トマ・ピケティがレジオン・ド・ヌール勲章の受章を拒否した【注】。「勲章の人選などはフランス政府の役割ではない。政府は、フランスとEUの経済立て直しに専念すべき」だというのが理由だった。
ピケティは、資本は放置すれば拡大を続け、過去に蓄積された富が異常なほどの重みを持つ社会を生む、と警告する。
正月に伝えられたこの爽やかなニュースは、前年の暮の紅白歌合戦の惨憺たる印象を拭う。
紅白は、一人で歌う自立した歌手の姿が激減し、AKB48と、そのクローンのようなアイドル・グループが占拠していた。
こうしたグループの経営手法は、「過去の蓄積による今を支配」そのものだ。つんくや秋元康といった年配男性が蓄積した富、人脈、ノウハウを駆使して、蓄積のない少女たちを束で集め、使い捨てのように入れ替えていく。ほとんどのメンバーの賃金は、アルバイト並みの安さだが、「卒業」してスターとなったひと握りの少女たちが広告塔となることで、応募者は群がり、莫大な利益を生む。
与党税制改正大綱(2014年12月30日発表)でも、「過去の蓄積による今の支配」が基盤だ。
まず、子や孫に結婚や子育て費用を贈与すれば、一人当たり1,000万円までは贈与税が非課税となる制度が新設された。
2013年度に導入された子や孫への教育費を1,500万円まで非課税とする制度も延長された。
住宅購入費も延長の上、限度額が1,000万円から1,500万円に拡大される。
一方、生活保護費は切り下げが続く。
返済がいらない給付型奨学金は、いまだに導入されていない。
結婚・教育・住宅は、人が生き、次世代を再生産するための基本的な支えだ。それが、各家庭の富の蓄積度によって決定される政策が、大手を振って横行し始めている。
法人税減税によって企業の賃上げの原資を生み出す、という政府説明も奇妙だ。労組の弱体化もあって、企業利益が増えれば配当か、海外投資に回ることが常態となっているからだ。
賃金に回るとしても、
(1)黒字経営で交渉力のある労組がある一部企業と、
(2)それ以外の企業
の社員の格差は開く。
政府が集めた税を再分配することで国民の健康で文化的生活を維持する機能が壊れ、富裕層や大手企業の配下にある者たちだけに富が移転される「世襲的資本主義」が再構築されようとしている。
ここに、「褒める」というもう一つのアメが加わる。子育て支援、キャリア支援などで政府が「優良」と認定した企業を表彰する手法だ。
だが、こうした企業表彰は、企業の内部に立ち入った審査が難しい。しかも、企業のPRに比重がかかる結果、ワークライフバランスで表彰された大手企業で過労死訴訟が起きる事態も起きたりする。
安倍政権のスローガン「日本を取り戻す」は、戦前の社会の基盤だった世襲制度の回復なのか。
「表彰より格差是正の経済政策を」という勲章拒否ピケティのメッセージは、日本政府に対してこそ、突きつけられてよい。
【注】記事「ピケティ氏、仏勲章を辞退 「決めるのは政府ではない」」(朝日新聞デジタル 2015年1月2日)
□竹宮三恵子「再構築される「世襲的資本主義」 ピケティ勲章拒否の警告 ~竹宮三恵子の経済私考~」(「週刊金曜日」2015年1月9日号)
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【参考】
「【佐藤優】【ピケティ】はマルクスとは異質な発想 ~『21世紀の資本』~」
「【ピケティ】『21世紀の資本』に係る書評の幾つか」
「【ピケティ】は21世紀のマルクスか ~ピケティ現象を読み解く~」
「【ピケティ】資本主義の今後の見通し ~トマ・ピケティ(3)~」
「【ピケティ】現代経済学を刷新する巨大なインパクト ~トマ・ピケティ(2)~」
「【ピケティ】分析の特徴と主な考え ~トマ・ピケティ『21世紀の資本』~」
「【経済】累進資産課税が格差を解決する ~アベノミクス批判~」
