黒澤明監督の名作「生きる」をベースにした本作
脚本を書いたカズオイシグロはイギリスにあって 10代の時には黒沢映画を観て影響されたそうだ
長じてこの作品を製作したくなり 再度一度だけ「生きる」を観て独自の英語の脚本を書き上げたらしい
時代背景も同じ1950年代
日本は戦争に敗れ 一方のイギリスは戦勝国
日本の主人公はうらぶれた帽子にマント 髭ずらの役人
イギリス版は山高帽を被りピンストライプの上下背広をピシッとキメた役付役人という設定
医師から余命半年と宣告され 一旦は落ち込み途方に暮れるが
生ける屍のごときゾンビのままで終わるを良しとせず
事なかれ主義の役所内にあって身を挺して小さな公園をつくる というストーリーは同じだ
雪の降る公園のブランコで「ゴンドラの唄」を歌うシーンは名場面だけれど
本作にも同じシーンがでてくるが 歌は「ゴンドラの唄」ではなく 受ける印象は一寸違う
伊藤雄之助の顔がちらちらと思い出されたが あの一連のシーンは黒沢作品の方が味があると思う
白黒とカラー その他諸環境の違いを超え 死を目前にした主人公が死を背負って 短くも輝いた生を描いた映画としては やはり黒澤作品に共感を覚える
背景に流れる音楽はいいと思う この作品のために作曲したのかどうかは知らないが ジャズっぽい音楽や主人公が酒場で歌うスコットランド民謡など胸に沁みた
2022年製作 103分 イギリス
原題:Living
主人公:ビル・ナイ 監督:オリバー・ハーマナス 脚本:カズオ・イシグロ