自然となかよしおじさんの “ごった煮記”

風を聴き 水に触れ 土を匂う

ジャコウアゲハ観察記(その223)

2013-05-26 | ジャコウアゲハ

ジャコウアゲハ一頭が一生に産む卵の数,一日に産む産卵数,一度に産む産卵数,それぞれについて考えるとおもしろい課題だなあと思ったことがあります。それでアゲハ一般についてネットで調べていると,実際それが学術論文のテーマになっていることを知りました。産卵行動の盛んな時間帯,もっとも多い時刻,卵巣内の成熟卵数などから,産卵にかかる生態を解き明かすのです。それを知って,なんでも疎かにはできないなあと思った次第です。

その一例によれば,野外観察の場合は一日の産卵数は40個程度,飼育個体の場合,一日の産卵数20個,総産卵数200個とあります。

この40個なり20個なりの産み方を考えてみましょう。

他の書き込みで「かためて産むわけがない。餌で困るはずだから。せいぜい葉一枚に1個だろう」といった所見がありました。これは,わたしには先入観にとらわれている見方としか思えません。アゲハ類の種類によって異なっているのかもしれませんが,ジャコウアゲハはまったく違います。

どう違うかといえば,1個のときもあるし,複数個のときもあるのです。2個以上のとき,では何個かといえば,またこれが実に変化に富んでいます。3個,4個といったときも,多ければ6個のときもあります。前に六段になった例をご紹介しましたが,それは6個の好例でしょう。

下の写真の場合はどうでしょうか。わたしには,同一の成虫が同じときに時間をかけて産み付けた感じがします。別個体が産むのなら,もっと無造作になって当たり前でしょう。そういう葉ならふんだんに見られます。同じ箇所にかたまったような状態になって付いている場合は,まず同一成虫が産んだと見なしていいでしょう。

ただ,こうしたジャコウゲハの例をアゲハ一般に単純に広げて考えるのは問題です。なぜなら,食草であるウマノスズクサは,わたしの観察している限りでは,葉を無数に付ける大きな草とは思えません。すると棲み処が限られ,そこに卵が集中して産み付けられる結果,卵の込み具合が大きくなっても止むを得ません。むしろ,ジャコウアゲハの場合は同じ場所にたくさんの卵を産んでも,そのうち何匹かが確実に育てばいいぐらいの状況かと思うのです。

これに対して他のアゲハは,柑橘類,パセリ,ニンジン,サンショウ,ハナウドなど葉が多く,比較的大きな草木を食草・食樹にしています。ということは,あちこちにバラバラ産めばよいのであり,かためて産む必然性がまったくないということになります。もちろんその方が生存率が上がるでしょう。したがって,あちらこちらバラバラに産むのが当たり前という習性かと思われます。

アゲハでも種が違えば,いろいろあるなあという感じがしてきます。

 


ナナホシテントウの幼虫(1)

2013-05-25 | 昆虫

勤務施設で実施している親子野菜づくり体験でのこと。ジャガイモがよく育っていて,葉にいるテントウムシ(幼虫も)が目に付きます。それを目敏く見つけた子がいます。そのときの一コマです。

子 どうしてここに,幼虫が何匹もいるんだろう。

わたし そりゃ,食べるものがあるからじゃないの?

子 だったら,なにを食べるの? 葉っぱ?

わたし テントウムシの親はなにを食べる?

子 えっと,葉かな?

子 アブラムシじゃないかな。

子 そうだ! 教科書に載っていたっけ! アブラムシだった。

わたし じゃ,この幼虫はなにを食べるんだろうか。

子 葉でしょ。

子 アブラムシ?

わたし 親と子,つまり親も幼虫も同じ食べ物を食べると考えるのがふつうなんだよ。どちらも,こんな(手で格好をして)牙を持っているんだ。

子 わぁー! 

子 ほんまや。ジャガイモの葉にアブラムシがおる!

