<コーカサスは、北コーカサスとトランスコーカサスによって構成される。北コーカサスとトランスコーカサスの間にはコーカサス山脈が横たわっている。日本アルプスのような山岳地帯を想像していただければよい。歴史的にこの地域では、言語、民族、宗教が複雑に入り組んでいる。オセチア語はペルシア語系の言語だ。アゼルバイジャン語はトルコ語の方言のような感じだ。それに対して、グルジア語、チェチェン語、イングーシ語などのコーカサス系言語は、他の言語とはまったく異なる独立系言語である。通常の言語は、日本語、英語、ロシア語、中国語、アラビア語など、いずれも主格-対格の構造になっている。しかし、グルジア語はまったく別の能格構造になっている。この辺は、文法学の実に難しい話なのだが、言語学者の千野栄一氏がチェコのプラハで、コーカサス語の専門家であるバーツラフ・A・チェルニー博士を訪問したときの記録を読むと、概要がわかる。以下、チェルニー博士が千野氏に説明した内容だ。
〈グルジア語ではラテン語や古代ギリシャ語に見られるような動詞のパラダイム(動詞の変化表)は不可能であるらしい。一万ほどありうる変化形のうち、それぞれの動詞で違った形が実現されるので、一見すべての動詞が不規則に見えるが、本当はきちんとした体系をなしているという説明がなされた。そして、一万という数に驚いた私に博士は、「チェルケス語には2.5ミリアルドの形がありえますよ」と、いって、にっこりされた。私は耳を疑ったので、失礼をかえりみずもう一度、「2.5ミリアルドですね」(これはすなわち25億という意味である)と、たしかめると、「そう25億です」という返事が戻って来た。〉(千野栄一『プラハの古本屋』大修館書店、1987年、67~68頁)
言語構造と思想には密接な関係がある。今回、国際秩序に大混乱をもたらすきっかけをつくったグルジアのサーカシビリ大統領やソ連の独裁者スターリン、さらに日本でも翻訳が出されている現代ロシアの小説家ボリス・アクーニン(本名グリゴーリー・チハルチシビリ、アクーニンは日本語の“悪人”からとったペンネーム)などは、グルジア語を母語にしているので、他の言語を母語とする人々とは違った天才的な発想がでてくるのだろう。>
□佐藤優『自壊する帝国』(新潮社、2006/後に新潮文庫、2008)の「文庫版あとがき--帝国は復活する」から一部引用
【参考】
「【佐藤優】情報収集のコツ ~インテリジェンス~」
「【佐藤優】情報操作 ~インテリジェンス~」

〈グルジア語ではラテン語や古代ギリシャ語に見られるような動詞のパラダイム(動詞の変化表)は不可能であるらしい。一万ほどありうる変化形のうち、それぞれの動詞で違った形が実現されるので、一見すべての動詞が不規則に見えるが、本当はきちんとした体系をなしているという説明がなされた。そして、一万という数に驚いた私に博士は、「チェルケス語には2.5ミリアルドの形がありえますよ」と、いって、にっこりされた。私は耳を疑ったので、失礼をかえりみずもう一度、「2.5ミリアルドですね」(これはすなわち25億という意味である)と、たしかめると、「そう25億です」という返事が戻って来た。〉(千野栄一『プラハの古本屋』大修館書店、1987年、67~68頁)
言語構造と思想には密接な関係がある。今回、国際秩序に大混乱をもたらすきっかけをつくったグルジアのサーカシビリ大統領やソ連の独裁者スターリン、さらに日本でも翻訳が出されている現代ロシアの小説家ボリス・アクーニン(本名グリゴーリー・チハルチシビリ、アクーニンは日本語の“悪人”からとったペンネーム)などは、グルジア語を母語にしているので、他の言語を母語とする人々とは違った天才的な発想がでてくるのだろう。>
□佐藤優『自壊する帝国』(新潮社、2006/後に新潮文庫、2008)の「文庫版あとがき--帝国は復活する」から一部引用
【参考】
「【佐藤優】情報収集のコツ ~インテリジェンス~」
「【佐藤優】情報操作 ~インテリジェンス~」
