語られる言葉の河へ

2010年1月29日開設
大岡昇平、佐藤優、読書

【古賀茂明】安倍政権が露骨な沖縄バッシングを行っている

2015年01月19日 | 社会
 安倍政権が露骨な沖縄バッシングを行っている【注】。
 米軍普天間飛行場の辺野古への移設に反対する翁長雄志・沖縄県知事への脅しと揺さぶりが目的だ。
 沖縄県知事選(2014年11月)で当選した翁長知事が、
  年末に就任あいさつで上京した際と、
  年明け後に上京した際の
いずれも、安倍晋三・総理はもちろん、外相、防衛相、菅義偉・官房長官(沖縄基地負担軽減担当)まで揃って面会を拒絶。結局会ったのは、山口俊一・沖縄担当相だけだった。

 さらに、安倍政権は、2015年度予算の概算要求で、3,794億円を計上していた沖縄振興予算を減額するという情報を年末から流した。
 表向き、政府は「振興策と基地問題はリンクしない」「(菅官房長官)という立場をとる。しかし、一昨年末、仲井真弘多・知事(当時)に概算要求を上回る3,500億円の予算などを約束したのに比較すると、その冷遇ぶりは際立つ。

 沖縄ではもちろん、本土でも、さすがに酷い、という批判が広がる。
 にもかかわらず、何故ここまでやるのか。・・・・そこには、安部総理とその側近官僚たちの「哲学」があるのだ。

 (1)「国民の要求はいつもまちがっている」
 その前提は、自分たちの政策は絶対正しいという驕りだ。逆に言えば、国民は馬鹿だ、という軽蔑だ。「我々が考えに考え抜いた結果、これしかないという政策が辺野古移転だ。県外移設など凡人の浅知恵。相手にする必要はない」というものだ。

 (2)「最後は金目でしょ」
 福島の中間貯蔵施設の関連で、石原伸晃・環境相(当時)がつい本音を漏らし、大方の顰蹙をかった。
 あの発言は、官邸で菅官房長官と話した直後に出たものだ。官邸でそういう話をしていたのであろう。
 「理不尽な要求の裏にはたかりの構造がある。カネさえだせば最後は解決する。逆に言えば、カネを出さないぞ、と脅せば、いつかは折れる」と考えるわけだ。

 (3)「既成事実を作れば勝ち」
 安倍政権は、「辺野古移設工事をどんどん進めてしまえば、もう後戻りできないと国民は諦める」と考えている。
 原発推進の哲学と全く同じだ。

 (4)「住民運動で政策が変わると思わせるのは絶対に不可」
 「住民のデモは無視し、阻止行動は淡々と排除する。容易に要求を呑むと、自分たちの力で何かができると勘違いして、さらに運動が強くなる。何をやってもムダだという徒労感を与えることが重要で、その結果、時間とともに住民運動は下火になる」という考えだ、
 脱原発の官邸前デモが安倍らにとって良い教科書になった。

 2年ほど前、ツイッター官僚やブログ官僚が世間を大きく騒がせた。彼らは、福島の「復興は不要」とか、福島事故の被災者支援をする人たちに対して「左翼のクソども」などという暴言を吐いた。
 今回の安倍政権の翁長知事への対応の、根底にある哲学は全く同じだ。

 この問題は、実は沖縄だけの問題ではない。
 こういう哲学を持った政権が存在すれば、ありとあらゆるところで、国民の意思と正反対の政策が強行されてしまう。
 原発然り。
 集団的自衛権然り。

 こうしたイジメを続けられると、どんなに意志の強い人間でも最後は参ってしまう。
 翁長知事が屈服すれば、安部政権はその成功に味を占めて、その暴走が加速する。
 沖縄の問題は、国民すべての問題である。 

 【注】
【沖縄】のメッセージを日本政府に伝えていくことが重要
佐藤優】【沖縄】辺野古への新基地建設は絶対に不可能だ
【佐藤優】沖縄の人の間で急速に広がる「変化」の本質 ~民族問題~

