ピケティ経済学は私たちの社会への見方にどんな影響を与えるか。
ピケティらの学術的研究がこれだけのインパクトを与えるに至った背景には、1980年代からグローバルに浸透してきた新自由主義への経済政治体制が、21世紀の現在、貧富の格差として顕在してきたことがある。
新自由主義は、第二次世界大戦後に広く採用された所得分配の平等化政策に対する反動として、経済・政治・軍事・メディア・学問など、社会のあらゆる側面で推進されてきた。
階級差別の復興と呼んでいいし、世襲資本主義と呼んでもいい。
ピケティが好んで引用するオースティンやバルザックのような19世紀の小説家が描いた世界、富者と貧者が完璧に別れた世界がネオリアリズムの抱く幻想なのだ。
格差の進行に対する社会的反応は二つ。
(1)右傾化。こうした国内の身近な格差の進捗を、国外からの移民労働力や発展途上国の市場進出のせいであるとする。そして、より強い国家による排外主義的統合をめざす。・・・・極右政党の勢力拡張や「ヘイト・スピーチ」の蔓延といった事象に象徴される。
(2)左傾化。貧富の拡大を国境で閉じられた現象と考えず、世界的規模の階級闘争への呼びかけと捉える。・・・・国政代表民主主義の代替物としての地域アイデンティティ重視、「オキュパイ運動」、「反原発デモ」といった街頭直接行動の興隆として現れる。
・・・・(1)が主に「過剰開発国」(<例>欧米や日本)において、(2)が「開発途上国」(<例>南米や中国)において勢力を保っている、とも言えそうだ。しかし、どの地域でも二つの勢力がせめぎあい、ともすれば国家主義的なアナーキズムかの二極に社会が分解しかねない。
そうした状況で、ピケティの本がメディアにも大きく取り上げられ、「ピケティ・パニック」とも言われる反響を呼んでいるのは、次の二つの情念があるからだろう。
(a)ピケティの評判がソ連崩壊とともに葬られたはずのマルクスの亡霊を蘇らせかねないという恐怖
(b)資本主義の延命を図るための有効策として活用したい欲望
「パニック」を(a)は否定的に、(b)は肯定的に捉えるが、いずれも新自由主義的な資本主義がパニクっていることには変わりはないのだ。
ピケティは、マルクス主義者ではない。資本主義の枠内で、収税方法を改善することで格差減少を具体化しようとする。
彼は、マルクスは難しすぐて読みにくいし、データ分析がないので不十分だ、という。
しかし、格差低減のためのピケティの提案二点
①所得税累進課税の引き上げ
②国境を越えた世界資産課税の徴収
は、(マルクスが統計データなしに無視した)富の私的蓄積が技術の進歩と生産性の増大によって相殺される傾向が、新自由主義の浸潤で無効となり、右と左に社会が分裂している今、マルクスが解明しようとした産業革命期における富の集中に対する処方箋を改めて獲得する手段にほかならない。
かくしてピケティは、クズネッツの「逆U字型仮説」をクズにし、マルクスの「資本の無限集積と窮乏化の原理」にマルを付けるのだ。
r(資本収益率)>g(経済成長率)
というピケティの定式を、
「金としての資本」>「人としての幸福」
と読み替えるのだ。
綿密なデータに基づく命題は正しい・・・・とすれば、あとは私たち自身の政治的意志の問題である。
□本橋哲也「ピケティは21世紀のマルクスか ~ピケティ現象を読み解く~」(「週刊金曜日」2014年12月19日号)
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【参考】
「【ピケティ】資本主義の今後の見通し ~トマ・ピケティ(3)~」
「【ピケティ】現代経済学を刷新する巨大なインパクト ~トマ・ピケティ(2)~」
「【ピケティ】分析の特徴と主な考え ~トマ・ピケティ『21世紀の資本』~」
「【経済】累進資産課税が格差を解決する ~アベノミクス批判~」
「【経済】格差が広がると経済が成長しない ~株主資本主義の危険~」
「【経済】なぜ格差は拡大するか ~富の分配の歴史~」
