こんばんは、へちま細太郎です。
団部の顧問の先生は、藤川家代々の武道派の家臣でもある桧山先生だった。
大学時代に応援団に所属し、団長時代に六大学何するものぞ、の東都大学リーグにおいて都の西北にある大学に応援で競り勝った、という伝説の持ち主である。
「そんなもん自慢になるか」
六大学にも東都大学リーグにも属していない大学出身の藤川先生は、ことのほか桧山先生を嫌っていた。
「桧山家は、郡奉行の家だ、竹刀を振り回してばかりで真剣とも立ち会ったことのない、バーチャルどもさ。場数踏んでナンボの世界だね」
タコ壺保健室の中で差し入れのキウイをむさぼり食いながら、藤川先生は表情が曇る。
よほど嫌いなんだろうか。
「せやけど、藤川家もしょうもないねんな、現代に至ってもお家騒動やってるやなんて、アホ通り越して使いたくはないねんけど、バカやね」
関西出身の匿名希望の東山先生は、めったに使わない「バカ」を口にする。
「だねえ、ぼくら家族はそんなことどうでもいいんだけどね、何で外野が騒ぐんだろ」
「そのうち、副住職さんが跡継ぎになるなんて言い出したりして」
藤川先生のはからいでぼくらバスケ部員は、タコ壺保健室に隠れて?いた。
「恐ろしいこというな、いくらなんでもそれはありえん」
といったところで、ガラス戸が開いた。立っていたのは桧山先生だ。
「こら、バカ殿、またも首をつっこみやがって」
と、目の前にあった小百合の首根っこをつかむと、
「なんだ、この気色の悪い花は。保健室におくんじゃねえ」
と、ぼくらが驚く間もなく、小百合をガラス戸の向こうに引き倒してしまった。
「何がプロフェッサー中島だ。足軽野郎の分際で」
「何?」
藤川先生が表情を変えた。
「てめえ、今何をした」
「何言ってんだ」
桧山先生の足元に無残にも引き倒された小百合が、転がっていた。
「ああ、小百合があ」
ぼくたちも立ち上がって、小百合のもとへ駆け付けようとしたところ、
「罪もねえ花に何しやがんだ。てめえそれでも教師か」
と、藤川先生が桧山先生めがけて飛びついていった。
「先生」
「ひえええ」
二人は、小百合の上に倒れこみ、あのドドメ色がつぶれてしまった。
「小百合~」
匿名希望の東山先生が、飛び出していって小百合を殴りあっている二人から引き離した。
「小百合~」
「小百合~、傷は浅いぞ」
「しっかりしろよ~」
と、ぼくらは傷ついたドドメ色の花びらを丁寧に伸ばした。
小百合は小刻みに震えている。
二人の教師はまだ取っ組み合っていた。
それにしても藤川先生、小百合をあんなに嫌っていたのに、何で怒るんだ。
びっくりだよ。
匿名希望の東山先生も必死になって小百合の折れた花の茎につっかえ棒をしている。
小百合、ぼくらのせいでとばっちりくってごめんね。