語られる言葉の河へ

2010年1月29日開設
大岡昇平、佐藤優、読書

【メディア】萎縮 「公式発表をベースに」は大本営報道の再来 ~籾井NHK会長発言~

2016年06月02日 | 社会
 (1)籾井勝人・NHK会長が、局内の会議で原発について「公式発表をベースに」伝える旨を指示したことが報道された【4月23日付け朝刊「毎日新聞」、4月27日付け朝刊「朝日新聞」など】。
 「独立した」報道機関で「公式発表をベースに」報道することを公に宣言した戦後初めての試みであり、挑戦ではないか。
 その帰結は、かつての大本営発表報道の容認と再来にほかならない。

 (2)籾井会長が発言したのは、熊本地震発生を受けて開いたNHK内部の災害対策本部会議で、同月20日にNHK放送センターで開催された。
 会長は、公式発表をベースに伝える旨の理由として、「住民の不安をいたずらにかき立てないよう」にするためとしつつ、「いろいろある専門家の見解を伝えても、いたずらに不安をかきたてる」とも発言している。
 同月26日の衆議院総務委員会で、公式発表が何を指すかについて質問を受けた籾井会長は、気象庁、原子力規制委員会、九州電力が出しているもの、を挙げている。

 (3)自由で独立した報道機関(公共放送機関であるNHKを含む)であろうとする限り、原発についてであれ、何であれ、その報道について当局の「公式発表をベースに」報道しつつ、報道機関の独自の取材や調査など多様な報道(専門家の見解を含む)を狭め、排除することは原理、原則のレベルで認められない。
 「公式発表をベースに」した報道機関とは、政府の広報機関に他ならず、政府の宣伝、プロパガンダ機関、かつての大本営発表を垂れ流す機関になり下がることを意味する。
 何人も、自由で独立したNHKを支える報道原理を勝手に改変することは、もとより許されない。

 (4)何よりも、原発をめぐる情報や報道をめぐっては、3・11の福島原発事故の教訓をこそ踏まえるべきではないか。
 政府は、当初長いこと、放射能の拡散を予測するSPEEDI情報を公表せず、的確な避難を困難にさせた。こうした情報は、
   当局が公表するまで報道機関はこれを待ってしか報道できず、
   当局が公表しなければ報道機関は永遠に報道するな、
ということになる。報道機関の自殺だ。

 (5)事故当初は特に、メディアによる福島原発報道は公式発表報道のオンパレードだった。そのため、メディアは、
   政府や東京電力に真相の情報公開を強く迫らず、
   事故の重大性や放射能の危険性を過少に発表する当局の主張を無批判に伝え、
   事故と原発推進政策をめぐる政府や東電の責任を厳しく追及する姿勢も稀薄だった。
 ジャーナリズムの魂である真実の探求も権力の監視も、雲散霧消してしまったわけだ。

 (6)原発報道について、
   公式発表を批判的に吟味、克服し、調査報道に軸足を置いた報道の転換
こそが、報道機関に求められている課題だ。
 翻って考えると、原発問題に限らず、「公式発表をベースに」したのではない報道を、この国のメディアは貫いてきたと言えるか。メディア全体が克服すべき問題だ。

□田島泰彦(上智大学教授)「NHK籾井会長発言 「公式発表をベースに」は大本営報道の再来」(「週刊金曜日」2016年5月20日号)
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 【参考】
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【メディア】オバマの広島訪問に大賛辞の朝日紙、立ち直りは疑問
【メディア】への政治家による圧力は犯罪とならないのか ~停波問題~
【メディア】放送の「自由」と「公平・公正」とは ~停波問題~
【メディア】安倍首相のメディア対策に高まる国際的批判 ~停波問題~
【メディア】自民党のテレ朝への圧力が契機に ~停波問題~
【メディア】安倍政権による行政指導の誤り ~放送電波停止発言~
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