こんばんは、へちま細太郎です。
ぼくら中三バスケ部員は、学校を脱走しようと大学側からスクールに乗ろうとした。
スクールバスは中学・高校の正門前と大学の植物園前から出る。
中学生が大学生のバスに乗ってはいけない、という決まりはなく、むしろ5時に講義が終わる時間帯に合わせて出るバスに人気があった。ぼくたちは一回も乗ったことがなかったけど、とにかく必死だった。
だって、団部になんか行きたくなかったんだもん。
植物園は、気持ち悪い花ばかりおいてある、おそろしくマニアックなものだった。
ところが、バス乗り場にのぶちゃん先生が立っていた。
「なんで、唐変木がいるんだ」
「まさか、俺たちのこと探しにきたとか」
顔を見合わせていると、
「おい」
と、声がする。誰だろうとあたりをきょろきょろしてみると、
「ここだ、ここだ」
と呼ぶ声がした。
「あ、先輩」
(仮)嵐軍団1号さんと2号さんだ。
「いいから、早く来い」
先輩たちは植物園の温室の入り口から手招きしている。
ぼくたちは顔を見合わせ、そしてのぶちゃん先生をもう一度振り返り、向こうを向いているスキを見て温室に駆け込んだ。
「ありがとうございます」
「助かりました」
おじぎをすると、
「団部に無理やり入れられたってきいたからさ」
「けっこうあるんだよね、あの唐変木はすぐ団部に突っ込むという嫌がらせをするの」
と答えが返ってきた。
「今までもあったんですか?」
「そのたんびに坊ちゃんが団部に話をつけてさ、逃がしてやってんの」
「実はさ、俺たちも中学の頃、サッカー部とバスケでもめてね、で、無理やり団部に突っ込まれたことがあったんだよな」
(仮)嵐軍団さんの意外な過去。
「俺んちも、あの武道派なんだけど、息がつまりそうでたまらんかった」
1号さんは、奥のキウイの木から何個か実をとってきて器用に皮をむいた。
「ほれ、食え」
「ありがとうございます」
ぼくらは甘い甘いキウイをむさぼるように食べた。
「うまい」
鈴木は涙ボロボロ。
「今頃は坊ちゃんが団部に乗り込んでいって、話をつけていると思うけど、たいがい乱闘になって終わるんだよな」
乱闘?何で、教師が生徒と乱闘になる?
ぼくらの驚愕した表情に、先輩たちは笑ってこう答えた。
「だって、あいつらぼっちゃんを藤川家の跡取りだって認めてないんだよ。むしろ、弟の実孝さんを押している派なんだよね」
お、お家騒動かあああ?
こんばんは、へちま細太郎です。
ぼくらのクラスが文化祭で発表する「水戸黄門」は、普通にやっただけでは面白くなかろう、とたかのりが余計なことを言い出して、藤川家のご先祖様である「美都田吾作」との対決にしようぜ、ということになってしまった。
「田吾作のさ、料理食ったやつがげりっぴーになっちってよ、そこへ黄門が首を突っ込んでややこしくなる、という内容はどうよ」
何考えてんだ。
「だれが田吾作やるんだよ、やだよ、ぼくは」
「俺もやだなあ」
と、ベランダを向いていたみきおが窓を指をさす。
「だって、ほら」
「あ」
ベランダには田吾作をぶったたく近衛少将さんがいた。ぼくらにしかみえないけど。
「あれを見ちゃうと、誰だってそう思うよ」
「黙れ雛人形だもんなあ」
「でも、何で学校にいるの?」
素朴な疑問がわいた。そうだ、なんでいるんだ。
「あれは、埋められた銅像を掘り返せと抗議しにきておる」
ぼわんと現れたのは、鎧兜のおじさんだ。
「久しぶりじゃの、地方公演にいっとった」
地震以来、おじさんの劇団は、ボランティア公演をしていた。半分はギャラが必要のないの劇団だから…。
「バカ殿に文句を言っているらしいが、シカとされているようじゃの」
「それはそうだよ」
おじさんを見て、なんだかほっとするぼく。
「まあ、なんだな、芝居のことならまかせておけ。脚本も頼んでやる。黄門と田吾作の対決でよいのだな?」
「さすが、鎌倉武士、話が早い」
たかのりはおじさんと握手握手。
「本物はどこにもいっとらんと愚痴っておったようだが、何構うもんか。わしは藤原家と源氏の合わせ技で印籠なんぞに負けないからの」
