2005年に発達障害者支援法が施行され、人気モデルの栗原類やパリス・ヒルトンが発達障害だと公表したこともあり、発達障害がメディアで取り上げられることが増えている。半面、誤解や誤診も多い。
「空気が読めなかったり、同じ失敗を繰り返したりする身の回りの“困った人たち”をそれだけで発達障害ではないかと誤解したり、専門家でも社会を震撼させた重大な殺人犯を一面だけみて発達障害だと誤診しているケースもあるんです」
本書は、発達障害の臨床研究第一人者の著者による発達障害の解説書。多くの事例を紹介しながら、周りの対処法や最先端の治療法を紹介している。
発達障害という言葉が独り歩きしているため、ひとつの疾患名のように思われているが、ASD(自閉症スペクトラム障害)やADHD(注意欠如多動性障害)などの疾患の総称である。

昭和大学付属烏山病院の岩波明院長(C)日刊ゲンダイ
「アスペルガー症候群はASDの中の軽い疾患、自閉症はASDの中の重い疾患のことなんです。広い意味では発達障害には知的能力障害(精神遅滞)やコミュニケーション障害も含まれます。これらを合併している患者もいるので誤解されやすく、専門家でも診断を誤ってしまうんですね」
発達障害は生まれつきだが、成人してから発症するという誤解も多い。子供の頃から発症しているが、成績優秀でおとなしいとあまり問題視されないまま成長し、社会に出て行くためだ。
「私の患者は20、30代が多いですが、その年代になって初めて発症したわけではありません。学生時代は“変わっている”と思われていただけだったのが、就職や結婚をしてから、周囲と不適応を起こし、自ら、または周りに勧められて初めて受診する。それで、就職や結婚をする20、30代の患者が目立つんです」
整理や片づけができない、約束を守れないなどは誰にでもある事柄だけに、自分や周囲が「発達障害のためにできない」と理解していないと、「怠けている」「バカにしている」と誤解され、家庭や職場でうまくいかなくなる。本人は自信を失い、転職を繰り返したり引きこもり、うつ病になったり、離婚したりして孤立していく。
「ASDやADHDには学歴やクリエーティビティーが高い患者が多いんです。作家のアンデルセンやルイス・キャロルはASDだったのではないかといわれています。だから、ネガティブに捉えず、彼らの能力を生かす対応法を知り、社会の一員として受け入れないともったいない」
たとえば、個人の能力が問われるアーティストや弁護士などの専門職は、障害があっても能力でカバーできるので才能を発揮できる。ADHDの患者は同時並行の仕事を振られるとパニックを起こし失敗するが、周囲が仕事をひとつずつ振る工夫をするだけでうまくやれるのだ。
著者の勤務する大学病院の発達障害外来では、デイケア治療を受けて社会復帰できた患者が、障害者雇用を含めると、3年間で3~6割に増えたというデータがある。
「とくに、患者同士で話し合うことがよいようです。患者は安心できるし、ほかの人がやっている対策を知り、自分なりの対策を考えられますから。もともと知的能力が高い患者が多いので、吸収は早いですね」(文藝春秋 820円+税)
▽いわなみ・あきら 1959年、横浜生まれ。東京大学医学部卒業後、都立松沢病院などで臨床経験を積み、約10年前から成人期の発達障害に注力。2012年、昭和大学医学部精神医学講座主任教授に就任し、15年、同大学付属烏山病院長兼任となり日本初のADHD専門外来を担当している。
2017年6月29日 日刊ゲンダイ