語られる言葉の河へ

2010年1月29日開設
大岡昇平、佐藤優、読書

【野村克也】由伸・巨人、崩壊の内幕 ~問題だらけのプロ野球~

2016年08月24日 | 批評・思想

 (1)巨人のバッターは、「配球を読まずに来た球を打つ」という天才型が多い。阿部慎之助を始め、長野久義、坂本勇人、生え抜きではないが村田修一。
 野村克也がキャッチャーだったら、こんなにやりやすい打線はない。天才打線だから、配球を読むとか、絞るとかしない。4打席同じ攻め方でも抑えられるはずだ。

 (2)高橋由伸・監督もたいしたことないなと思わせたのが、5月26日の広島戦(マツダスタジアム)。1点を勝ち越され、2-3とリードされた7回。先頭の長野が代わったばかりのヘーゲンズから四球を選び、代走にスペシャリストの鈴木尚広を起用して勝負をかけた。
 ところが、村田は初球を打ち、最悪の遊ゴロ併殺打。原監督時代からよく見られた場面だが、村田にバントはないのだから、当然盗塁を期待した代走になる。村田は、鈴木が走るまで待つ場面だった。果たして由伸監督は、そういう指示をしっかり出していたのだろうか?
 巨人は、8、9回も無得点で1点及ばず敗れ、その試合で広島に3タテを食らい、5連敗。結局連敗は7まで伸びた。
 村田や長野のこういう場面は原監督時代の昨年まで何度も見られたが、由伸監督になっても変わらない。負けている試合の終盤でも、平気で初球から打ってしまう。
 相手ピッチャーも、調子が悪いかもしれないし、ストライクが入らないこともあるかもしれない。先ほどの広島戦なら、ヘーゲンズは先頭バッターに四球を与えて、不安いっぱいだったはず。それが初球を打って併殺打なのだから、大助かりだ。
 負けている場面の先頭バッターがあんなバッティングをして、由伸監督やコーチ陣は何も言わないのか。理解しがたい野球だ。

 (3)セ・リーグ6球団で一番優勝から遠ざかっている広島が首位に立っている。
 就任2年目の緒方孝市・監督は外野出身で、これといって何か特徴のある采配をしているわけではない。
 今季、エースの前田健太がドジャースに移籍。大きく戦力ダウンした。これが、むしろチームにとって刺激になったのだ。
 毎年2桁勝利を挙げていたエースがいなくなったのだから、「我々がやらなきゃ」、「頼りになる人がいなくなったのだから、頑張らないと」と選手は危機感を感じるものだ。
 ヤクルトでも、広澤克己が巨人にFA移籍した1995年と、オマリーが退団した1997年はともに日本一になっている(監督は野村克也)。今年の広島と同じような状況で、残された選手が団結して張り切った。
 他球団でも主力選手がいなくなると、逆に強くなることが意外と多い。まさに「無形の力」といっていい。
 無形の力とは、文字どおり「形にならない力」、「目に見えない力」のこと。無形の力に限界はなく、磨けば磨くほど研ぎ澄まされ、チーム全員共有できる。まさに今年の広島がこれだ。
 セ・リーグは外野出身の監督が5人。これが緒方監督にとっては有利に働いているのかもしれない。いずれも似たりよったり。しかも5人のうち3人は新人監督で、これも2年目の緒方監督に優位に働いているかのようだ。

 (4)捕手は、分析力、観察力、洞察力、記憶力、判断力の5つの要素を鍛えることが大事だ。レギュラーになるためには、少なくとも分析力と観察力は欠かせない。これに洞察力が加われば、一流といってよい。

 (5)ほとんどの外国人監督は、成功していない。プロ野球80年の歴史で、ロッテのバレンタイン監督、日本ハムのヒルマン監督が日本一になった例があるだけだ。
 外国人監督は、あまり動かないイメージがある。南海のヘッドコーチだったドン・ブレーザーが阪神の監督になったときもそうだった。ラミレス監督もあまり動かない。
 例えば、巨人戦でも「イケイケドンドン」の最下位野球。強いチームと対戦するときは、正攻法で勝てるわけがない。奇策を用いていかなければダメだ。ところが、DeNAは1番バッターまで4番のようなバッティングをしている。バッテリーも何も考えていない。6月26日の巨人戦(横浜スタジアム)でモスコーソがギャレットに3打席連続ホームランを打たれた。しかも、すべてストレートを打たれたもの。キャッチャーはルーキーの戸柱恭孝だったが、穴の多いバッターにあんな配球は罰金ものだ。それに疑問も感じずに、首を振らないモスコーソも罰金だ。
 2015年、DeNAはオールスターまで首位に立っていた。ところがその後、急降下して最下位で終了。バッティングの状態がいいときは勝てるが、負け始めると歯止めが利かなくなる。結局は結果オーライの野球しかしていないから、1年間は続かない。だから最下位になる。ラミレス監督になっても、チームはまったく変わっていない。

