語られる言葉の河へ

2010年1月29日開設
大岡昇平、佐藤優、読書

【本】アミエルの日記 ~わが魂の遍歴~

2016年08月14日 | エッセイ
 (1)社会思想社は、現代教養文庫と題して、よいアンソロジーをたくさん出した。
 たとえば、『戦後の詩』。戦後という時代を色濃く反映した詩編を古風な定型詩から前衛詩まで網羅した。
 あるいは、『愛すること・生きること』。膨大なロマン・ロラン全集から名言を選びだし、さながらロラン自身によるロラン入門だった。
 2002(平成14)年、社会思想社が倒産し、終刊したのはまことに惜しまれる。既刊書、約1,800点。

 (2)アミエルの膨大な日記を1巻に抄訳した本書も、現代教養文庫の秀逸な1冊だ。古今東西を通じて代表的なこの日記文学に近づきやすくしてくれた本だ。
 日記にあらわれたアミエルは、自分の存在が他人に影響を与えるのを極度におそれた人である。怖れ、かつ、畏れた。ために、いろいろ思い惑いはしても、行動に移ることができなかった。
 人は、一定の状況の中に生きる。条件づけられた存在である。行動するには、選択しなくてはならない。あるものを選択するという行為は、同時に、別の、選択しなかったものを棄てる行為でもある。
 アミエルは可能性の一部を棄てることができなかった。だから、いつも決定を先延べし、時間の経過により、すべてを棄てる結果となった。

 (3)要するに、優柔不断な意気地なしというのが通説なのだが、林達夫「アミエルと革命」「社会主義者アミエル」(いずれも『林達夫著作集4 批評の弁証法』、平凡社、1971)は、通説とは少しちがったアミエル像を提示している。
 抄訳の本書からも、通説とは違う、アミエルの多様な側面を読みとることは可能である。
 古い倉庫を始末し、新しく設置した際、古い倉庫から出てきた本の一。

□アンリ-フレデリック・アミエル(大塚幸男訳編)『アミエルの日記 ~わが魂の遍歴~』 (現代教養文庫、1968)
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