ゆく川の流れは絶えずして、しかも元の水にあらず。淀みに浮かぶうたかたは、かつ消えかつ結びて、久しくとどまりたるためしなし。
世の中にある人と住みかと、また各のごとし。たましき都の内に棟を並べ瓦を争へる、高き、卑しき人の住まいは、世々をへて尽きせぬものなれど、これをまことか尋ぬれば、昔ありし家はまれなり。或は、去年焼けて今年作れり。或は大家滅びて小家となる。
住む人も、これに同じ。処も変わらず、人も多かれど、いにしへ見し人は、二、三十人が中に、わづかに一人二人なり。朝に死し、夕に生まるるならび、ただ泡にぞ似たりける。
知らず、生まれ死ぬる人、いづかたより来りて、いずかたへか去る。また知らず、仮の宿り、誰がためにか心を悩まし、何によりてか、目を喜ばしむる。その主と住みかと、無常を争うさま、今は朝顔の露に異ならず。或は露落ちて花残れり。残るといえども、朝日に枯れぬ。或は花はしぼみて露なほ消えず。消えずといえども、夕べを待つことなし。
私にはわからない、生まれたり死んだりする人は何処からきてどこへさって逝くのか。
十五年前、オープンした店の契約更新の話を聞いた。
更新しなければ、お店はなくなってしまう。開店時、輝いていた外観、内装、テーブル、そして希望にあふれていた従業員。時と共に働く人もかわり、メニューも常に新しくなった。たくさんの人が食事をし、会話を重ね、過ごした時間。僕がかかわったのはその最初の半年余り。
遠く離れ、忘れてしまったことのほうが多い。でもかすかな糸でつながっている。人の心という糸で確かにつながっている。
どこにでもある飲食店かもしれない。でも僕にとってかけがえのないただ一つの店。
自分にできることは何もない。それが現実。でも遠く離れたところで願っている。今この店で働いている人が、毎日明るく仕事できるようにと。また、かつて共に働いた仲間が、それぞれの道で幸せに暮らせるようにと。
生きていくことは、この上なく儚いと感じる。でもともに過ごした時間は間違いなく輝いている。
ここで働くことができてよかった。連絡くれてありがとう。必ずまた会えると信じている。
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます