9月下旬、特別支援学校の東京都立水元小合(こあい)学園(葛飾区)で開かれた企業向け見学会。参加した55社の人事担当者は、障害を持つ生徒たちの授業風景に釘付けになった。
バインダーにとじられた書類を一枚ずつスキャナーにかけ、画像データとして取り込んでいた。書類や文字の大きさから画像のきめ細かさを調整し、図表の有無などを見て白黒かカラーかを決める。伝票管理を想定した授業で、機器の操作はゆっくりだが、作業手順は自分で考え進めていく。
同校の「就業技術科」には、中学を卒業した知的障害がある生徒が通う。3年制で、今年3月に卒業した1期生70人は全員企業に採用され、「就職率100%」を達成した。
「即戦力の育成」を目指し、実践的な技術や能力を学ぶほか、資格取得のサポートも充実している。身につけた技能を就職につなげる課程が「企業実習」だ。2年生になると年2回2週間ずつ、実際に企業の職場で働く。3年生では3週間ずつになる。生徒の特性と企業側のニーズとのすり合わせが進み、就職先が決まるケースが多い。
同校を訪問する企業は一年中途切れない。背景には、企業に義務付けられる障害者の「法定雇用率」が今春に2・0%から2・2%に上がったことがある。入社後の教育が減り、労務管理の負担も軽い同校の生徒のような障害者への採用活動が過熱している。企業にとって実習先となれば、採用のチャンスが広がる。
障害者専門の就職支援会社の幹部は「3年生の就職活動は秋から始まるが、企業によっては2年生の夏の実習から生徒を囲い込むケースもある。事実上の青田買いが起きている」と明かす。
就業技術科は、都教育委員会が2007年、永福学園(杉並区)に初めて設けた。筆記試験や面接による「入学者選考」があり、当初の倍率は2~3倍超にも達した。同科は今、都内5校に広まった。
企業は、求職中の障害者にビジネスの基本を教える就労移行支援施設にも注目する。業界最大手の「LITALICO(リタリコ)」(東京)が運営する東京都北区のJR赤羽駅前の訓練施設。ビルの一室で、精神障害や発達障害を持つ20人ほどが五つの丸テーブルに分かれ、パソコンの入力作業を黙々と続けていた。ここにも「いい人材はいないか」と問い合わせが急増している。
「今後も法定雇用率が高まり、人材の奪い合いが激化すると焦っているようだ」と木之瀬友紀センター長(35)は話す。
厚生労働省の17年の調査では、企業で働く障害者は49万6千人で、比較可能な11年調査から13万人増加。ただ、18歳以上65歳未満の障害者350万人超に対し、企業で働く人は2割に満たない。
仕事を探す人も多い。就労支援施設に1年半前から通う精神障害の男性(23)は対人コミュニケーションに不安を抱える。施設の訓練で少しずつ克服してきたが、事務職を募集していた企業に面接で断られた。「いい条件の会社は競争率が高く、入りにくいです」
都内のハローワーク職員によると、企業が求める人材は比較的軽い身体障害者や知的障害者に集中し、程度が重い障害者や調子を一定に保つのが難しい精神障害者が働ける職場の求人は少ない。「障害者の多くは取り残されている」と打ち明ける。
9月下旬、特別支援学校の東京都立水元小合(こあい)学園(葛飾区)で開かれた企業向け見学会。参加した55社の人事担当者は、障害を持つ生徒たちの授業風景に釘付けになった。
バインダーにとじられた書類を一枚ずつスキャナーにかけ、画像データとして取り込んでいた。書類や文字の大きさから画像のきめ細かさを調整し、図表の有無などを見て白黒かカラーかを決める。伝票管理を想定した授業で、機器の操作はゆっくりだが、作業手順は自分で考え進めていく。
同校の「就業技術科」には、中学を卒業した知的障害がある生徒が通う。3年制で、今年3月に卒業した1期生70人は全員企業に採用され、「就職率100%」を達成した。
「即戦力の育成」を目指し、実践的な技術や能力を学ぶほか、資格取得のサポートも充実している。身につけた技能を就職につなげる課程が「企業実習」だ。2年生になると年2回2週間ずつ、実際に企業の職場で働く。3年生では3週間ずつになる。生徒の特性と企業側のニーズとのすり合わせが進み、就職先が決まるケースが多い。
同校を訪問する企業は一年中途切れない。背景には、企業に義務付けられる障害者の「法定雇用率」が今春に2・0%から2・2%に上がったことがある。入社後の教育が減り、労務管理の負担も軽い同校の生徒のような障害者への採用活動が過熱している。企業にとって実習先となれば、採用のチャンスが広がる。
障害者専門の就職支援会社の幹部は「3年生の就職活動は秋から始まるが、企業によっては2年生の夏の実習から生徒を囲い込むケースもある。事実上の青田買いが起きている」と明かす。
就業技術科は、都教育委員会が2007年、永福学園(杉並区)に初めて設けた。筆記試験や面接による「入学者選考」があり、当初の倍率は2~3倍超にも達した。同科は今、都内5校に広まった。
企業は、求職中の障害者にビジネスの基本を教える就労移行支援施設にも注目する。業界最大手の「LITALICO(リタリコ)」(東京)が運営する東京都北区のJR赤羽駅前の訓練施設。ビルの一室で、精神障害や発達障害を持つ20人ほどが五つの丸テーブルに分かれ、パソコンの入力作業を黙々と続けていた。ここにも「いい人材はいないか」と問い合わせが急増している。
「今後も法定雇用率が高まり、人材の奪い合いが激化すると焦っているようだ」と木之瀬友紀センター長(35)は話す。
厚生労働省の17年の調査では、企業で働く障害者は49万6千人で、比較可能な11年調査から13万人増加。ただ、18歳以上65歳未満の障害者350万人超に対し、企業で働く人は2割に満たない。
仕事を探す人も多い。就労支援施設に1年半前から通う精神障害の男性(23)は対人コミュニケーションに不安を抱える。施設の訓練で少しずつ克服してきたが、事務職を募集していた企業に面接で断られた。「いい条件の会社は競争率が高く、入りにくいです」
都内のハローワーク職員によると、企業が求める人材は比較的軽い身体障害者や知的障害者に集中し、程度が重い障害者や調子を一定に保つのが難しい精神障害者が働ける職場の求人は少ない。「障害者の多くは取り残されている」と打ち明ける。
水元小合学園では、大手自動車メーカーのノウハウを導入し、生徒がネジやナットを検品する技術を学ぶ授業もある
2018年10月4日 朝日新聞