1 day agoレーバークーゼンには2016/17シーズンの全試合に“足を運んでくれた”特別なサポーターがいた
2016/17シーズンのブンデスリーガで全試合に出場した選手はわずか6人。オリバー・バウマン(ホッフェンハイム)、ラルフ・フェアマン(シャルケ)、ルン・ヤルステイン(ヘルタ・ベルリン)、アレクサンダー・シュボロー(フライブルク)、ヤン・ゾマー(メンヘングラートバッハ)、ベアント・レノ(レーバークーゼン)と全員がGKである。GKにとってシーズンの全試合に出場するのはさほど難しいことではないかもしれない。しかし、そうした選手とは別に、困難を乗り越えてすべての試合に足を運んだサポーターがいた。
レーバークーゼンを応援する盲目のサポーター
ゲハート・シュトルさんは2016/17シーズンのレーバークーゼンの試合をホーム、アウェー問わず、すべてスタジアムで応援したという。そうした熱心なサポーターは他にも数多くいるはずだが、ケルン近郊に住むシュトルさんは特別なサポーターだ。13歳の時に視力を失ったのである。
シュトルさんはレーバークーゼンの選手のことをすべて知っているが、レノのセーブを一度も見たことがない。チチャリートの活躍も言葉でしか聞いたことがない。それでも、言葉を聞けば雰囲気をつかんで頭の中で再現することができる。「スタジアムにいる時、私の頭の中には常に映像が流れています。それはまだ目が見えていた頃、つまり1970年代や1980年代の映像ですけどね」
ケルンで生まれたシュトルさんは、幼い頃からサッカーの魅力にとりつかれ、当初はフォルトゥナ・ケルンの試合を追いかけていた。しかし、視力を失った後の1999/2000シーズン、レーバークーゼンがスタジアム内で実況を行うという視覚障害者のための革新的な設備を整えたと知り、応援するチームを変えることになる。
シュトルさんはこのサ-ビスの恩恵を受けるだけでなく、今日に至るまで同じ障害を持つサポーターのためのアドバイスを行い、実況の向上に貢献してきた。今ではブンデスリーガおよびブンデスリーガ2部の大半のクラブが同様のサービスを実施するようになったが、シュトルさんはその実現に向けて働きかけてきた全国規模の団体に1999年から所属している。
シュトルさんはブンデスリーガのすべてのスタジアムで視覚障害者のための実況を行うよう働きかけてきた
心臓手術を経て新たなチャレンジを決意
シュトルさんは問題について定期的に話し合い、ドイツサッカーリーグ機構(DFL)にも招かれた。シュトルさんは、プレーを見ることができない人たちにどうやってサッカーを伝えるべきかをよく理解している。「サッカーは本のようなものです。すべてのパス、すべてのFK、すべてのCK……すべて本に書かれている一つひとつの文なんです。だから、すべてが実況されるべきです。試合で起こっているとおりに述べてほしいんです」。これまでの努力のおかげで、シュトルさんはレーバークーゼンのすべてのFKやCKを全国で追いかけられるようになった。
シュトルさんは今季、初めてレーバークーゼンの全試合を生で体験したが、これは人生の大きな転機を乗り越えた彼が新たに立てた目標でもあった。シュトルさんは昨年の夏に心臓の手術を受けたのである。
手術後、麻酔から目が覚めたシュトルさんは、真っ先にドイツサッカー連盟カップ(DFB杯)1回戦の結果を医師に聞いたという。そして、手術を乗り越えた後にレーバークーゼンの全試合に足を運ぶことを決意。「大変なことを経験したのだから、何かとんでもないことにチェレンジすべきだと思ったのです」
シーズンチケットを持っているホームのバイ・アレーナは、バスと電車で問題なく自宅からスタジアムまで行ける。手配が必要なのはアウェーの17試合だが、シュトルさんはどうやったらアウェー各地に行けるかと計画を練るのがスタジアムに足を運ぶことと同じくらいに好きだった。「付き添ってくれる人たちは、僕が伝えた時間に、僕が決めた場所で合流し、僕が立てた計画どおりに旅行しました」。昨季のリーグ日程もシュトルさんにとっては好都合だった。宿泊が必要だったのはミュンヘンとアウクスブルク、ハンブルクの3箇所のみ。残りのナイトゲームは試合終了後に家に戻れることが分かった。
シュトルさんは自ら遠征スケジュールを立て、同行する友人の助けを借りながらアウェーの地を訪れた
困難を乗り越えて全試合制覇を達成
電力が絶たれたり、線路に動物が立ち入ったりして電車が遅れても、シュトルさんが試合に遅れることはなかった。全試合制覇の偉業達成まで残り6試合となった第28節のライプツィヒ戦(アウェー)では、キックオフに間に合う最後の電車に奇跡的に乗り継ぐことができた。その時に「絶対に全試合に行ける」と確信したという。
もちろん、スタジアムに着いてからも決して安心していられるものではなかった。今季のレーバークーゼンは不調が続き、シーズン終盤には残留争いにも巻き込まれた。「0ー1になった時はパニックになりそうでした。心臓がドキドキしてきたんです」。シュトルさんは1ー1で引き分けた5月初めのインゴルシュタット戦をそう振り返っている。
「サポーターでいるということは、名誉を重んじること。うまくいっている時だけチームに忠誠心を示すのではなく、うまくいかなくなった時にこそクラブの一員でいることが本物のサポーターだと思います。第28節か第29節の後でチーム状況が悪くなって、『もう十分だ』と言ってしまうのは簡単だったと思います。でも、それは私らしくないですからね」
途中で投げ出すことは決してなかった。そして運命の最終節、シュトルさんはベルリンのオリンピア・シュターディオンで全試合制覇を達成。チームも6ー2の大勝でシーズンを締めくくり、6度も歓喜で飛び上がることになった。「非常に疲れました。すべてが終わってうれしい。これで少しは休めますね」
もっとも、シュトルさんの休息は新シーズンの日程が発表される6月29日まで。日程が明らかになれば、ペンと紙を取り出して、また計画を練り始めることだろう。9月には全試合制覇に同行してくれた人たちに食事をご馳走することになっているが、それと同じぐらい新たな“全国ツアー”も待ちきれないはずだ。
DFトプラク(右)との2ショット写真。シュトルさんは全国を遠征しながら様々な思い出を作った
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