と、いうだけ言って消えてしまった。
「相変わらず、近藤家の先祖は変なのばっかりだなあ」
たかのりは笑ったが、そういえばたかのりたちは近衛少将さんの子孫だけど、鎧兜のおじさんの子孫ではないんだっけな。
うらやましいだろう、と内心思ってぼくは、合同で出す出店のことで電卓をたたく野茂を見た。
本音を言えば、野茂とだったらシンデレラやってもよかったんだけどなあ。
けっこう絵になると思うよ。うん。
こんばんは、へちま細太郎です。
文化祭も今月の末に近づいて、何をするかと大揉め。
何せ、うちのクラスにアレがいるんだ、アレが。
「ステージ発表なら、シンデレラがいいわ」
「おめえ、いくつだ」
「あんたに出ろっていってないわよ」
「あ~あ、はるみのアタマの中身は死んでれらああああ」
はるみとたかのりのやり取りをきいていた野茂は、頭を抱えた。
その前に担任の浜中先生は、首をかいている。
先週、広之お兄ちゃんも交えて飲み会をやったらしく、そこではるみのロクでもない話を聞かされてまいってしまったらしい。
ぼくも思うもん、あのころから全く変わっていない。つまり成長していないってこと。
「王子様は、もちろん…」
「ぼくは、相手が野茂ならやってもいい」
ぎょっと顔を上げた野茂。
「どういうことよ、私の気持ち知っててそんなこというなんて、あんたこの色気なしが好きなの?」
「色気なしってなんなのよ。あんただっておんなじでしょ、だいたい、細太郎くんも彼女がいるくせにそんな冗談かまさないで」
野茂が怒ったついで口を滑らしてしまった。
全員が一斉にぼくを見た。
「おまえ、彼女いたんか?」
「孟宗中の女が泣くぞ」
勝手なことを言っているけど、まだ彼女じゃないやい。だって、手だって握ってないし、告白だってしてないし。
それに、りょうこちゃんの気持ち、わからないし。
「さすが、孟宗一のモテ男は違うね。でも、実は俺、彼女のこと好きだったんだよねえ」
と、みきおが野茂にウィンクをした。
げっ、気持ち悪い。
「俺も、野茂がシンデレラならやってもいい」
「何言ってんの、あの王子様は見てくれだけでシンデレラを好きになったの。最低なやつ」
「うわあ」
男子全員があぜん。
「野茂~、おめえ、やっぱり色気ないわ」
浜中先生がうまい具合に声をかけて、その場を取り繕ってくれた。
というわけで、今年はステージで、美都田吾作のライバル水戸黄門をすることになり、当然主役は野茂になった。はるみの幼稚な提案は却下されたわけだけど、
「おめ、お銀やれお銀」
とたかのりに無理やり配役されてしまい、ブリブリ怒っていた。
で、休み時間になり、ぼくのそばに寄ってきたはるみは、
「私の気持ち知っててひどいわ」
と、きいきいうるさいので、
「知るか、おめえなんか、キチローがお似合いだ」
と怒鳴り返してやった。
「性格悪~」
しんいちが横目でにらんだけど、
「別にほんとのことだから怒んない」
と、返してやった。
ほんと、ぼく、性格悪いんだけどな。
はい、旧姓藤川、今は前田法華(まえだのりか)よ~ん
うちの亭主の唐変木野郎は、自分のチームが全国大会に出場できなかったことで、ここんとこぶりぶり。
もともと気が短くて執念深い性格なのはわかっていたけど、ガキ相手にいつまで腹をたてているのかわからないわ。
同じ気が短くても、妹の玲華の亭主のけんちゃんの方がずっとマシだったわ。
相手間違えたかしらねえ。。。
それもこれも、最初の一発が見事命中しちゃったのが、悪かったのかしら
別居しようかしら。
だって、背丈の割にはケツの穴が小さすぎるんだもん。。。
…。
あら、いやあねえ、のことじゃないわよ
こんばんは、へちま細太郎です。
朝のバスの中で、きいきいとはるみがうるさいのなんの。
「高校の先輩の滝沢さんってかっこいいよね」
「…」
「今まで応援団部って興味なかったんだけど、今回初めて練習見に行っていいなあって思った」
「…」
「ねえ、細太郎君、滝沢さんのメールアドレスきいといてくれないかなあ」
「…」
「細太郎くんてば」
「知るかよ」
知ってるけど、教えてあげないし、親戚だってことも教えてあげない。