 (6)尾花高夫(現・巨人一軍投手コーチ)は、2005年、横浜の監督に就いたが、投手コーチとしてはしっかりとした考えをもっているが、言いたいことをハッキリ言うゴーイングマイウェイの性格。人の上に立つ器ではなく、案の定、2年連続最下位でチームを去った。
 その後が中畑清。これも首を傾げる人選だ。弱い万年Bクラスのチームを建て直すには、実績のある監督でないと務まらない。事実、6位、5位、5位、6位だった。

 (7)柳田悠岐(ソフトバンク)のバッティングは、東映フライヤーズ(現・日本ハム)で大杉勝男を育てた飯島慈弥というコーチが教えていた「月に向かって打て」の打ち方。あのアッパースイングであれだけ打てるのだから、水平にバットを振るレベルスイングや、上からバットを振り下ろすダウンスイングにバッティングフォームを変えたら、もっと打てる。理に適ったスイングをすれば、王の年間55本やバレンティン(現・ヤクルト)の60本のホームラン記録を抜くことも夢ではない。
 体っぱいをつかったスイングは、パワーのある若いうちはいいが、長持ちはしない。
 あのイチロー(マーリンズ)でも毎年打撃フォームはマイナーチェンジしている。柳田はもっと打てる素質をもっているだけに、惜しい。

 (8)大谷翔平(日本ハム)は、160キロのストレートを1試合に何球も投げている(プロ野球80年史上、存在しなかった)。外角低めに投じる原点能力も高い。
 しかし、まだまだ改善していかなければならない点はたくさんある。
 まず、スピードだけがすべてではない。球質が大事だ。6月5日の巨人戦で初めて163キロを計測したが、クルーズから空振りをとれず、ファウルされた。相手バッターの体感スピードはあまりないのではないか。スピードガンの数字は出るけれど、数字ほどバッターが速いとは感じない。逆もある。140キロぐらいのストレートでもバッターが速いと感じることがある。上原浩治(レッドソックス)がそういうタイプだ。
 山口高志(元・阪急)も速かった。ストレートしか投げてこないのに、前に飛ばなかった。
 杉浦忠(元・南海)も速かった。バッターがストレート狙いで、ストレートのサインを出しても打たれなかった。
 大谷の空振りはほとんどフォークボールやスライダーだ。空振りをとれるようにストレートを磨くこと。投げるときに、腕の振りと足が一緒になって出てくるので、もっと右足が遅れて出てくれば、160キロのストレートがファウルされることはなくなるはずだ。

 (9)オコエ(楽天)は、レベルスイングではなく、振ったあとのバットが頭の上に行くほどのアッパースイングになっている。素振りからじっくりやらせて、しっかりとしたスイングを身につけさせる。あれではまだ、一軍の投手に対応することができない。基礎、基本をおろそかにすると、短命で終わってしまう怖れがある。

 (10)ダルビッシュ有(レンジャーズ)が右ヒジ手術のリハビリの間に肉体改造し、体重を100キロから10キロ近く増量。球速阿ぷを目指しパワーアップしたそうだが、肉体改造をしてよくなった例を聞いたことがない。
 ピッチャーに筋肉トレーニングは必要ない。下半身さえ鍛えていればいい。上半身を大きくするのは、筋肉を硬くするだけで、ピッチャーにとってよくないはずだ。 

□野村克也『由伸・巨人と金本・阪神 崩壊の内幕』(宝島新書、2016)の「第3章 由伸・巨人が抱える問題点」と「第4章 問題だらけのプロ野球」から抜粋、要約
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 【参考】
書評:『「野村学校」の男たち』

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