横須賀総合医療センター心臓血管外科

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TAVIとSurgical AVR(SAVR)の比較 = 効率としてはTAVIはSAVRの1/3

2019-06-20 06:20:35 | 心臓病の治療
 開胸して心停止下に行う従来の大動脈弁置換術(Surgical AVR = SAVR)に対して、最近症例数が増加している経カテーテル的大動脈弁置換術(TAVI = Transcatheter Aortic Valve Implantation)は、低侵襲で、通常の弁置換術がリスクが高くて困難な患者さんにも適応できる画期的な方法です。特にヨーロッパに関しては、患者さんの嗜好によってTAVIが選択されることが増加し、最初はハイリスク症例に限って行われたTAVIも、現在は中程度のリスク、また低リスクの症例にも実施されるようになり、最近は低リスクの症例に行ったTAVIにおいても従来の弁置換術と成績は変わらない、との論文もメジャーな医学雑誌に掲載されるまでになっています。
 
 日本においては心臓血管外科と循環器内科、その他の職種も加わったハートチームで適応を協議し、従来の弁置換術を行うには危険性が高い症例に限って行われているはずですが、最近は患者さんの嗜好なども加わって、歯止めがかからずにどんどんTAVIの症例が増加しているようで、とうとう2018年はTAVIの件数が、単弁の大動脈弁置換術の件数を超えたそうです。
 しかしながら、ハイリスク患者においてもTAVIとSVARの成績(死亡率や合併症の発生率)は変わらないとも言われています。

 今後、ますます低リスクの症例に適応されていく傾向になると思われますが、通常の弁置換術の入院・手術の費用が約400万円であるのに対し、TAVIは挿入するデバイスの値段だけで480万ほどもかかり、入院・治療費は弁置換術の1.5倍の約600万円かかります。しかも、人工弁置換した場合は最近は20年くらいはもつと言われているのに対し、TAVIは何年もつのかというと、同じような生体弁にもかかわらず、10年以下ではないか、と一般に言われており、1.5番のお金をかけて、弁置換の半分の期間しか持たない、ということになります。要するにTAVIはコストパフォーマンスから考えると従来の弁置換術の3分の一しかない治療といえます。

 これを考えると、入院費が弁置換の四分の一である150万円ほどになって初めて同等と言えるのであり、それにはTAVIのデバイスの値段が現在の10分の一くらい妥当といえます。もちろん、TAVIを実施するには高額なハイブリッド手術室などの設備投資や、ハートチームなどの多くの人件費がかかっており、治療費の8割がTAVIのデバイス代に持っていかれて経営的にはマイナス部分が多いのも事実と思われますが、医療は自動車の修理の際の工賃とは違って、その質の維持に十分な評価が与えられるべきと思います。
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MICS:右小開胸による大動脈弁+僧帽弁手術の適応とコツ

2019-06-20 00:18:49 | 弁膜症
 低侵襲手術=MICS(Minmally Invasive Cardiac Surgery)として、昨年から弁膜症における右小開胸手術の保険加算が認められるようになってから、各施設に今後普及していくと考えらますが、未だ大動脈弁の僧帽弁の同時手術が応用編といってもいいと思います。
 横須賀市立うわまち病院心臓血管外科ではこの一年間で3例の大動脈弁+僧帽弁の右小開胸アプローチによる同時手術を経験しました。この手術のキーは、僧帽弁の手術をいかに確実に一発で決めるかどうかにかかっています。確実の僧帽弁形成を完遂できると判断した症例を適応にする、ということが重要です。3例中2例は弁輪拡大に対するCG Future人工弁輪による弁輪縫縮で、1例は後尖(P3)の部分的な逸脱に対するResection & Suture+MEMO3D人工弁輪による弁輪縫縮で確実に逆流停止が得られました。正中切開のアプローチ同様に水テストによる逆流試験を行うために最初に大動脈弁を閉鎖しておりますが、確実に弁縫縮だけでいい症例は、この大動脈弁閉鎖の手技と逆流テストを省略しています。それよりも手技の合間に行う選択的冠動脈注入による心筋保護を確実に行うことを重視しています。三尖弁を操作しない二弁手術の場合は、右房切開による逆行性心筋保護は行わず、選択的注入のみの方が、術野がBusyにならず、手術時間も短縮できるようです。僧帽弁捜査中に1回、心筋保護を注入する際は、僧帽弁視野確保に使用したRetractorを一度はずす必要がある為、弁輪の糸かけが終わったタイミングにしています。そのあと、人工弁輪を縫着し、左房切開を閉鎖するのに約20分かかりますので、左房閉鎖後、大動脈弁の操作にうつったときに、次の心筋保護のタイミングとなります。大動脈弁の操作時は、糸かけが終わるかその途中に一回、人工弁に糸かけをして降ろす前に一回、弁の縫着が終わり大動脈切開閉鎖前に一回、とだいたいペースが決まっています。この決まったペースで確実に手技が終わる症例に対して、この小開胸手術を適応している、という点が重要と思います。
 また、大動脈切開の閉鎖も決して出血しないように閉鎖する確実な手技が求められます。
 3例のうち一例は透析患者さんでしたが、高齢のため生体弁を選択しました。僧帽弁を形成で確実に終わり、大動脈弁は抗石灰化処理が施されたより長期の使用が可能と推測される生体弁(Inspiris 23mm)を縫着しました。将来、透析患者さんにも経カテーテル的大動脈弁位人工弁留置術(TAVI)が適応になれば、こうした生体弁使用した透析患者さんが人工弁機能不全となっても次の手が残される、ということになります。
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