![](https://blogimg.goo.ne.jp/thumbnail/66/66/0f993d8f36eaee1ee75e7285f6c66306_s.jpg)
ピケティらの学術的研究がこれだけのインパクトを与えるに至った背景には、1980年代からグローバルに浸透してきた新自由主義への経済政治体制が、21世紀の現在、貧富の格差として顕在してきたことがある。
新自由主義は、第二次世界大戦後に広く採用された所得分配の平等化政策に対する反動として、経済・政治・軍事・メディア・学問など、社会のあらゆる側面で推進されてきた。
階級差別の復興と呼んでいいし、世襲資本主義と呼んでもいい。
ピケティが好んで引用するオースティンやバルザックのような19世紀の小説家が描いた世界、富者と貧者が完璧に別れた世界がネオリアリズムの抱く幻想なのだ。
格差の進行に対する社会的反応は二つ。
(1)右傾化。こうした国内の身近な格差の進捗を、国外からの移民労働力や発展途上国の市場進出のせいであるとする。そして、より強い国家による排外主義的統合をめざす。・・・・極右政党の勢力拡張や「ヘイト・スピーチ」の蔓延といった事象に象徴される。
(2)左傾化。貧富の拡大を国境で閉じられた現象と考えず、世界的規模の階級闘争への呼びかけと捉える。・・・・国政代表民主主義の代替物としての地域アイデンティティ重視、「オキュパイ運動」、「反原発デモ」といった街頭直接行動の興隆として現れる。
・・・・(1)が主に「過剰開発国」(<例>欧米や日本)において、(2)が「開発途上国」(<例>南米や中国)において勢力を保っている、とも言えそうだ。しかし、どの地域でも二つの勢力がせめぎあい、ともすれば国家主義的なアナーキズムかの二極に社会が分解しかねない。
そうした状況で、ピケティの本がメディアにも大きく取り上げられ、「ピケティ・パニック」とも言われる反響を呼んでいるのは、次の二つの情念があるからだろう。
(a)ピケティの評判がソ連崩壊とともに葬られたはずのマルクスの亡霊を蘇らせかねないという恐怖
(b)資本主義の延命を図るための有効策として活用したい欲望
「パニック」を(a)は否定的に、(b)は肯定的に捉えるが、いずれも新自由主義的な資本主義がパニクっていることには変わりはないのだ。
ピケティは、マルクス主義者ではない。資本主義の枠内で、収税方法を改善することで格差減少を具体化しようとする。
彼は、マルクスは難しすぐて読みにくいし、データ分析がないので不十分だ、という。
しかし、格差低減のためのピケティの提案二点
①所得税累進課税の引き上げ
②国境を越えた世界資産課税の徴収
は、(マルクスが統計データなしに無視した)富の私的蓄積が技術の進歩と生産性の増大によって相殺される傾向が、新自由主義の浸潤で無効となり、右と左に社会が分裂している今、マルクスが解明しようとした産業革命期における富の集中に対する処方箋を改めて獲得する手段にほかならない。
かくしてピケティは、クズネッツの「逆U字型仮説」をクズにし、マルクスの「資本の無限集積と窮乏化の原理」にマルを付けるのだ。
r(資本収益率)>g(経済成長率)
というピケティの定式を、
「金としての資本」>「人としての幸福」
と読み替えるのだ。
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【参考】
「【ピケティ】資本主義の今後の見通し ~トマ・ピケティ(3)~」
「【ピケティ】現代経済学を刷新する巨大なインパクト ~トマ・ピケティ(2)~」
「【ピケティ】分析の特徴と主な考え ~トマ・ピケティ『21世紀の資本』~」
「【経済】累進資産課税が格差を解決する ~アベノミクス批判~」
「【経済】格差が広がると経済が成長しない ~株主資本主義の危険~」
「【経済】なぜ格差は拡大するか ~富の分配の歴史~」
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