キハゲハの卵を目撃したハナウドにも,テントウムシの幼虫が目立ちます。それも,そこにはアブラムシがたくさんいるからです。晴れた日,カメラを持って観察に出かけました。至近距離から写したのが下の写真です。鎧状の殻を付けた幼虫が,異様にたくましく見えます。

前から見ると,発達した顎がいかにも恐ろしく見えます。前肢の格好からは威厳のような雰囲気さえ伝わってきます。 

これを一度見れば,テントウムシの幼虫は草を食べているとは思えないでしょう。幼虫は,葉や茎にいるアブラムシを漁って,貪り食っているのです。 

 


ジャコウアゲハ観察記(その222)

2013-05-25 | ジャコウアゲハ

5月17日(金)。

次々と幼虫が生まれます。せっかくなので,孵化の瞬間を画像に残そうと思いました。その場面はこれまでにも撮ったのですが,今回は超至近距離からの接写にしようと思ったのです。使ったレンズはマクロ105mm。それに2倍テレコンバーターを組み合わせました。

これまでの経験から,孵化間近な卵の見当をつけます。外見から,おおよそ孵化の時間帯の読みはできます。たくさんの卵がありますから,たいへん探しやすくって助かります。一つ,二つ候補を見定め,カメラをセットして待ちました。

しばらくすると,そのうちの一個に小さな穴が開きました。卵の側面に,黒いものが見えたのでそれとわかりました(写真中の矢印)。そこで,この卵の変化を追うことに決めました。午後1時14分です。

午後2時54分。40分かかってようやく頭部が見えるまでになりました。その間,ゆっくりゆっくりした動作が続きました。

午後2時56分。やっと頭を外に出しました。

午後2時59分。3分後,初々しい色をした幼虫の誕生! 

穴が見えてから,からだが完全に出てしまうまで,2時間かかりました。ほんとうに慎重な穴開け作業でした。

このあと,幼虫は殻を食べ始めました。中から殻を食べて穴を開ける,出たあと残りの殻を食べる,この一連の動きは遺伝情報として組み込まれた習性なのでしょう。 

 


レモンにアゲハの幼虫(5)

2013-05-24 | アゲハ(ナミアゲハ)

アゲハの幼虫の成長ぶりをたのしみにしていたところ,5月22日(水)に大異変が起こりました。今,がっかりしているところです。その経過を記しておきます。

アゲハヒメバチに襲われた幼虫三匹(それぞれ個体A,B,Cと呼んでおきます)を一旦レモンの木に戻したあとの話です。翌日,個体A及びBについては近くのキンカンの木に移しました。理由はその方が餌がたくさんあるからです。個体Cはそのままにしておきました。

この日の朝,三つの個体が元気にいることを確認。

昼過ぎにもう一度見ると,Aが見当たりません。Bは元気に餌を食べていました。そうして頭をグッと持ち上げたしぐさをしばらくしていました。急いで写真に収めました。

Cはレモンの横に差した細竹(篠竹)の根元付近で前蛹になる準備中でした。

動く気配はありません。じっとしていて,時にぶるぶるっと震え,糞をポトリと落としました。色から葉の緑が連想できます。蛹化する前に,体内にある余計なものを排泄していると思われました。

1時間程して,2個体がどうなったかと思い確認にいきました。すると,どうでしょう。姿が見当たらないのです。Bは姿かたちなし。Cは地面やら石やらをくまなく探しましたが,結局見当たりませんでした。ふしぎでしかたありません。もしかすると,どちらも鳥かなにかの天敵に襲われたのかもしれません。蛹になったときに出てくると思われたアゲハヒメバチの観察ができなくなりました。元気でいたのに。残念!

幼虫は糞に似せた擬似色,また棲み処・餌となる柑橘類の葉色とそっくりに変身し続けます。それでもこれまでの事実からは,天敵の目から完全に逃れるのは容易でないことがうかがえます。

 


ジャコウアゲハ観察記(その221)

2013-05-24 | ジャコウアゲハ

5月17日(金)。快晴。

幼虫の孵化が次々と続きます。ちょっと葉を裏返してみると,あちらこちらにいます。もう,それは驚くような状況です。もちろん,想像どおり!