「けち。でもさあ、なんとなく細太郎君に似てない?」
「…」
「なあんか、似てるところあるのよねえ」
「似てない」
と、突然キチローが声を張り上げた。
「あ?あんたなんかに聞いてないわよ」
また、始まった。あ~、カンに触る二人の声が。で、
「うっせんだよ、さっきからぴーちくぱーちく。そんなに知りたきゃてっめえが団部入ったらいいだろ~が」
と、怒鳴ってしまった。。。。
バスの中は全員呆然。
はるみは口をあんぐり。
「ほ、細太郎君、うそ、細太郎君がいけない言葉を使うなんて」
頬に両手をあてていやいやのポーズ。
ばかじゃねえかこの女。
誰と生活してると思ってんだよ。
「あ~あ」
僕は、窓に額をこすり付けて深いため息をついたのであった。
「ぼくも団部に入るからさああ」
まだ言ってら。
こんばんは、へちま細太郎です。
応援団に来いと言われたものの、練習風景を見に行ったら結構ハードだった。
「あ…」
団部の中に見覚えのある顔が見える。
「あれは…」
そうだ、おばあちゃんのところの秀兄ちゃんだ。
「誰…」
鈴木のささやきに、
「またいとこだよ~。秀兄ちゃん、ここの高校生だったのか」
と答えた。
「めったに会ったことないから、あんまり知らないんだけど…」
「またとこっていうのは、そういうもんだろうけど…」
上田も泣きそうな顔をしていた。
「団部って言ったって、活躍の場ないじゃん、野球部弱いし」
「それがそうでもないらしいぞ」
と、背後から声がした。
「あ、先輩」
バスケ部の先輩だ。
「今年は強いんだってさ」
毎年、野球部の応援は中学校から行くんだけど、ぼくらの代はない。なぜなら、ぼくたちが入学早々しでかした騒動が原因だった。
「ま、いいんじゃない?高校入ったら、取り戻してもらうから」
うえ~、この後に及んで高校も孟宗に行くとは思ってないよ~。
「あ、まさか、進級しないつもりか?」
「そんなことないですよ~」
鈴木をはじめとしてみんなは首を振った。
誰だって、こんな状況に陥ったら進級したくなくなるよ~。
「孟宗学院高校こう~か~」
だから歌いたくないって…。
久しぶりのピカイチだ。
大事な息子を団部に入れるとは、いい根性の唐変木野郎だ。
うちの高校の応援団部は、食い時の張った藤川家の中でも、骨のある家臣団一族で結成された由緒あるものなんだそうだ。
「根性のあるやつは入ってこい」
という武士道精神の塊なアナログ連中だ。
「いまどき珍しい連中だよ」
と、当のバカ殿も感心している。
「だってよ、いまだに家老だった連中にもの申す、とばかりに会合を開いてくだくだいってるんだぞ。1回おめえの代わりに会合に顔を出してみて、気が狂うかと思った。俺には無理だね」
けんちゃんは、嫌な顔をしているが、のぶちゃんは、
「俺は気に入ったね」
「あ、そう」
のぶちゃんの言葉にけんちゃんは耳も貸さない。
「だけどよ、食い時が張ったナンパな藤川家になんで武道派が存在するんだ?」
浜中も首をかしげている。
「ほんとだよな、美都田吾作だろ?あの…」
久保田も納得いかなさそうな顔をしている。
「文武両道な4代目の殿様がいたんだよ。誰に似たんだか無骨者だったらしく、側室もおかない変な野郎だったんだとさ」
「その4代目の時にできた家臣団ってやつか。また息が長いこと」
「団部で力が余ってしょうがねえんじゃねえのか」
「大学は防衛大か日体大、卒業後は警察官か自衛官」
「よくできてるな」
「できてるねえ」
じゃねえよ、バカ。
俺は、細太郎が将来自衛官になるって考えただけでも、辛いぞ。
「自衛隊のどこが悪いんだバカ野郎、あんな崇高な任務はないぞ」
一斉に攻撃されて、被災地や前線での活躍を思い出し、少し情けないかな、と反省した。
が、その瞬間、俺はそういえば母方の伯父が自衛官だったことを思い出した。
そして、母方は藤川家の家臣だった…。
しばらく会っていないが、F15に乗っていた…。
従妹も女性自衛官だった。。。
あ~、細太郎~。団部は運命だったかあ。。。
でも、何でつおい女ばかり、俺の周りにいるんだ?