□古賀茂明「沖縄と安倍政権 ~官々愕々第139回~」(「週刊現代」2015年1月31日号)
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 【参考】
【古賀茂明】官僚の暴走 ~経産省と防衛省~
【古賀茂明】安倍政権が、官僚主導によって再び動き出す
【古賀茂明】自民党の圧力文書 ~表現の自由を侵害~
【古賀茂明】自民党が犯した最大の罪 ~自民党若手政治家による自己批判~
【古賀茂明】解散と安倍政権の暴走 ~傾向と対策~
【古賀茂明】解散と安倍政権の暴走
【古賀茂明】文書通信交通滞在費と維新の法案
【古賀茂明】宮沢経産相は「官僚の守護神」 ~原発再稼働~
【古賀茂明】再生エネルギー買い取り停止の裏で
【古賀茂明】女性活用に本気でない安部政権
【古賀茂明】【原発】中間貯蔵施設で官僚焼け太り
【古賀茂明】御嶽山で多数の死者が出た背景 ~政治家の都合、官僚と学者の利権~
【古賀茂明】従順な小渕大臣と暴走する官僚 ~原発再稼働~
【古賀茂明】イスラム国との戦争 ~集団的自衛権~
【古賀茂明】「地方創生」は地方衰退への近道 ~虚構のアベノミクス~
【古賀茂明】【原発】原子力ムラの最終兵器
【古賀茂明】【原発】凍らない凍土壁に税金を投入し続けたわけ
【古賀茂明】【原発】勝俣恒久・元東電会長らの起訴 ~検察審査会~
【古賀茂明】安倍政権の武器輸出 ~時代遅れの「正義の味方」~
【古賀茂明】またも折れそうな第三の矢 ~医薬品ネット販売解禁の大嘘~
【古賀茂明】「1年後の夏」に向けた布石 ~集団的自衛権~
【古賀茂明】法人減税で浮き彫りにされる本当の支配者 ~官僚と経団連~
【古賀茂明】都議会「暴言問題」の真実 ~記者クラブによる隠蔽~
古賀茂明】集団的自衛権とワールドカップ
【古賀茂明】野党再編のカギは「戦争」
【古賀茂明】電力会社の歪んだ「競争」 ~税金をもらって商売~
【原発】【古賀茂明】規制委員会人事とメディアの責任
【古賀茂明】医師と官僚の癒着の構造
【古賀茂明】電力会社「値上げ救済」の愚 ~経営難は自業自得~
【古賀茂明】竹富町「教科書問題」の本質 ~原発推進教科書~
【古賀茂明】安部総理の「11本の矢」 ~戦争国家への道~
【古賀茂明】理研は利権 ~文科官僚~
【古賀茂明】「武器・原発・外国人」が成長戦略 ~アベノミクスの今~
【古賀茂明】マイナンバーを政治資金の監視に ~渡辺・猪瀬問題~
【古賀茂明】東電を絶対に潰さずに銀行を守る ~新再建計画~
【古賀茂明】「避難計画」なき原発再稼働
【古賀茂明】「建設バブル」の本当の問題 ~公共事業中毒の悪循環経済~  
【古賀茂明】安倍政権の戦争準備 ~恐怖の3点セット~
【原発】【古賀茂明】利権構造が完全復活 ~東日本大震災3年~
【古賀茂明】アベノミクスの限界 ~笑いの止まらない経産省~
【古賀茂明】労働者派遣法改正前にすべきこと
【古賀茂明】時代遅れな、あまりにも時代遅れな ~安部政権のエネルギー戦略~
【古賀茂明】森元首相の二枚舌 ~オリンピックの政治的利用~
【古賀茂明】若者を虜にする「安部の詐術」 ~脱出の道は一つ~


【食】管理能力の劣化 ~昨年末に多発した食の不祥事~

2015年01月18日 | 生活
 年末は、消費者が食に一番カネをかける時期だ。
 事業者は、1年で一番儲かる時期だ。だから、作ることと売ることだけに神経を集中させる。
 ために、毎年のように、年末になると食の不祥事が発生する。

 2013年12月末、アクリフーズ(現・マルハニチロ)の冷凍食品に農薬が混入される事件が起きた。自主回収対象商品は630万パックにも上がった。食中毒患者は発生しなかったが、
   2013年11月13日、消費者からクレーム。
   2013年12月29日)、回収を公表。
 年末のかき入れ時に回収騒ぎを起こしたくなかったのだろうが、消費者のクレームから回収の公表まで1か月半もかかった。消費者の安全より、企業利益を優先させた結果だ。

 2014年に中国で起きた期限切れ食肉使用事件では、床に落ちた肉やカビの生えた肉を平気で商品にする衝撃的な映像が紹介された。
 余りにも不衛生で、余りにも低いモラル。

 ところが、日本でも2014年12月に、まるか食品のカップ焼きそば(ペヤング)からゴキブリが丸ごと1匹見つかる、という前代未聞の異物混入事件があった。
 発覚したキッカケは、消費者からの指摘だった。ツイッターの写真を見せられて、まるか食品は「通常の製造工程ではこのような混入はありえないことだ」と全面否定した。
 しかし、結局は工場内で混入した可能性が否定できない、として、すべての商品の製造・販売を中止した。

