「失業手当が切れて、冷蔵庫は空っぽ。就職も思ったところには決まらず、追い詰められた気持ち」。昨年七月下旬に閉鎖した名古屋市北区の就労継続支援A型事業所(A型)「パドマ」で働いていた女性(58)が漏らす。脳性まひで脚が不自由な女性の車いすを押しながら、元職員の女性(70)は「問題は終わったと思われているけれど、今の方が生活がずっと厳しい人もいるんです」と付け足した。
元職員の女性は二〇一四年から、パドマで内職する障害者(利用者)を支援していた。パドマが閉鎖された直後から、聴覚や精神に障害がある元利用者たちの再就職先探しを手伝っている。自腹で交通費を払ってハローワークに同行し、炎天下でも他のA型の見学や面接に一緒に行った。
手伝った中では七人の再就職が決まり、自身も五月中旬から同市内の別のA型に勤務している。しかし「信頼関係を築いた障害者が困っているのに、自分だけのうのうとしていられない」という気持ちが、支援に駆り立てる。
パドマを運営していた同市北区の企業「障がい者支援機構」は、パドマのほか愛知県清須市など全国五カ所でA型を経営しており、同県内では計六十九人が解雇された。愛知労働局によると七月現在、働く意思があって再就職先が未定の人は十二人。他のA型や一般企業に転職した人もいるが、新たな職場に定着できなかった人や、体調不良などで職探し自体ができない人もいる。中には、だれとも連絡を取らず、どうしているのか、だれも分からなくなってしまった人もいる。
障害者向け作業所の全国組織「きょうされん」などが昨年十月に設立した「A型問題の被害者を支える会あいち」は、孤立しがちな障害者らの現状の把握に努めている。未払い賃金の一部を国が立て替え払いする制度の利用手続きなども手伝っている。しかし、制度の知らせを送っても反応がない人もいる。
元職員の女性も支える会に参加しているが「登録された番号以外からの電話には出ない人もいる。立て替え払いの手続きの支援などは行政はしないので、支える会がやるしかない。行政も事業者も、後始末はすべて丸投げ」と憤る。
元利用者の女性も一年間、A型で職を探したが、見つからなかった。パドマでは出勤や退社の時間、勤務日数などうるさいことは言われなかったが、就職活動で訪ねた事業所から「通院して休んだ分は残業して埋めて」などと求められることもあり、自信を失った。
十月から、一人暮らしの自宅近くのB型に通い始めたが収入が心配だ。B型では毎日通っても月収は二万円ほど。月約六万五千円の障害年金が支給されるが、家族に頼らざるをえない。「パドマを選んで、そこになじんでしまった自分のせいかもしれないが、他のA型でもパドマと同じように勤務できないものか」
パドマなどの閉鎖は、国の給付金目当ての事業者が増えたとして、国が給付金を障害者の給与に充てないよう指導を強化したのが発端。国は各A型が自力でもうけを出すよう働きかけており、体調などの問題で安定して働きづらい障害者がA型と雇用契約を結びにくいとの声も上がっている。
元職員の女性は言う。「A型で働きたくてどれだけ無理しても、雇ってもらえない人も出てくる。今回の一斉解雇で、多くの障害者が困ったこと、今も困っている人がいることを忘れられないよう、声を上げ続けるしかない」
車いすの女性の就職相談に乗る元職員の女性(左)
2018年10月18日 中日新聞
障害がある人たちが福祉事業所でつくった新製品のコンクールが17日、静岡市葵区呉服町の障害者働く幸せ創出センターであった。NPO法人「オールしずおかベストコミュニティ」の主催で21回目。今年は県内52事業所から雑貨や食品、縫製品、陶芸、木工など87点が出された。
食品部門で県知事賞に選ばれたのはNPO法人こころの「さがら作業所」(牧之原市)が出品した「米粉と梅の和パウンド」。作業所の利用者が収穫した無農薬の梅でシロップを作って甘みを付け、小麦アレルギーの人も食べられるように米粉で生地をつくった。
葵区にある知的障害者の作業所「ラポール安倍川 たまち」の「おりエコモップ」は、雑貨部門で県健康福祉部長賞を受賞。アクリル毛糸で織った布にボタンを付け、使い捨てシートで床を拭くモップに取り付けられるようにした。布はほこりを取り、洗って何度でも使える。
受賞作は市内のデパートなどで展示販売する。オールしずおかベストコミュニティの鈴木良夫事務局長は「授産製品には手作りのぬくもりがあり、アイデアやデザインに優れたものが多い。広く市民に知ってもらいたい」と話した。
コーヒーの麻袋にヒノキチップを入れたシューキーパーなど、デザイン性のある雑貨が並んだ
