語られる言葉の河へ

2010年1月29日開設
大岡昇平、佐藤優、読書

【佐藤優】宇野経済学の面白さ ~いま生きる「資本論」(8)~

2018年06月07日 | ●佐藤優
 <最後に、宇野学派についてもう一度触れますと、宇野経済学の面白いところは、資本家でも労働者でもインテリでも、日本人でもロシア人でもアメリカ人でも、論理さえ追っていけば共通の結論になるという実証性、客観性を持っているところです。ですから、みなさんの中で、資本主義社会の成り立ちは掴んだから、さっき私が言ったのとは逆に、「わかった、俺、人を搾取して大儲けしてやろうと思うんだ」という読み方をされる人が出てきてもOKなんです。例えば竹中平蔵さんは講座でも言いましたように、『資本論』をきちんと読んで、労働力が価値の源泉だとよくわかっている。だから彼は、マネーゲームをやらないで、パソナの会長をやっているのでしょう。人間の労働力からギューッと搾り取っていくというのが、本当の実体的な価値の源泉だとよくわかっているはずです。彼は彼なりの『資本論』の使い方をしているのです。
 まったく別な考え方をしている人に、宇野弘蔵の高弟である鎌倉孝夫先生がいます。先生とは、私が高校生の頃にある勉強会で出会いました,高校生が居酒屋に行ったらいけませんが、勉強会の後の居酒屋で、私たちに一円も払わせない先生から「割り勘はダメなものだ」と諄々と説かれたのです。その鎌倉先生を私は『資本論』読みつしてずっと尊敬していますが、先生は世界のチュチェ思想研究会の幹部でもあり、北朝鮮から最高級の勲章をもらっています。チュチェ思想に基づいて世界を変えていくのが一番いい、というのが先生の実践的主張です。ここのところは、私は若干意見を異にします(会場笑)。
 あるいは、滝沢克美という九州大学で哲学を教えていた先生がいました。彼は西田幾多郎の弟子で、本当はハイデガーのところで勉強したかったのだけれども、西田に言われてボン大学でカール・バルトの教えを受けました。彼は『「現代」への哲学的思惟』の中で、宇野経済学の後ろに神がいることを表現しようとしています。この本にはなかなか刺激を受けました。私も宇野経済学を援用しながら、実践においては神学的なものの考え方から冷静に資本主義社会を見ていこうと思っているのです。なるほど、資本主義社会は永久に超えられないものではないが、予見される未来においては超えられないだろう。そんな認識を持ちながらも、さて、どうしていくかということを考えていきた。
 例えば、宇野経済学の枠組みは、ポストモダン以後の主流であった新カント派です。宇野自身は、自分はカント派ではないと言っていますが、客観的に見て、新カント派の方法論をとっています。この新カント派は大正教養主義を作り出して、1970年前後の学園紛争まで日本の知的な社会を支えていました。意外とそこまで戻ってみたら、われわれが生き残る上でのいい知恵が出てくるのではないかと、漠然と考えています。今、ウクライナ情勢を見てもわかるように、国連中心主義などがぶっ飛んで、力によって物事を解決する勢力均衡的なモデルに世界は変わりつつある。ニュートンの力学的なモデルに変わりつつあるわけです。そうすると、そんな時代と対応するのは、新カント派ではないか。極めて雑駁に言うと、そんな問題意識を持って、私はみなさんと『資本論』を読んでいました。>

□佐藤優『いま生きる「資本論」』(新潮社、2014)の「6 直接的人間関係」の「自分の周りでできること」から一部引用

 【参考】
【佐藤優】自分の周りでできること二つ・補遺 ~いま生きる「資本論」(7)~
【佐藤優】自分の周りでできること二つ ~いま生きる「資本論」(6)~
【佐藤優】報酬と賃金は違う ~いま生きる「資本論」(5)~
【佐藤優】剰余価値の作り方:労働時間延長と労働強化 ~いま生きる「資本論」(4)~
【佐藤優】制約条件をわかった上でやる、突き放して見る ~いま生きる「資本論」(3)~
【佐藤優】アベノミクスとファシズム ~いま生きる「資本論」(2)~
【佐藤優】親の収入・学歴と、子どもの学力の関係 ~いま生きる「資本論」(1)~


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