12月8日(土)。青空が広がったものの,真冬を思わせる寒さでした。それに強い風が吹いて,厳しい一日になりました。
今日,日頃からわたしがかかわっている科学館でサイエンス講座が行われました。今回のテーマは『縄文人になって火を起こそう』というもの。受講者は4人。縄文式発火法で火を起こし,その火でポップコーンを作って食べようと銘打って開講されたのでした。わたしは講師を引き受けました。
さて,縄文式発火法のことでこれまで気になっていたのは,あちこちの取組でマイギリ式があたかも縄文式であるかのような取り上げ方がなされてきた点です。中には,復元遺跡のイベントで縄文風の服装まで準備しながらマイギリを堂々と使っている例,小学校の資料集にマイギリで火を起こしている図が載せられた例,考古学者が監修している児童書にマイギリがまことしやかに紹介されている例,その類がいくつもあるのです。
近頃は問い直しがずいぶん進んできて,この種の誤解は減っているのですが,まだまだ残っています。学校で社会科を教える人の中ですら,相変わらずといった状態なのです。これは相当に困った話です。
縄文期1万年をとおして使われてきた方式は,実験考古学の成果から,もっとも単純なキリモミ式か,現代の発火法から推理しうるユミギリあたりではないか,といわれています。キリモミ式は相当にむずかしいと思われていますが,コツさえ習得すれば一人でもほんの30秒で火種ができます。ユミギリもイヌイットの使用からみて,同様です。
わたしは受講者に尋ねました。「キリのようにして摩擦で火をつくるとすれば,どのくらい時間がかかるでしょうか」と。想像もできないようで,お一人が「30分ぐらいですか」とおっしゃいました。体験したことがないという話だったので,火をつくるしごとは相当に困難なことだと思っておられるようです。しかし,30分も作業をやり続けることなど到底不可能です。この印象を砕けたらと思いました。それがびっくり仰天に結び付いたら,どんなに愉快でしょうか。
受講者のお一人がおっしゃいました。「どんな火の起こし方をしていたのか,どうしてわかるのですか」と。実は証拠なんてないに等しいのです。木と木を摩擦させて火をつくるわけですから,木が残っていなくちゃお話にならないわけです。しかし,そうした決定的な証拠がないので,今の時代のネタに着眼して推理するしかないのです。
つまり,今も原始的な発火法を使っている人々の生活文化に目を向けたり,もっとも簡単な摩擦式発火法を実験考古学の視点で解き明かすほかありません。ただし,わたしたちのような素人は,その成果を拠り所にするだけです。
そんな感じで,まずはポップコーンを作る態勢を整えました。それができた後,マイギリ式で種火を作りながら炎にしていく技術・手順を伝授していきました。
そうしていよいよキリモミ式に挑戦です。
(つづく)