2014年12月16日、ペシャワル(パキスタン北西部)で、パキスタン・タリバン運動(TTP)のテロリストが軍系列の学校を襲撃し、児童生徒ら148人を殺害した。
<地元紙ドーンは、治安当局が傍受したとされる実行犯と指示役の通話内容の一部を報じた。
同紙によると、実行犯の一人が「講堂の子どもたちは皆殺しにした。どうしたらいいか」と尋ねたところ、指示役は「軍の兵士が来るのを待て。自爆する前にやつらを殺せ」と命じた。会話は7時間半に及んだ襲撃の最終段階のもので、その後、最後に残った2人が軍部隊に突撃したという。
指示役はペシャワル近郊出身の男で、隣国アフガニスタンの東部ナンガルハル州内から通話していたと治安当局はみている。アフガン東部には、犯行声明を出したパキスタン・タリバーン運動(TTP)のトップ、ファズルラ幹部が潜伏しているとの情報もある。>【注】
タリバンとは、アラビア語の「神学生」の謂いだ。
タリバンは、アフガニスタンとパキスタンにまたがって居住するパシュトゥーン族を中心に広がっていった。
パキスタン軍統合情報局(ISI)は、タリバーンに対する資金援助を行っていた。当初、タリバンはそれほど過激な団体ではなかったが、1990年代、アラビア半島のアルカイダの影響を受けて過激化し、世界イスラム革命を志向するようになった。やがてタリバンやアルカイダと連携し、ウサマ・ビンラディンらによる米国同時多発テロ(2001年9月11日)を引き起こした。米軍はタリバンに対する掃討作戦を徹底的に行った。
その後、ISIもタリバンとの関係を絶った(ただし、ISIの下級将校はいまだにタリバンとつながっている)。
TTPは、バイトゥッラー・マスフードが創設した(2007年12月)組織だ。本家タリバンとの関係は薄い。2009年8月、米軍の空襲によってバイトゥッラーが殺害され、弟(ハッキームラ・マスフード)が指導者を継いだ。
TTPは、2012年10月、女子が教育を受ける権利を主張していたマララ・ユスフザイ(当時15歳)を殺害する目的で襲撃し、重傷を負わせ、国際的にひんしゅくを買った。
ハッキームラは、2013年11月、米軍の無人戦闘機の攻撃によって死亡した。
その後、マララさん襲撃に関与したマウラーナ・ファズルラが指導者を継ぎテロ活動を続けている。
TTP、本家タリバン、アルカイダ、「イスラム国」は、「既存国家制度を破壊し、地上に単一のカリフ(イスラム)帝国を建設する」という共通の目的を追求している。
このような状況で、TTPから「イスラム国」に移籍するテロリストが増えている。
TTPは、構成員を自らの組織に引き留めるために、12月16日の大規模テロを引き起こしたと見られる。
今後、各地のアルカイダ系組織が「イスラム国」の影響を受けると同時に、構成員が「イスラム国」に向けて転出するのを避けるために、世界各地でテロ活動を増加させる危険性がある。
【注】記事「学校襲撃の指示役「自爆前に兵士殺せ」 地元紙報道」(朝日新聞デジタル 2014年12月18日)
□佐藤優「テロリストが「大規模テロ」に走る理由 ~佐藤優の人間観察 第96回~」(「週刊現代」2015年1月17・24日号)
↓クリック、プリーズ。↓

【参考】
「【佐藤優】【ピケティ】はマルクスとは異質な発想 ~『21世紀の資本』~」
「【佐藤優】ロシアが中立国へ送った「シグナル」 ~ペーテル・フルトクビスト~」
「【佐藤優】戦争の時代としての21世紀」
「【佐藤優】「拷問」を行わない諜報機関はない ~CIA尋問官のリンチ~」
「【佐藤優】米国の「人種差別」は終わっていない ~白人至上主義~」
「【佐藤優】【原発】推進を図るロシア ~セルゲイ・キリエンコ~」
