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加須市南大桑には利根川の旧堤がいくつか残っていて、この地が古利根川(中川」)の流れに沿って水の恵みと水害に悩まされてきたことが伝えられている。先述の雷電神社がその堤の上に建つ目印で、近隣は今でも多くの田んぼと共に、開発のため工業団地が広がっている。
工業団地の中にはこんもりとした小さな森があってその中に「瘤様」と呼ばれる不思議な伝承が残る木が茂っている。
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その昔特殊な力を持ったお坊様がいて雨降りの予言をしたり、鳥の言葉がわかったりしたそうだ。
ある時お坊様は旧堤に立つ古木を見つめると、その木は瘤のついたソロの木だった。
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これは珍しい瘤の木だ私が祈って世の人々を救おう」とお坊様は言った。一心に祈りを捧げると神の木として祀られるようになった。以来この木に祈ればどんな病も治るといわれた。評判は響き渡り、近郷からこの木を訪ね手を合わせる人々が後を絶たなかったという。
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願いが叶うという伝承は人づてに残るように感じる。特に病を治すという霊験は人の生への強い願いから人から人へと伝わるのではないか。高鳥邦仁先生の著書を読み、何度か周辺を探してから三年近く経っても見つからずあきらめていたところ、たまたま時間があり周辺を再度周り巡っていたところ瘤様にお参りできた次第だ。時は過ぎても人の思いは残る。そう思わずにはいられない梅雨入り前日の初夏の日差しに照らされた出来事だった。
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引用文献「古利根川奇譚」高鳥邦仁先生