さいたま新都心にある県立小児医療センター二階の受付窓口の向かいに、小さな売店がある。昨年オープンした「おかし屋マーブル」だ。「プロに教わった福祉作業所が、おいしくてかわいいクッキーを作っている」。店舗を運営するNPO法人「クッキープロジェクト」(さいたま市大宮区)代表理事の若尾明子さん(44)=新座市=が笑顔で話す。
店の一番人気は約四十種類のクッキーで、ヘアゴムなどの雑貨も並ぶ。県内各地の福祉作業所で働く障害者の手作りだ。
小児医療センターには重い病気の子が通院、入院している。患者の子どもとクッキーや雑貨を買いに来る父母からは「診察を頑張ったご褒美ね」「家で待っているお兄ちゃんのお土産に」との声も。そんな来店者が、作業所の障害者や職員の働きがいを高めている。
若尾さんは大学卒業後、NTTの関連企業に就職。退職後の二〇〇四年、まちづくり支援のNPO法人「ハンズオン埼玉」を仲間と設立し、活動の一つが「クッキープロジェクト」だった。「多くの福祉作業所がクッキー作りをしている。ただ、味や包装が、いまひとつの物もある。家族や知人しか買ってくれていないのでは」。そこで「誰かにプレゼントしたくなるクッキー」を合言葉に、作業所の職員らを対象に講座を始め、講師にはホテルのシェフやデザイナーらを招いた。
大きな成果が出たのは〇八年。JR浦和駅前の「浦和コルソ」でクッキーの販売会を初めて開くと、レジに行列ができるほど人気を呼んだ。用意した二千個は二日間で売り切れた。
間もなくプロジェクトは、ハンズオン埼玉から独立した。若尾さんは仲間と一〇年に同名の団体を設立。年一回のクッキー販売会を続けながら、ユニークな卓球大会も始めた。障害者と健常者がスリッパで卓球ボールを打ち合い、楽しみながら交流するイベントだ。
おかし屋マーブルの出店は、小児医療センターの公募で決まった。今は約四十カ所の作業所が商品を納める。レジ打ちや商品管理の仕事はボランティアの学生や主婦のほか、作業所の障害者が加わることも。センターの患者や家族、医療スタッフ向けの売店ではあるが、電話などで大量に注文してくれる企業が増えた。
「障害のある人もない人も『まぜこぜ』になって力を合わせれば、地域社会を豊かにできる」。おかし屋マーブルは、そんな願いを実践できる場になった。「病院外にも常設店があれば、もっと多くの人がかかわれる」。次の目標は二号店のオープンだ。
<わかお・あきこ> 新座市在住。日本女子大卒。2016年にNPO法人「クッキープロジェクト」を設立し、代表理事に就任。17年1月、県立小児医療センター(さいたま市中央区)の院内施設として「おかし屋マーブル」を開店した。同店などについての問い合わせは、クッキープロジェクト=電048(700)3165=へ。
「おかし屋マーブル」の店内で売られているクッキー 「お店に来てくれた方が、少しでも元気に なってくれればと話す若尾さん
2018年10月8日 東京新聞