言葉のクロッキー

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映画 『 斬 』

2018-11-25 | 映画 音楽
「太平の世が揺らぎはじめた幕末。 人を斬ることに苦悩する一人の侍。生と暴力の本質を問う。」という作品。
塚本晋也が監督・脚本・撮影・編集・製作を手掛け、自らも重要な役どころを演じた作品。
日本刀が主役なのかもしれない。真っ赤な火のなかで鍛錬されて出来上がる刀。青々と冷たく光る刀身。鋭く空気を切り裂く刃音。刃と刃が強烈にぶつかり合い、こすれ合う刃音。その刃が人を斬る。大根を斬るようにあっさり斬り飛ぶ腕。切り裂かれた胴体から噴出する血潮。断ち割られた額。血まみれになった手足。塚本が演ずる剣豪は、剣の暴力性を遺憾なく発揮するが、主役の若い武士は、凄腕なのにもかかわらず人を斬れない。世話になった村の人達が夜盗に惨殺され、剣を教えた若者が殺され、村人に成敗を懇願されても、憎しみこの上ない夜盗達を斬れない。幕末の動乱のとき、人を斬ることに迷いがあったら自らが斬られることになるか、鉄砲の餌食になるくらいしかない貧乏な侍なのだけど、この映画は物語はどうでもよく、刀を縦横に扱えるにもかかわらず、刀の目的たる人を斬ることに恐れを抱く、苦しみ悩むことに照準があるように思う。釣り書きの通りと思う。
映画はそういう内面の葛藤、屈託、迷いのようなものを、舞台の演劇のように表現する。鬱蒼と茂る林の中で、またのどかな田園風景をバックにして、また夜盗達を目の前にして「どうする、どうしたらよい、どうしたらこの心の怒りをぶつけることができるのか・・・」悩む。しかし遂に人を斬る。同志を集めていた剣豪は、誘った若者が離反したことを知り、切り捨てようと若者に迫るが、若者は必殺の刃を振るい剣豪を倒す。しかし生き残った喜びもなく、なお苦しみから逃れようもなく悄然とした姿を残し映画は終わるのだ。
時代劇とはいえ、セリフは全くの現代語、標準語なので、違和感がある。しかし主役の池松壮亮、蒼井優は自然を舞台にして剣にまつわる苦悩を熱演したと思う。
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