横須賀うわまち病院心臓血管外科

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マゴットの思い出

2019-09-02 18:53:46 | その他
 研修医時代、脳神経外科にいたの頃の話。Gに引き続いて昆虫の思い出話。

 救急外来にいらした50代の患者さん。頭に虫が湧いた、という主訴。頭皮が大きな皮膚潰瘍のため欠落していて、その湿潤な潰瘍の中に複数のマゴットがうごめいており、それを1体ずつリムーブ。その後、消毒(このときの主な目的殺虫駆除)のためピロゾン(過酸化水素水:一般にはオキシドールとして知られた薬物)をかけて、創処理。この後、入院して、そのピロゾン処置を継続後、最終的に形成外科とコラボレーションしての有茎皮弁を作成して創部を閉鎖。

 この患者さん、実は子供の頃の、熱湯による頭皮の熱傷のため、その部分が頭皮がなく、その部分を隠すためにウィグを装着して日常生活をしていたのでしたが、その熱傷瘢痕部位が潰瘍化し、その潰瘍の湿潤環境に昆虫が共生を始めたものだったのでした。長年にわたる熱傷瘢痕の炎症のため、皮膚潰瘍と頭蓋骨、その下の硬膜までもが一体化しており、治療は難しいものでした。

 有茎皮弁手術をして一段落と思われましたが、実はその周囲の皮膚から悪性腫瘍の細胞が見つかり、その治療として放射線療法や化学療法を始めることとなったのですが、そもそも熱傷瘢痕から悪性腫瘍が発生しやすい、ということは一般に知られていることであり、皮膚潰瘍が出来ていること自体、悪性腫瘍による組織壊死が原因していたものと考えられます。皮弁手術をする前に診断して治療方針を確定すべきだったのかもしれません。

 また、その後、しばらくしてからマゴット療法という治療が日本にも紹介され、潰瘍などの難治性皮膚病変において、壊死組織を食べて、同時に創傷治癒物質や血流改善物質を賛成して創を治すという治療法が試みられるようになっています。今から思えば、その患者さんに生着したマゴットも創を治すために一役買っていたのかもしれません。
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