせる19歳の青年がいる。「挑戦すれば、結果は変わる」。進学への強い意欲を支えたのは、学ぶ機会を平等に保障するための社会的な配慮と人々との出会いだった。学校などに合理的配慮を義務付ける障害者差別解消法は4月施行される。
「将来は国連の難民高等弁務官になりたい」
千葉県船橋市の慎允翼さんは、力強い言葉で夢を語る。脊髄性筋萎縮症を患い、重度の肢体不自由がある。鉛筆を持って字を書くことは難しく、父親の影響で、3歳のころには自宅でパソコンに触れていた。普段はパソコンでノートを取れるソフトウエアを活用。マウスで画面上のキーボードを操作し、メールを書く。
共働きの両親に「学校と社会生活では親が介助しない」を原則に育てられた。地元の公立小中学校の普通学級に通学。「養護学校に入学しなかったことで、現実を思い知らされた。でも、その経験が今の自分をつくっている」と振り返る。
地元の県立高校に進み、県が派遣するヘルパーの支援を受けながら学校生活を送った。高2の夏には、東大先端科学技術研究センター(先端研)が高等教育を目指す障害児に情報通信技術(ICT)を提供するプログラム「DO―IT Japan」に参加。社会を変えたいという仲間と出会い、刺激を受けた。
東大への挑戦は2度目だ。昨年は一般入試で受験し、大学入試センター試験や2次試験で時間延長や代筆、パソコンの使用などが許可された。今年もセンター試験と推薦入試の小論文で同様の配慮が認められ合格した。
障害がある子供の中には、ICT機器の活用など適切な支援を受けることで、本来の能力を発揮できる場合がある。東大先端研の近藤武夫准教授は「障害者と健常者が同じ手段で学ぶことが平等ではなく、時には排除につながることもある。合理的配慮とは優遇ではなく、負担にならない範囲で学ぶ機会を平等にするための変更や調整だ」と説明する。
慎さんは、同じ立場の若者たちに「とにかくチャレンジして。ぶつかっていく中で結果は必ず変わっていくはずだ」と呼び掛ける。だが同時に、法施行が「自ら配慮を求めることが難しい知的障害者らと、配慮によって価値を生み出す障害者が分断され、排除につながる」とも危惧している。
2016/3/28 日本経済新聞