こんにちは、へちま細太郎です。
昨日の放課後、ぼくらはのぶちゃん先生にこってりアブラを絞られたあと、ようやく解放された。
でも、朝からまたねちねち。
この唐変木な間延びしたうどんは、意外にねちっこかった。
「藤川先生が嫌うわけわかったよ」
ぼくは、教室のベランダでぼやくと、
「仕方ないじゃん。おれらなんて、ベスト4にもならないし」
と、たかのりとみきお、しんいちもぼやいた。
「俺なんか1年に替えられてアウト」
「ぼくは、ゴール直前で転んだ」
「俺は、あそこけられて悶絶」
なんか、情けねえ。。。
「はあ」
とため息をつけば、教室からきいきい声がする。
またはるみが騒いでいる…。
「細太郎くん、団部の先輩が呼んでるよ」
野茂がぼくを呼び、しかし教室の入り口で、高校生を入れまいと仁王立ちしていた。
何の用だ、と言わんばかりのこわい顔。
その後ろで、
「かっこいい」
と言うのは、はるみだ。
「あの~」
ぼくはびびりながら近づくと、鈴木もいる。
高校生の団部…応援団部の先輩たちは、運動部よりも怖い。
「前田先生から話はうかがった。負けたそうだな」
イマドキ、こんなアナクロな喋り方、マンガとアニメ以外にあるか~。
「その根性をたたきなおすために、これから放課後は我々高校応援団部の練習に参加してもらう」
「は?」
「ま、マジッすか」
鈴木のため口に、
「誰に向かって口をきいてるんだっ」
と、怒鳴りつけられた。
「ひえええええ」
なんだよ~、何で話がこっちに飛んでいっちゃったんだよ~。
「あれが、伝説B~バップ団部」
誰かのつぶやきに、なんだそれ~、と思わず鈴木と抱き合って泣いた僕だった。
お久しぶりです、ぼくへちま細太郎です。
何で書かなかったかというと、ずっと部活で忙しかったからです、と作者が書けといいました。。。
ほんと、部活が大変だった、というのは事実で…。
毎年の全国大会出場記録が、なんとぼくらの代でストップしてしまった。
しかも、県大会ベスト4にとどまる、というかつてない戦績に、のぶちゃん先生大激怒。
高校生の先輩たちは、着々と全国へコマを進めていきつつあるのに、中学のぼくらが情けない成績で試合翌日は、
「学校、サボっちゃおうか」
と、額を寄せ合って真剣に話し合ったくらいだ。
タコ壺保健室の匿名希望の東山先生によると、
「スリーポイント決められる直前にホイッスルが鳴ったんやから、それまでは勝っとったんや。阪神ならこれを勝ちというんやで。相手に勝ちを譲ってやったと思ったらええんや」
と、慰められた…のか?これ。
「なるほど、ものはいいようだな」
キャプテンの鈴木がうなづく。
「明日につながるポジティブな発想だ」
「明日って…、もう引退なんだけど」
「あ…」
というわけで、マジでのぶちゃん先生が怖い。
「ああ…」
どうしよう、というわけで、毎回体育の時間がこわいぼくらバスケ部員だった。
また、中島教授のところに逃げちゃおうかな、と思ったら、この雨の湿気で腰が痛んでお休み中だってさ。
とほほ。。。