「【経済】格差が広がると経済が成長しない ~株主資本主義の危険~」
「【経済】なぜ格差は拡大するか ~富の分配の歴史~」
ピケティは、資本は放置すれば拡大を続け、過去に蓄積された富が異常なほどの重みを持つ社会を生む、と警告する。
正月に伝えられたこの爽やかなニュースは、前年の暮の紅白歌合戦の惨憺たる印象を拭う。
紅白は、一人で歌う自立した歌手の姿が激減し、AKB48と、そのクローンのようなアイドル・グループが占拠していた。
こうしたグループの経営手法は、「過去の蓄積による今を支配」そのものだ。つんくや秋元康といった年配男性が蓄積した富、人脈、ノウハウを駆使して、蓄積のない少女たちを束で集め、使い捨てのように入れ替えていく。ほとんどのメンバーの賃金は、アルバイト並みの安さだが、「卒業」してスターとなったひと握りの少女たちが広告塔となることで、応募者は群がり、莫大な利益を生む。
与党税制改正大綱(2014年12月30日発表)でも、「過去の蓄積による今の支配」が基盤だ。
まず、子や孫に結婚や子育て費用を贈与すれば、一人当たり1,000万円までは贈与税が非課税となる制度が新設された。
2013年度に導入された子や孫への教育費を1,500万円まで非課税とする制度も延長された。
住宅購入費も延長の上、限度額が1,000万円から1,500万円に拡大される。
一方、生活保護費は切り下げが続く。
返済がいらない給付型奨学金は、いまだに導入されていない。
結婚・教育・住宅は、人が生き、次世代を再生産するための基本的な支えだ。それが、各家庭の富の蓄積度によって決定される政策が、大手を振って横行し始めている。
法人税減税によって企業の賃上げの原資を生み出す、という政府説明も奇妙だ。労組の弱体化もあって、企業利益が増えれば配当か、海外投資に回ることが常態となっているからだ。
賃金に回るとしても、
(1)黒字経営で交渉力のある労組がある一部企業と、
(2)それ以外の企業
の社員の格差は開く。
政府が集めた税を再分配することで国民の健康で文化的生活を維持する機能が壊れ、富裕層や大手企業の配下にある者たちだけに富が移転される「世襲的資本主義」が再構築されようとしている。
ここに、「褒める」というもう一つのアメが加わる。子育て支援、キャリア支援などで政府が「優良」と認定した企業を表彰する手法だ。
だが、こうした企業表彰は、企業の内部に立ち入った審査が難しい。しかも、企業のPRに比重がかかる結果、ワークライフバランスで表彰された大手企業で過労死訴訟が起きる事態も起きたりする。
安倍政権のスローガン「日本を取り戻す」は、戦前の社会の基盤だった世襲制度の回復なのか。
「表彰より格差是正の経済政策を」という勲章拒否ピケティのメッセージは、日本政府に対してこそ、突きつけられてよい。
【注】記事「ピケティ氏、仏勲章を辞退 「決めるのは政府ではない」」(朝日新聞デジタル 2015年1月2日)
□竹宮三恵子「再構築される「世襲的資本主義」 ピケティ勲章拒否の警告 ~竹宮三恵子の経済私考~」(「週刊金曜日」2015年1月9日号)
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【参考】
「【佐藤優】【ピケティ】はマルクスとは異質な発想 ~『21世紀の資本』~」
「【ピケティ】『21世紀の資本』に係る書評の幾つか」
「【ピケティ】は21世紀のマルクスか ~ピケティ現象を読み解く~」
「【ピケティ】資本主義の今後の見通し ~トマ・ピケティ(3)~」
「【ピケティ】現代経済学を刷新する巨大なインパクト ~トマ・ピケティ(2)~」
「【ピケティ】分析の特徴と主な考え ~トマ・ピケティ『21世紀の資本』~」
「【経済】累進資産課税が格差を解決する ~アベノミクス批判~」
「【経済】格差が広がると経済が成長しない ~株主資本主義の危険~」
「【経済】なぜ格差は拡大するか ~富の分配の歴史~」