「【佐藤優】【沖縄】辺野古への新基地建設は絶対に不可能だ」
「【佐藤優】沖縄の人の間で急速に広がる「変化」の本質 ~民族問題~」
「【佐藤優】「イスラム国」という組織の本質 ~アブバクル・バグダディ~」
「【佐藤優】ウクライナ東部 選挙で選ばれた「謎の男」 ~アレクサンドル・ザハルチェンコ~」
「【佐藤優】ロシアの隣国フィンランドの「処世術」 ~冷戦時代も今も~」
「【佐藤優】さりげなくテレビに出た「対日工作担当」 ~アナートリー・コーシキン~」
「【佐藤優】外交オンチの福田元首相 ~中国政府が示した「条件」~」
「【佐藤優】この機会に「国名表記」を変えるべき理由 ~ギオルギ・マルグベラシビリ~」
「【佐藤優】安倍政権の孤立主義的外交 ~米国は中東の泥沼へ再び~」
「【佐藤優】安倍政権の消極的外交 ~プーチンの勝利~」
「【佐藤優】ロシアはウクライナで「勝った」のか ~セルゲイ・ラブロフ~」
「【佐藤優】貪欲な資本主義へ抵抗の芽 ~揺らぐ国民国家~」
「【佐藤優】スコットランド「独立運動」は終わらず」
「「森訪露」で浮かび上がった路線対立」
「【佐藤優】イスラエルとパレスチナ、戦いの「発端」 ~サレフ・アル=アールーリ~」
「【佐藤優】水面下で進むアメリカvs.ドイツの「スパイ戦」」
「【佐藤優】ロシアの「報復」 ~日本が対象から外された理由~」
「【佐藤優】ウクライナ政権の「ネオナチ」と「任侠団体」 ~ビタリー・クリチコ~」
「【佐藤優】東西冷戦を終わらせた現実主義者の死 ~シェワルナゼ~」
「【佐藤優】日本は「戦争ができる」国になったのか ~閣議決定の限界~」
「【ウクライナ】内戦に米国の傭兵が関与 ~CIA~」
「【佐藤優】日本が「軍事貢献」を要求される日 ~イラクの過激派~」
「【佐藤優】イランがイラク情勢を懸念する理由 ~ハサン・ロウハニ~」
「【佐藤優】新・帝国時代の到来を端的に示すG7コミュニケ」
「【佐藤優】集団的自衛権、憲法改正 ~ウクライナから沖縄へ(4)~ 」
「【佐藤優】スコットランド、ベルギー、沖縄 ~ウクライナから沖縄へ(3)~ 」
「【佐藤優】遠隔地ナショナリズム ~ウクライナから沖縄へ(2)~」
「【佐藤優】ユニエイト教会 ~ウクライナから沖縄へ(1)~ 」
「【佐藤優】独裁者の「再選」が放置される理由 ~バッシャール・アル=アサド~」
「【佐藤優】経済と政治を行き来する新大統領の過去 ~ペトロ・ポロシェンコ~」
「【佐藤優】安倍首相とイスラエル首相「声明」の意味 ~ベンヤミン・ネタニヤフ~」
「【佐藤優】ロシアが送り込んだ「曲者」の正体 ~ウラジーミル・ルキン~」
「【佐藤優】ロシアは日本をどう見ているか ~日本外相の訪露延期~」
「【佐藤優】ウクライナ衝突の「伏線」 ~オレクサンドル・トゥルチノフ~」
「【ウクライナ】危機の深層(2) ~ブラック経済~」
「【ウクライナ】危機の深層(1) ~天然ガス~」
「【ウクライナ】エネルギー・集団的自衛権・尖閣問題 ~日本外交のジレンマ(3)~」
「【ウクライナ】米国の迷走とロシアの急成長 ~日本外交のジレンマ(2)~」
「【ウクライナ】と日本との歴史的関係 ~日本外交のジレンマ(1)~」
「【佐藤優】ウクライナ危機と米国が陥った「恐露病」」
「【佐藤優】プーチン政権がついに発した「シグナル」の意味 ~ロシア外交~」
「【佐藤優】プーチンは「世界のルール」を変えるつもりだ ~クリミア併合~」
「【ウクライナ】暫定政権の中枢を掌握するネオナチ ~クリミア併合の背景~」
「【佐藤優】北方領土返還のルールが変化 ~ロシアのクリミア併合~」
「【佐藤優】ロシアが危惧するのは軍産技術の米流出 ~ウクライナ~」
