中央省庁や県内の自治体などで水増しが問題となっている障害者雇用。県内の企業は30年前から、障害者雇用率が常に全国平均を上回るなど、熊本は民間の障害者雇用の“先進県”だ。
熊本市西区の熊本地方卸売市場(田崎市場)にある「西九州ハートフルサービス」選果場。コンテナからナスを取り出し、傷や色合いをチェック。1本当たり1、2秒で4等級に分ける。熟練のパート女性に交じって知的障害のある福本真也さん(29)が働く。
同社は、青果卸の熊青[ゆうせい]西九州青果(同市)が、障害者雇用のために9年前に設けた。従業員65人のうち25人が障害者。同青果グループ全体の障害者雇用率は民間の法定雇用率2・2%を大きく上回る約18%に上る。
設立から3年間支給された障害者雇用助成金や、その後、法定を超えて雇用している障害者1人当たり月2万7千円支払われる調整金といった国の支援もあり、子会社単体でも経常利益を確保し続けている。
「障害のある人が長く働けるのがうちの特徴」と管理部長の田原[たばる]昌昭さん(76)。福本さんは勤めて9年目。「最初は失敗も多かったけど、今は集中して作業できます」
同じく9年勤める松村透さん(50)は、選果のほかに車で農家を回っての集荷などもこなす。以前は、精神障害を隠して自動車販売会社に勤めていたが長続きしなかった。「ここは、体調が悪い時も周囲が理解してくれることが大きい」
県内の民間企業の障害者雇用率は、過去30年間、常に全国平均を0・2~0・3ポイント程度上回っている。2017年は0・27ポイント上回る2・24%で、全国12位。熊本労働局は「昔から障害者を受け入れる企業風土があるようだ」と分析。支援する民間ネットワークの活動も活発だという。
合志市にある運輸・物流の「共同」は、障害者と健常者が共に働きながら、働きやすい職場づくりを目指している。レストランにも業務を拡大し、人気のママトコキッチン(菊池市)も経営する。
同社が障害者を雇用し始めたのは02年。山下敏文社長(66)が本社近くの作業所で働く障害者の「仕事へのひたむきさ」に触発されたからだという。社員262人のうち32人が障害者で、雇用率は約16%。
同社の三つの物流センターでは、障害者の作業ぶりを見て動線を変え、音声で指示が出るシステムを導入するなどの工夫を重ねている。「一緒に働いていて気付かされることも多く、健常者も働きやすくなる」と松橋物流センター(宇城市)の濱田健智センター長(30)。精神障害がある中間健太さん(37)は「5年、10年とこの会社で働き続けたい」と思いを語った。(社会部・太路秀紀)
(2018年10月24日付 熊本日日新聞朝刊掲載)