<ここから少し難しい話に入ります。
マルクスの『資本論』に関しては、二つの読み方があります。先ほど名前を出した宇野弘蔵という人の読み方、いわゆる宇野学派の読み方と、それ以外の読み方です。
宇野学派の読み方とは何か、乱暴に説明しますね。
マルクスには二つの魂がある、と考えるんです。一つは、マルクスは革命家であり、共産主義者であるという魂。ちなみにマルクスは「社会主義」という言葉をほとんど使っていません。「社会主義」という言葉を使う時は、だいたいネガティブなコンテキストです。マルクスが言うところの社会主義のイメージは、ナチスみたいな国家社会主義です。あるいは北朝鮮のような体制を指すときに、「社会主義」という言葉を使います。
「社会主義」に対して、これから作り上げていかねばならない未来の体制として、「共産主義」という言葉を使っています。エンゲルスは、共産主義の初期の段階が社会主義という考え方です。このエンゲルスの考え方がレーニンとスターリンへ繋がっていきます。マルクスの考え方は、バクーニンとかプルードンとかのアナーキストに近い考え方です。宇野弘蔵の考え方は、実はアナーキズムに近い。現在だと、柄谷行人さんの発想もアナーキズムに近いですね。
マルクスの二つの魂に戻りますよ。マルクスには、「共産主義を起こしたい」という革命家の魂がある。それと同時に、資本主義社会はどういうふうなシステムになっているのか、その内在的な論理を解明したいという観察者の魂がある。そして宇野弘蔵は、マルクスの〈革命家の魂〉を括弧の中に入れて除外したのです。そして、観察者マルクスのテキストを論理としてどれだけ整合性があるか丹念に読んでいって、論理が矛盾していればいくらマルクスの主張していることであろうとも却下する。そういうふうに再整理していきました。
ですから、一方においては富の集積が起きて、他方においては貧困の集積が起きる。そして、その格差はどんどん拡大していき、ついに人間の抵抗が爆発する。革命が起きる、最後の警鐘が鳴る、収奪者が収奪される。そういう革命を志す部分も『資本論』にはあるのですが、こういう箇所はマルクスがちょっと興奮して書いてしまったんじゃないか。宇野はそういう立場です。
マルクスさん、そうではないでしょう? 恐慌が起きて、失業者が出るし、死ぬ人だって出るかもしれないけれども、イノベーションが起きて、資本主義は生き残っていきますよ、と宇野は主張するのです。どんどんイノベーションを繰り返して、資本主義はあたかも永続するがごとく運動を繰り返しますよ、と。宇野は、意外とシュンペーターの「創造的破壊」などに近いような恐慌の論理を唱えています。このあたりは、またいずれ詳しくお話することになるでしょう。>
□佐藤優『いま生きる「資本論」』(新潮社、2014)の「1 恋とフェスティズム」の「二つの魂がある」を引用
【参考】
「【佐藤優】第一次世界大戦のため日本で『資本論』研究が盛んに ~いま生きる「資本論」(10)~」
「【佐藤優】本書は人生が苦しい原因の6割を解明する ~いま生きる「資本論」(9)~」
「【佐藤優】宇野経済学の面白さ ~いま生きる「資本論」(8)~」
「【佐藤優】自分の周りでできること二つ・補遺 ~いま生きる「資本論」(7)~」
「【佐藤優】自分の周りでできること二つ ~いま生きる「資本論」(6)~」
「【佐藤優】報酬と賃金は違う ~いま生きる「資本論」(5)~」
「【佐藤優】剰余価値の作り方:労働時間延長と労働強化 ~いま生きる「資本論」(4)~」
「【佐藤優】制約条件をわかった上でやる、突き放して見る ~いま生きる「資本論」(3)~」
「【佐藤優】アベノミクスとファシズム ~いま生きる「資本論」(2)~」
「【佐藤優】親の収入・学歴と、子どもの学力の関係 ~いま生きる「資本論」(1)~」
