中央省庁による障害者雇用の水増し問題をめぐり、国の検証委員会が調査結果を公表した。国の行政機関での不正は約3700人にのぼり、地方を合わせた過大計上は約7500人に達した。
数合わせを優先し、半世紀以上も違反を続けていた省庁もある。障害者雇用制度に対する無理解に加え、前例踏襲で済ませていた規範意識の低さが露呈した。
障害者雇用に率先して取り組むべき立場の行政機関が、自ら不正を働いていた事態は国民に対する重大な裏切りだ。
民間企業は障害者の法定雇用率を達成できなければ、国への納付金を徴収されるが、政府には違反した場合の罰則はない。そうした仕組みの下で政府は企業を指導できる資格があるとは思えない。
退職者や視力の低い人なども障害者として水増ししていた。なかには鬱病と自己申告した人も計上し、法定雇用率を満たしているようにみせていた。極めて杜撰(ずさん)な運用にあきれるばかりだ。検証委が「恣意(しい)的な解釈やルール理解の欠如があった」と批判したのは当然である。
厚生労働省では今後、再発防止に向けて省庁向けの手引をつくり、複数の職員で障害者手帳をチェックするなどの体制をつくるという。そんな当たり前の手順すら実施されていなかったことにも驚く。行政機関に対する徹底した点検体制の整備も欠かせない。
過大計上が広がっていた背景には、行政が障害者雇用制度の趣旨を理解していなかった点がある。障害の有無に関係なく誰もが尊厳を持って働ける社会を構築するのが本来の狙いである。その趣旨が徹底されなければならない。
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国に課されている法定雇用率を満たすため、政府は来年末までに約4千人の障害者を新規に採用する予定だ。今度こそ数合わせではなく、障害のある人が働きやすく、同時に定着できる職場づくりも問われる。行政機関は短時間勤務なども含めて多様な働き方を提示しなければならない。
今年度から障害者の法定雇用率が引き上げられた。身体障害だけでなく、知的、精神障害のある人の雇用が求められている。一方で少子高齢化が進み、民間企業では人手不足に直面している。官民とも障害者の受け入れ態勢を積極的に整備し、個々の特性を発揮できる環境を構築すべきだ。
2018.10.28 産経ニュース