成虫が次々に訪れて産み付けたわけですから,同じような時期に一斉に孵化するのは十分理解できることなのですが,それにしてもわんさわんさです。

殻から出た幼虫は,すぐに殻に取り付きます。そうして大抵は殻のほとんどを食べ尽くします。中には実に適当な個体もいます。途中で放っておくもの。ちょっと食べて,休み,そうして別の殻を食べるもの。さらには,また別のもの,つまりは3個目を食べるものも! しかし,それだって,きちんと食べてしまうわけではありません。

成虫は場合によっては卵をかためて産む習性があるようで,孵った幼虫はとくに争うこともなく,実に行儀よく集まるようにできています。群れる習性,集団習性といってもいいでしょう。ただ,解説書によると餌がなくなると共食いもするようです。わたしは,その場面を見たことはありません。

 


ジャコウアゲハ観察記(その220)

2013-05-23 | ジャコウアゲハ

高さが地上から1cm。そこに一粒の卵が浮かんで見えました。メガネをかけてじっくり見ると,それはクモの糸によって空中に保たれていることがわかりました。傍に小さな小さなクモがいました。

なぜ,そこに卵があるのでしょう。クモが近くから運んできたものでしょうか。あるいは,そこに成虫が間違って産み付けたのでしょうか。ふしぎな光景です。

卵の底にふつう付いている接着成分が見当たりません。クモの力で簡単に葉から離せるようには思えないのです。もし無理やりに離したとしたら,接着成分が残っているのではないでしょうか。ということは,誤ってここに産み付けられた可能性が強いということです。以上がわたしの推測です。 

クモの様子を観察していると,卵を気にしているようです。 

孵化するまでに食べられてしまうのでしょうか。殻は硬いので,このクモには手に負えないかもしれません。今食べられなくても,孵化したとき幼虫は犠牲になるでしょう。

こんな光景を見たのは初めてです。 

 


アゲハヒメバチの産卵作戦

2013-05-23 | ハチ

偶然の目撃とか,幸運な出合いとか,関心をもっているといろいろな場面と遭遇することがあります。それはまた,自然観察者としてはありがたいことです。近頃の典型的な例を一つ。

5月20日(月)のこと。

庭の手入れをしていて,ふとレモンの木を見るとアゲハの幼虫がいません。おかしいなと思いながら足元を見ると,なんと幼虫が二匹歩いており,そのうちの一匹にハチが襲い掛かっているのです。これは天敵にやられているのだなと思い,すぐにコンデジを取り出して近づいていきます。すると,ハチは感づいたのかどうかわかりませんが,さっとその場を離れ,レモンの木の方に移ったのです。そうして,葉を調べている様子。

その間に,もう一匹の幼虫がどうなったか気になって,地面をざあっと見渡すと,見つかりました。つまり,三匹ともハチが落としたというわけです。でも,いったいどうやって? まさか,こんなに重い幼虫を運んだりはしなかったでしょう。ハチが攻撃をした結果,落ちたと考えるのが順当でしょう。針で刺して痺れさせたのかもしれません。

葉にとまったハチの写真だけは,ともかく残せました。ハチが去ったあと,幼虫を元に戻してやりました。

あとで,ハチの正体を調べてとても勉強になりました。それはアゲハヒメバチだったのです。わたしは初めて見ました。襲っているときの様子ももちろん初めての目撃でした。

名は体を表すというように,このヒメバチはアゲハとは切っても切れない関係にあることがわかりました。寄生蜂で,幼虫の体内に卵を産み付け,そこで成長を期するといいます。出てくるのは,幼虫が蛹になってから。

そういえば,わたしはこれまでに蛹のからだに穴の開いた個体を何度か見ました。「ははーん,そうだったのか」と,これで合点。この幼虫に体内に卵があるかどうか,それも見届けようと思います。 

 


フタモンアシナガバチの巣作り(続々)

2013-05-22 | 昆虫

2日前から,フタモンアシナガバチの姿を見かけなくなりました。巣に戻ってこないと,卵・幼虫の成長はそこで止まります。否応なく餓死せざるをえません。自然の掟です。

心配して,昨夕見ました。やはり姿はありません。やはり成虫になにかがあったのです。これは幼虫たちにとって非常時です。どうなるかと思い,今朝,確認しました。すると,どうでしょう。巣はアリだらけ!