 自主回収対象外の商品を「安全性に問題はないと考えているが、返品に応じる」という企業姿勢は問題だ。
 消費者だけではなく、小売店に対しても同じ処置をとったので、店頭からペヤング・シリーズがすべて無くなってしまった。本当に安全なら、食べられる商品まで返品・返金を受付けたことになる。全量廃棄処分はもったいない。

 その直後、不二家でも2種類のカビが生えたケーキが見つかった。
 これも消費者のツイッターの写真が発覚のキッカケだった。不二家は、クリスマス翌日の26日、製造・販売した店舗の製造を中止すると発表した。

 まるか食品のカップ焼きそばも、不二家のケーキも、見た目ですぐわかる異物や変色だった。
 事業者側でなぜ発見できなかったのか、不思議だ。中国だけでなく、日本の衛生管理も自慢できたものではない。

 その後、マクドナルドを筆頭に、続々と異物混入が明らかになった。
 最近多くなったわけではなく、企業が隠していたものが表面化しただけのことだ。

 マクドナルドの記者会見は、史上最悪、最低だった。
 子どもが怪我をした原因が、ソフトクリームの機械の破損だのに、公表せず、全国にある同じ機械2,600台を点検することもなかった。
 二次被害が発生するにもかかわらず、公表しない姿勢は、企業の社会的責任を果たしていない。

 さらに、フライドポテトに歯が混入していた事件では、自社や工場などの従業員らの「歯は抜けていない」「マスクはしていた」という言葉を信用し、マクドナルド側で混入した可能性はほとんどない、とし、客に確認することもせず、客の歯の可能性がある、と発言した。
 自社の人間より客を疑っている。
 マクドナルドは、消費者の安全を最優先せず、消費者を信頼していないことも、世間に知らしめた【注】。
 危機管理の対応がなっていない。学習能力がない事業者、懲りない事業者が多すぎる。

 【注】記事「異物混入、意識にズレ 「ゼロ」前提の消費者/企業は「難しい」 ネットで拡散、対応を模索」(朝日新聞デジタル 2015年1月19日)

□垣屋達哉「年末に多発した食の不祥事 管理能力がどんどん劣化する日本の食」(「週刊金曜日」2015年1月16日号)
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【震災】住民の生命や生活より箱モノ造りを優先 ~神戸市~

2015年01月17日 | 震災・原発事故
 本書【注】の著者は、都市政策を専攻する。行政マン(神戸市)の経歴も持ち、現職は神戸松蔭女子大学教授である。

 阪神・淡路大震災を千載一遇の好機とし、仮設住宅の住民そっちのけで箱モノ造りに邁進した神戸市。ゼネコンが儲かれば後は閑古鳥が鳴こうとも、お構いなしなのであった。「箱モノ造りに邁進」の典型は、再開発を目論んでいた神戸市幹部(当時)が「幸か不幸か燃えた」と本音を漏らした長田区だ。

 本書は、「火事場泥棒的再開発」の背景に歴史的伏流を見てとる。<戦前から軍港として発展した神戸は重厚長大型産業の町。言い換えれば中央(東京)に内発的発展を阻害された植民地型開発の拠点です。震災復興工事も東京中心に利益の9割が兵庫県外に吸い上げられている。>

  関東大震災と阪神・淡路大震災
  大恐慌(1929年)とリーマンショック
  昭和三陸沖地震と東日本大震災
  軍事費増加と復興公共事業補助

 ・・・・本書は、戦争へ突き進んだ時期と現在との酷似を浮き彫りにし、警鐘を鳴らす。災害のたびに自衛隊が国民の共感を獲得した風潮を鑑みれば、「一定方向」へ国民が誘導される怖さが見出される。

 本書は、<現憲法は政府に国民の生命と生活を守ることを命じているはずが空洞化している。>と指摘して、「憲法復興学」を再生への道として強調する。
 <技術的に可能なら何をやってもいいわけではない。>
 <ドイツが原発廃止を決めた背景はキリスト教精神と倫理だった。>
 倫理、人間重視の「憲法の理念」への回帰こそ、今求められる。福島後の原発政策に未来はない。

 財政難など、どこ吹く風の「アベノミクス」。
 日本の国土すべてが「万年工事現場」だ。
 豊富なデータの力作(本書)は、「美しくない日本」は戦争と自然災害を連動させた産物にほかならないことを示す。

 【注】池田清『災害資本主義と「復興災害」』(水曜社、2014)

