国や企業などに雇うよう義務づけている障害者の割合「法定雇用率」は、障害者雇用の拡大に一定の役割を果たしてきた。しかし、今では「数字ありき」で達成を目指す動きもあり、障害者それぞれの特性をいかした働き方が企業に根付かない要因にもなっている。
じょうろを両手で持った40代の男性が、トマトの区画にゆっくりと水をまく。キュウリの区画では、30代の男性がプラスチック製のスコップで、土に残った根っこを掘り返していた。
32棟のビニールハウスが並ぶ千葉県船橋市の「わーくはぴねす農園」。地元の障害者96人が週5日働き、月10万円を受け取る。この給料を払うのは農園ではない。ハウスを借りる民間企業が雇用しているためだ。その多くは東京都内に本社を置く東証1部の大企業やその子会社で、障害者の農作業は本業と関係がない。
農園を運営するのは人材紹介会社「エスプールプラス」(東京)。同社がハウス1棟あたり3人の障害者を紹介。企業は1棟ごとに月24万円の賃借料も払う。
企業がそうまでするのは、「障害者雇用を増やせるサービス」(採用担当者)だからだ。
企業の法定雇用率はいま2・2%。達成できないと、不足人数1人あたり月5万円の納付金を国に支払わねばならず、社名を公表される可能性もある。
法定雇用率が2013年と今春に0・2ポイントずつ断続的に上がったことで採用のハードルも上がり、同社のサービスを利用する企業は急増。5年で5倍増の200社になった。農園は千葉県と愛知県に計12カ所、総面積は東京ドーム約4個分に広がっている。
中小企業も厳しい事情は同じ。ただ、法定雇用率を達成できなくても、国の「特例」が適用されるケースもある。兵庫県姫路市にある建物では連日、精神障害者ら数人が近くの養鶏場から仕入れた卵をパックに詰める作業をする。地元のNPO法人の事業所が雇うが、全く雇用関係がない別の企業の雇用率を底上げしている。「事業協同組合等算定特例」のためだ。
卵のパック詰めをNPOに委託する「ひょうご障害者福祉協同組合」は15年に発足。国から特例の認定を受けている。認定されると、組合に加入する企業・団体を「一つの法人」と見なして障害者雇用率を算出できる。組合として法定雇用率を超えれば、自社で雇用率を下回っていても納付金を支払わなくてよい。
この組合では中小企業4社とNPO1法人が特例の対象で、社員・職員は計約1600人。うち障害者は約50人で雇用率は3・3%だ。4社はいずれも単独では法定雇用率未達だが、NPOが障害者を27人雇っているため組合の雇用率を押し上げている。
このうち1社では、働く障害者が1人だけで雇用率は0・4%。特例の対象になるには組合内の障害者が作る製品などを年間60万円分買う要件があるが、男性役員は「雇用を増やしたいが、中小企業は仕事の種類が少なく、障害者に任せられる作業が限られる」とする。
障害者の特性は様々だが、雇用率に算入できる人は「週20時間以上の勤務」などの決まりもある。東京大学先端科学技術研究センターの近藤武夫准教授は「障害者の能力を生かすため、労働時間が短い人の雇用も認めるなど選択肢を増やすべきだ」と指摘する。
◇
この連載は、内山修、土屋亮、村上晃一、本田靖明、滝沢卓、志村亮、千葉卓朗が担当しました。
エスプールプラスの農園で働く障害者
■ご意見は、keizai@asahi.comまで。
2018年10月5日 朝日新聞