アリは敏感に嗅ぎ分けてちゃんと現れました。たぶん,腐敗臭でもしていたのではないでしょうか。

カメラを据えて,しばらくの間,観察していました。アリたちは巣穴に潜り込んで,ときには幼虫の身を持ち出してきました。

そして,間もなく,数匹が力を合わせ幼虫のからだを引きずり出しました。それでも出にくいと,そこを通りかかったアリが助けました。

こんな状況が,他の巣穴にも見られました。

幼虫が引っ張り出され,部屋のなかにはアリが入って,食べ尽くします。

ついに,成虫は帰ってくることはありませんでした。自然界は危険に満ちています。食物連鎖のバランスのなかで,それぞれのいのちは生き長らえていきます。厳しいといえばそうですが,それは人間の感情を入れた解釈なのであって,“食べる・食べられる”という関係は粛々として,そして綿々として続いていきます。

 


ジャコウアゲハ観察記(その219)

2013-05-22 | ジャコウアゲハ

アゲハは,ふつう葉の裏側に産卵します。それはその方が,天気や外敵等による被害を最小限にとどめる上で都合がよいからでしょう。ことばを換えると,安全対策の理に叶っているといえそうです。

しかし何度か取り上げてきたことなのですが,必ずしも裏側というわけでなく,時として他の箇所にも産卵する場合があります。葉の表側に産み付けられた卵を初めて見たとき,わたしは「これは珍しい!」と感じた記憶があります。

以来気になって見ていますが,確かに例外例でありながら,意外に見かけることがあるのです。もしかすると,1%ぐらいの確率で産み付けられるのかもしれません。

庭の植木鉢で,1枚の葉に3個もの卵が行儀よく並んでいるのを見かけました。こういう例はいたって珍しいといえるでしょう。

肝心なのは,どうやってそういうことが起こりうるか,想像してみることでしょう。そこに動物行動学のおもしろさが垣間見えそうです。わたしの推測は次のとおりです。

3個は,同一成虫が同じときに産み付けたものと考えてまちがいはないでしょう。「では,なぜ表側に?」。これがふつう浮かんでくる疑問です。産卵中の格好を描くと,必ず前足を高いところに引っ掛けてからだを固定します。そうして,腹をぐうっと曲げる姿勢に移って,葉の裏に卵をくっ付けます。それが終わると,ひととき休んで,また同じ動作を繰り返します。3個産む場合は,三度です。すると,必然的に卵は互いに近くに付くことになります。

表側になったのは,たぶん,排卵口が接触した箇所が偶然そこだったからでしょう。アゲハは葉の裏に産み付けたとばかり思っているはずです。だって,その感覚こそが生まれつき備わった本能なのですから。

この程度のズレ,多様さは起こって当然です。自然の事象・現象はいつも模範解答のような結果を提示してくれるわけではありません。杓子定規に考えるとたいへん。観察者はファジーさをたのしめばいいのです。

 


ジャコウアゲハ観察記(その218)

2013-05-21 | ジャコウアゲハ

観察シリーズ(その212)でご紹介した一鉢の卵総数調査を,別の鉢でもやってみました。なぜそんなことを繰り返したかといいますと,食草がまだ背の低い段階にもかかわらず,そこに卵がたくさん産み付けられていたからです。一言でいえば,異様な様子ですらありました。

下写真を見てください。A,B,Cはそれぞれ別の株です。A,Cからはそれぞれ二本の茎が伸びています。高さ及び葉の数は次のとおりです。

  • A株……18cm・5枚  10cm・4枚
  • B株…… 5cm・4枚
  • C株…… 3cm・3枚   3cm・3枚

最初にA株を調べました。下写真のように葉の裏に,たくさんの卵が付いています。26個(うち茎に1個) と幼虫1個体(今春の目撃第一号!)でした。

次にB株を調べました。21個で,すべて葉の裏側です。 

ここでもまた,二段に産み付けられた卵を見ました。上写真に写った卵のうち,最上部のものがそれです。これだけかためて産むと,重なる偶然が生じやすいのでしょう。 

 

産卵時の姿を思い浮かべると,どんなに背の低い草であれ,アゲハは必死で産卵場所を探しています。食草があれば,「しめた!」と感じるのでしょう。とにかくその場所に産み付けるのです。

話がそれました。元に戻しましょう。最後はC株です。そこには卵はありませんでした。

結局,卵の総計は47個,幼虫1個体になります。わたしにはとてつもない数値に思えてきます。“卵口”密度が極端に高く,ひしめき合っている感じです。 この鉢で幼虫全部を養えたらいいのですが,こんな葉の量はありません。これからも期待できません。ふつうなら,孵化しても餓死する幼虫がかなり出てくるでしょう。放置していれば必然的に自然淘汰が始まります。

わたしにできる対応は一つ。やはり棲息地に移すのがよさそうです。