横須賀総合医療センター心臓血管外科

お気軽にコメントいただければ、一般の方の質問にも心臓血管外科専門医が答えます。

急性大動脈解離におけるオープンステントのサイジング = 真腔の長径

2019-06-12 05:01:17 | 大動脈疾患


急性大動脈解離の緊急手術において、横須賀市立うわまち病院では救命を優先するために、過大侵襲は行わず出来るだけ短時間に手術が終わるような工夫を最大限行っています。これは大動脈解離を発生させる原因となった最初の大動脈内膜の裂け目(エントリー)を切除する範囲で人工血管置換することで、置換範囲を最小限にすることでもあります。横須賀市立うわまち病院を含む自治医大さいたま医療センター心臓血管外科のグループでは一貫してそうした手術方針を行うことで、国内でもトップクラスの救命率を保ってきました。すなわち、エントリー切除が出来るならば弓部分枝を再建せずに上行大動脈置換で手術を終える、ということです。当グループでは約8割の患者さんで、急性大動脈解離に対する術式を上行大動脈置換術としています。昔は上行大動脈置換術と言っても5時間以上を要するのが普通でしたが、最近では人工血管の進歩、ノウハウの蓄積などで、平均の手術時間は3時間ちょっととなり、昔の半分で済む、ちょっとした手術といえるようになってきました。

施設によっては特に若い患者さんには全例、弓部大動脈置換術を行う、という積極的に拡大手術を行うところもあります。結果的に救命率には有意差はない、ということで、後々の憂いをなくすことに重きをおいて弓部置換を行っているところもあります。これだと、やはり5時間くらいは速くてもかかってしまいますし、今週の緊急手術は7時間弱かかり、翌日のスタッフへのダメージが大きいものとなります。

出来るだけ上行大動脈置換の術式を採用して、3時間で手術を終え、早くあがりたい、こんな風な心理で緊急手術に臨むことが多いのですが、エントリーが弓部にあったりして、弓部置換を行わざるを得ない症例もあります。こうした症例の多くは最近は遠位側の真腔にFrozen Elepahnt trunk(オープンステント)を入れることが多くなっています。
オープンステントを入れる際のサイジング、これはステントが入るDistal Endの真腔の長径のサイズを選択しています。長さは基本的に60mmと短くすることで、対麻痺のリスクを少しでも少なくしたいと考えています。最近は60mmの長さでは、角度的にオープンステントが内膜を押して新たなエントリーを作ってしまうSINE(サイン = Stentgraft Induced New Entry)という現象が起こるリスクがあるので、90mmを採用するところもある、と聞いていますが、やはり少しでも短い方が気持ち的に安心です。
ステントグラフトの内径に関しては、他に、短径と長径の平均の1割増し、だとか、トレースした内膜の円周を3で割ったもの、などを採用する施設もあるようですが、結果的にはほぼ同じ数値になるそうで、最もシンプルな長径とすることで、緊急手術中の無駄な混乱を防ぐ目的ともしています。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

かならず朝は来る!

2019-06-12 04:34:19 | 心臓病の治療
 とかく夜間に緊急手術をしていることが多い心臓血管外科では、特に朝3~4時くらいが一番つらい時間帯です。この時間帯の多くは、手術の内容としては、止血の時間帯が多く、一連の手術操作が終わり、出血がなかなか止まらずに圧迫などして時間が経過している時間帯、そんなイメージが心臓血管外科の夜間の緊急手術です。

 こんな時、自分たちを奮い立たせる、というか、頑張るためのフレーズ = 「必ず朝は来る!」です。

この内容のフレーズで同等のものとして
「開けない夜はない」
「やまない雨はない」

などもあります。これは手術の止血に限らず、つらい時期があっても、その時期を耐え忍べば、かならずその時間帯は過ぎ去って、いい兆しが見えたり、解決に向かうものだ、ということを信じて耐え忍ぶんだ、という信念をもった合言葉でもあります。

最近、後輩が現在のつらい状況について相談にきましたが、話を聞いていると、まさに今の状況はこれに少し似ています。今まで頑張って発展のために尽くしてきて、実績という形でその成果も見られるにも関わらず、他のことで足元を容易に救われてしまい、日常の仕事も継続できなくなることの危機に陥ってしまうことがあります。つらいときがあってもすぐに投げ出さずに、嵐が去るのをじっと耐え忍ぶことも時には必要です。その耐え忍ぶ時期も、有効に時間を使うことができればさらにいいとは思います。そんな感じのアドバイスをしたつもりです。

しかしながら、現実は非常に厳しい、どこにリスクが潜んでいるかわからない、こんな世の中では、まず、初めから足元をすくわれるような状況に陥らないことが重要です。
また、移動などに関しても、次に移動するするステップにはリスクがつきものです。移動先が盤石な体制なら問題ないですが、移動先が突然なくなったり、移動するつもりが受け入れられず、また移動する前の部署にも戻れない、いわゆる梯子を外された状況に人生陥るリスクというものが人生には存在します。

最近、こうした家族も路頭に迷うかもしれない、仕事を失い行き先もない、こうした状況になりかかってからの相談を受けることが今年になってから数件、立て続けに起きてしまい、早急に受け入れてくれる移動先を紹介したり、また移動を思いとどめるようにアドバイスしたり、これから移動先を知人に相談する予定の人もいます。立場上、危機に陥っている人に相談をうける年齢になったということかもしれませんが、常々思うのは、自分がそうなったときにどこに避難するか、誰を頼るか、仕事を失ってもしばらくは耐えていけるかどうか、など危機管理について具体的に考え、備えをしておくということが重要なのだと思います。備えあれば憂いなし、これはそういう危機管理意識があれば、初めから危機に陥る前に自然と予防され危機自体に陥ることはない、ということでもあると思います。

また、組織の中で、複数の部署で火の手があがり、人員の制限もあって、消火すること自体が困難な状況に陥った場合、この場合は健常な部署に影響が来ないように、この場合も、新たな火の手が上がらないようにじっと耐えることが重要と思います。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする