今後、爆発的に患者数が増加すると予測されている心不全に対して、心臓外科医が貢献できる外科治療は主に、弁膜症に対する弁置換術や自己弁を温存する弁形成術、または冠動脈の血流障害に対する冠動脈バイパス術などの冠血行再建術などがあります。特に今後増加する高齢者ほどこうした弁膜症や虚血性心疾患によって心不全を起こす場面に遭遇することがますます増えると予想されます。
こうした高齢者の特徴として、呼吸機能、免疫能、腎機能の低下、組織の老化による脆弱性、認知症の増加、他の疾患の合併、そして社会的な環境の問題など、若い人とは違う様々な問題を抱えていることが多く、外科治療に伴う侵襲に対する抵抗力が著しく低下している患者さんが多いことが考えられます。こうした特徴から心臓の手術後は特に思わぬ合併症が発生しやすいことも事実です。こうして手術後の合併症を最大限減らすために横須賀市立うわまち病院心臓血管外科では低侵襲手術を積極的に採用しています。特に、小さい側方開胸で内視鏡補助下に行うアプローチで胸骨正中切開しない手術が心臓の手術全体の半数近くに閉めています。
胸骨正中切開しない小開胸心臓手術の特徴は、MICS(Minimally Invasive Cardiac Surgery)とも呼ばれ、胸骨骨髄炎や縦隔炎が発生しない、人工呼吸器からの離脱が早い、回復が速いので退院までの期間が短いというメリットがあります。
現在、一般化しつつある僧帽弁の形成術や弁置換だけでなく、大動脈弁置換や三尖弁形成術、そしてこれらの複合手術など神奈川県内で数少ない実施可能な術式もあります。また最近は冠動脈バイパス手術も多枝の血行再建を左小開胸で実施する割合が1/3ほどまでに増加し、こちらも県内で現在は唯一の実施施設になっています。ほかに心臓腫瘍切除術、左心耳切除術、メイズ手術、心房中隔欠損閉鎖や心室中隔欠損閉鎖術など可能な症例は全て小開胸手術に対応しています。2018年は僧帽弁形成術の9割、大動脈弁置換術の7割ほどをこの小開胸手術で実施、その割合が現在も増加傾向です。
今回の講演で「低侵襲心臓手術への挑戦」という演題名としたのは、県内で最も積極的に弁膜症に対する低侵襲心臓手術を標準の術式として実施しており、まだ国内でも少数の施設でしか実施していない複数の弁手術にも適応していること、そして小開胸または上腹部切開のみで行う多枝の心拍動下冠動脈バイパス術を実施していることなど、日々挑戦を続けていることがあるからです。こうした挑戦に関して2019年は、日本胸部外科学会の国際セッションでの発表や冠疾患学会のランチョンセミナーでの講演等、積極的に外部に発信したり、他施設の技術指導も行っています。
超高齢化社会の到来とともに起こる心不全パンデミックに対して、低侵襲心臓手術は心不全治療の重要な位置を占めていくものと考えられ、横須賀は心臓外科領域においても心不全パンデミックに対応するモデル地区になりうるものと考えます。
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