「【佐藤優】新冷戦ではなく帝国主義的抗争 ~ウクライナ~~」
「【佐藤優】クリミアで衝突する二大「帝国主義」 ~戦争の可能性~」
「【佐藤優】「動乱の半島」クリミアの三つ巴の対立 ~セルゲイ・アクショーノフ~」
「【佐藤優】ウクライナにおける対立の核心 ~ユリア・ティモシェンコ~」
「【ウクライナ】とEU間の、難航する協定締結に尽力するリトアニア」
「【佐藤優】ロシアとEUに引き裂かれる国 ~ウクライナ~」
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同紙によると、実行犯の一人が「講堂の子どもたちは皆殺しにした。どうしたらいいか」と尋ねたところ、指示役は「軍の兵士が来るのを待て。自爆する前にやつらを殺せ」と命じた。会話は7時間半に及んだ襲撃の最終段階のもので、その後、最後に残った2人が軍部隊に突撃したという。
指示役はペシャワル近郊出身の男で、隣国アフガニスタンの東部ナンガルハル州内から通話していたと治安当局はみている。アフガン東部には、犯行声明を出したパキスタン・タリバーン運動(TTP)のトップ、ファズルラ幹部が潜伏しているとの情報もある。>【注】
タリバンとは、アラビア語の「神学生」の謂いだ。
タリバンは、アフガニスタンとパキスタンにまたがって居住するパシュトゥーン族を中心に広がっていった。
パキスタン軍統合情報局(ISI)は、タリバーンに対する資金援助を行っていた。当初、タリバンはそれほど過激な団体ではなかったが、1990年代、アラビア半島のアルカイダの影響を受けて過激化し、世界イスラム革命を志向するようになった。やがてタリバンやアルカイダと連携し、ウサマ・ビンラディンらによる米国同時多発テロ(2001年9月11日)を引き起こした。米軍はタリバンに対する掃討作戦を徹底的に行った。
その後、ISIもタリバンとの関係を絶った(ただし、ISIの下級将校はいまだにタリバンとつながっている)。
TTPは、バイトゥッラー・マスフードが創設した(2007年12月)組織だ。本家タリバンとの関係は薄い。2009年8月、米軍の空襲によってバイトゥッラーが殺害され、弟(ハッキームラ・マスフード)が指導者を継いだ。
TTPは、2012年10月、女子が教育を受ける権利を主張していたマララ・ユスフザイ(当時15歳)を殺害する目的で襲撃し、重傷を負わせ、国際的にひんしゅくを買った。
ハッキームラは、2013年11月、米軍の無人戦闘機の攻撃によって死亡した。
その後、マララさん襲撃に関与したマウラーナ・ファズルラが指導者を継ぎテロ活動を続けている。
TTP、本家タリバン、アルカイダ、「イスラム国」は、「既存国家制度を破壊し、地上に単一のカリフ(イスラム)帝国を建設する」という共通の目的を追求している。
このような状況で、TTPから「イスラム国」に移籍するテロリストが増えている。
TTPは、構成員を自らの組織に引き留めるために、12月16日の大規模テロを引き起こしたと見られる。
今後、各地のアルカイダ系組織が「イスラム国」の影響を受けると同時に、構成員が「イスラム国」に向けて転出するのを避けるために、世界各地でテロ活動を増加させる危険性がある。
【注】記事「学校襲撃の指示役「自爆前に兵士殺せ」 地元紙報道」(朝日新聞デジタル 2014年12月18日)
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【参考】
「【佐藤優】【ピケティ】はマルクスとは異質な発想 ~『21世紀の資本』~」
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