かなりニッチな内容ですが、前回の胸部外科学会関東甲信越地方会で当施設から発表した心房性機能性僧帽弁逆流(Atrial Functional Mitral Regurgitation)の弁形成術においてディスカッションになった内容について、会場では十分な説明ができなかったので、ここで改めて考察します。
①前尖のハムストリングについて、ご質問いただきましたが、この点に関しては、筆者も入れるべきか悩んだ点です。ハムストリングの所見は、収縮期に主に後尖弁輪が外側に回転してクリアゾーンの弁輪よりが左房側に突出する現象が見られるエコー所見と理解していますが、高度になると前尖にも同様の現象が見られることがあると聞いています。本症例の場合は、後尖には、この所見が見られないにも関わらず前尖の一部のクリアゾーン弁輪よりにだけ見られており、この所見を発表内容に入れました。しかしながら、エコーは自分で検査したわけでも、検査時に同席していたわけでもないので、正確な理解ではないかもしれません。PCの隙間からの逆流ジェットによる異常な変形が左房側に突出している部分があり、そこにひっぱられてそのように見えた可能性があります。
② AFMRの弁輪縫縮においてKay Stitchは不要で人工弁輪による縫縮だけでいいのではないか、との意見もいただきましたが、この症例はもっと長期間の逆利持続による成れの果ての症例で、クレフト開大部分が硬く変形して固まっており、クレフトの外科的閉鎖が必要な症例である上に、私は以前からクレフト部分からの逆流にはKay Stitchが有用で、基本的にこれを行うことで弁形成の出来映えが良くなると思って続けております。本症例も人工弁輪による後尖弁輪の均等な縫縮よりもクレフト部分の弁輪を局所的に縫縮してクレフトを弁輪ごと閉鎖しておき、その上で人工弁輪で縫縮した方が確実に逆流制御できる技を使っており、本症例もその方法で形成しました。
こんな内容の議論を行いたかったのですが、 発表している後輩医師が頑張って質問に応対しているので、割って入ることが出来ませんでした。このため、質問者には後日上記内容でメールにてディスカッションの続きをやり取りさせてもらいました。