マルクスの『資本論』に関しては、二つの読み方があります。先ほど名前を出した宇野弘蔵という人の読み方、いわゆる宇野学派の読み方と、それ以外の読み方です。
宇野学派の読み方とは何か、乱暴に説明しますね。
マルクスには二つの魂がある、と考えるんです。一つは、マルクスは革命家であり、共産主義者であるという魂。ちなみにマルクスは「社会主義」という言葉をほとんど使っていません。「社会主義」という言葉を使う時は、だいたいネガティブなコンテキストです。マルクスが言うところの社会主義のイメージは、ナチスみたいな国家社会主義です。あるいは北朝鮮のような体制を指すときに、「社会主義」という言葉を使います。
「社会主義」に対して、これから作り上げていかねばならない未来の体制として、「共産主義」という言葉を使っています。エンゲルスは、共産主義の初期の段階が社会主義という考え方です。このエンゲルスの考え方がレーニンとスターリンへ繋がっていきます。マルクスの考え方は、バクーニンとかプルードンとかのアナーキストに近い考え方です。宇野弘蔵の考え方は、実はアナーキズムに近い。現在だと、柄谷行人さんの発想もアナーキズムに近いですね。
マルクスの二つの魂に戻りますよ。マルクスには、「共産主義を起こしたい」という革命家の魂がある。それと同時に、資本主義社会はどういうふうなシステムになっているのか、その内在的な論理を解明したいという観察者の魂がある。そして宇野弘蔵は、マルクスの〈革命家の魂〉を括弧の中に入れて除外したのです。そして、観察者マルクスのテキストを論理としてどれだけ整合性があるか丹念に読んでいって、論理が矛盾していればいくらマルクスの主張していることであろうとも却下する。そういうふうに再整理していきました。
ですから、一方においては富の集積が起きて、他方においては貧困の集積が起きる。そして、その格差はどんどん拡大していき、ついに人間の抵抗が爆発する。革命が起きる、最後の警鐘が鳴る、収奪者が収奪される。そういう革命を志す部分も『資本論』にはあるのですが、こういう箇所はマルクスがちょっと興奮して書いてしまったんじゃないか。宇野はそういう立場です。
マルクスさん、そうではないでしょう? 恐慌が起きて、失業者が出るし、死ぬ人だって出るかもしれないけれども、イノベーションが起きて、資本主義は生き残っていきますよ、と宇野は主張するのです。どんどんイノベーションを繰り返して、資本主義はあたかも永続するがごとく運動を繰り返しますよ、と。宇野は、意外とシュンペーターの「創造的破壊」などに近いような恐慌の論理を唱えています。このあたりは、またいずれ詳しくお話することになるでしょう。>
□佐藤優『いま生きる「資本論」』(新潮社、2014)の「1 恋とフェスティズム」の「二つの魂がある」を引用
【参考】
「【佐藤優】第一次世界大戦のため日本で『資本論』研究が盛んに ~いま生きる「資本論」(10)~」
「【佐藤優】本書は人生が苦しい原因の6割を解明する ~いま生きる「資本論」(9)~」
「【佐藤優】宇野経済学の面白さ ~いま生きる「資本論」(8)~」
「【佐藤優】自分の周りでできること二つ・補遺 ~いま生きる「資本論」(7)~」
「【佐藤優】自分の周りでできること二つ ~いま生きる「資本論」(6)~」
「【佐藤優】報酬と賃金は違う ~いま生きる「資本論」(5)~」
「【佐藤優】剰余価値の作り方:労働時間延長と労働強化 ~いま生きる「資本論」(4)~」
「【佐藤優】制約条件をわかった上でやる、突き放して見る ~いま生きる「資本論」(3)~」
「【佐藤優】アベノミクスとファシズム ~いま生きる「資本論」(2)~」
「【佐藤優】親の収入・学歴と、子どもの学力の関係 ~いま生きる「資本論」(1)~」