2018年10月18日 朝日新聞
障害がある人が持つ「身体障害者手帳」と「精神障害者保健福祉手帳」が来年度から、希望者にはカードで交付されるようになる。紙製より耐久性があり、持ち運びに便利なカードへの変更を求める声が上がっていた。厚生労働省が、社会保障審議会の部会の了承を得た上で、政令を改正する。
両手帳は身体障害者福祉法と精神保健福祉法に規定され、政令で様式が決められている。本人の申請を受けて都道府県や政令市などが交付し、取得者は電車やバスなど公共交通機関の料金割引や所得税控除などの優遇措置を受けられる。2016年度末時点の取得者は身体障害者手帳が約515万人、精神障害者保健福祉手帳が約92万人。
カードへの記載項目は氏名や住所、障害の程度などを想定している。カードを希望しなければこれまで通り紙製の手帳を交付する。
知的障害者に交付される「療育手帳」は、国の通知に基づいて都道府県や政令市が独自の体裁で発行できるため、既に一部の自治体がカード化している。
射場さんと次男の奏佑君
毎日新聞 2018年10月18日
高齢や障害などでごみ出しが難しい世帯が増えている。何らかの支援が受けられない場合、“ごみ屋敷”など深刻な事態にもなりかねない。市内では、市やNPOがごみ出し支援に取り組むが、対象者の増加などで支援の在り方が課題になっている。1人暮らしの高齢者が多く、坂道などでごみ出しがしにくい地域もある神戸。これでいいの? (石沢菜々子)
灘区の集合住宅に暮らす女性(64)。病気のため手足が不自由で、NPO法人のごみ出し支援サービスを利用している。毎週月曜、可燃ごみの入った袋を自宅前にあるメーターボックスの中へ。それをNPO法人のスタッフが回収し、敷地内にあるごみ捨て場まで持って行く。
費用は1回200円。多少費用がかかっても生活に欠かせない。当初は手押し車にごみ袋を乗せて自分で捨てようとしたが、体調の悪い日もあり、決められた時間内に出すことが難しかったという。
周囲でごみ出しに苦労する高齢者世帯を見かけるという女性は「宅配で買い物はできても、捨てるのが大変。支援がない場合、『ごみを出さないように』と食べる量を減らすことにならないか」と危惧する。
■支えるNPO
女性のごみ出しを支援するのは、灘区で高齢者向けコミュニティーハウスを運営するNPO法人「花たば」。7年前から続けている有償ボランティア活動で、高齢者や障害のある人ら約40人をごみ出しサポーター約30人が支えている。
利用料200円のうち、ボランティアとNPO法人で100円ずつ受け取る。「わずかでも、手伝ってもらう人と手伝う人が対等の関係になれる仕組み」(須見恭子理事長)だが、利用者とサポーターを調整するコーディネーターの人件費などはまかなえず、ほかの事業で支えているという。
玄関先でごみ袋を受け取る市の「ひまわり収集」を利用できるのは、高齢者の場合、原則要介護度2以上の独居高齢者。夫婦で暮らしていることなどを理由に対象外となり、花たばが支援を始めたケースもあった。
約束の日にごみが出ていなかったことから、ベッドから起き上がれなくなっていた人の発見につながったことも。支援を機に庭仕事などごみ出し以外の困りごとを手伝うことになった人もおり、須見理事長は「ごみ出しは住み慣れた地域で暮らすための『入り口』のようなもの。ごみの問題だけでなく、生活支援という視点で考える必要がある」と訴える。
■課題
花たばのメンバーは、支援継続の課題について、採算性に加え、人材確保の難しさを挙げる。灘、中央区を対象にしているが、地域によってサポーターの人数に偏りがあり、調整に苦労する。事務所スタッフがやむを得ず前の日に回収することも。各自の自宅に持ち帰って捨てたり、1人で何カ所も回ったりして、なんとか対応してきた。
最も支障になっているのが、「収集日当日の朝5~8時」となっている市のごみ出しルールだ。サポーターは基本的に7時半ごろ家を出なければならない。通勤や朝の家事などが忙しい時間帯と重なり、協力者を確保しにくいという。
では、どんな改善策が考えられるのか?
須見理事長は「例えば、ごみ出しの時間を『朝9時までに出す』と変更できないか。介護ヘルパーの活動時間とも重なり、ヘルパーに頼むことができる人が増えるはずだ」と指摘する。メンバーからは「うっかりごみを出し忘れてしまう高齢者も少なくない。設置数は少なくても、(支援者が)いつでもごみを出せる場所があれば助かる」との声も出た。
2018/10/18 神戸新聞NEXT