□粟野仁雄(ジャーナリスト)「戦争と災害が連動 「美しくない日本」 ~きんようぶんか・本~」(「週刊金曜日」2015年1月9日号)
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 【参考】
【震災】神戸市長田区に見る「復興災害」(2)
【震災】神戸市長田区に見る「復興災害」(1)
【旅】復興を絵画で表現できるか ~平町公の試み~
【震災】二重ローン 得するのは銀行だけだ ~その対策~
【震災】復興のカギはパイプ役(住民の自主組織) ~神戸の過ち、奥尻の教訓~
書評:『神戸発 阪神大震災以後』
書評:『復興の闇・都市の非情 --阪神大震災、五年の軌跡』

   

【ピケティ】格差は止めなければ止まらない ~政治的無為への警告~

2015年01月16日 | 批評・思想
 労働条件は、働く側の圧力がなければ向上しないし、貧困は見て見ぬふりをしていると深刻化する。ピケティの論は、そんな現実を無視した政治的無為に対し、経済学の数式を通して発せられた警告だ。

(1)経済成長より外的ショック
 (a)第二次世界大戦後から1970年代まで、格差の縮小傾向が続き、平等と安定化が進んできた。
 (b)戦後の経済学の主流は、(a)の原因について、「経済成長によって自律的に各層への分配が浸透し底上げが進んだことが原因だ」としてきた。
 (c)ピケティは、(b)の楽観論を打ち消した。「18世紀以降の長期的視野で見ると格差が縮まったのは第一次世界大戦から第二次世界大戦後の数年間までの例外的な時期だけだ」とし、「基本的には格差は拡大を続けている」と指摘した。
 (d)格差が拡大し続ける理由は、 r(資本収益率)が賃金などの所得伸び率を上回る傾向があるので、放っておくと資本どんどん蓄積され、資本を持っている層と資産がない層との格差が開いていくからだ。
 (e)資産の多くは相続を通じて特定の層に偏って蓄積されていく。
 (f)(a)の時代だけ格差縮小期となったのは、外的ショック(第一次世界大戦、ロシア革命、世界大恐慌など)のせいだ。
 (g)格差を是正するには成長だけでは難しく、何らかの外的ショック(資本の増大を抑えるための資本への累進課税)が必要だ。
 (h)グローバル化の今日、世界が一斉に累進的な「世界的資本税」を採用する必要がある。

(2)格差から総貧困へ落ち込む日本
 (a)ピケティの議論は日本に当てはまるのか。・・・・「社会実情データ図録」は、単身世帯を除く全世帯を対象とした家計調査から低所得層20%に対する高所得層20%の所得倍率の推移をはじき出したグラフを掲載している。それによれば、1960年代前半に5.7倍程度だった倍率は、高度成長期で低所得層の賃金が上昇するにつれて下がっていき、1972年に4.0倍まで下がって底を打ち、第一次オイルショック(1973年)から上昇傾向に入る。そして、1980年代のバブル経済の資本高による格差拡大をはさんで1999年には5倍近くにまで拡大していく。ピケティの論を借りれば、戦争の終了時から再開した資本の集積が、1980年代バブルを経て所得の格差として表面化していったのだ。
 (b)ところが、「格差拡大政権」と呼ばれた小泉政権の下では、この倍率はむしろ縮小している。雇用面での「構造改革」が進んで中高年正社員の賃金水準が下落、ホワイトカラーのホームレス化が話題になり始める。この時期の格差縮小は、それまでの所得格差の主な原因と言われていた若者・女性社員と中高年社員との格差が縮小された結果だ(下方移動)。
 (c)2002年からの景気回復で、会社に残った正社員の賃金は持ち直した。
 (d)一方、非正規化の進展で低所得の非正規社員が働き手の3人に1人(今は4割近く)にまで広がり、その結果、格差は2006年からやや拡大傾向となる。
 (e)リーマンショックで景気が落ち込んだ2008年以降は、格差はやや縮小し、4.5倍程度で一進一退を繰り返し、現在に至る。
 (f)日本社会は今、正社員の削減と低賃金化による下方へ向けた格差の縮小と、非正規化による低所得層の広がりの中で、「格差なき多数の貧困化」へのm地を辿っている。
 (g)株や土地を持つ層が1980年代以降に目立ってきた。アベノミクスの金融緩和などによって株価が上がると、これらの層の所得が浮上して、格差を広げ、株価が下がると格差は縮まる。その複雑な総和が、数字でみれば格差はさほど広がっていないが、格差感は強まっているという現象を生んでいる。

(3)トップ層の報酬高額化と政治の変質
 (略)

(4)「格差批判はそねみ」の壁
 (略)

(5)ピケティの教訓
 (a)『21世紀の資本』は、現状に取り組むために必要なさまざまの姿勢を提示している。
   ①格差は自然にはなくならない、解決には何らかの力が必要だ、という事実の直視だ。「反貧困ネットワーク」でしばしば聞くのは、「貧困は直視せずに放置すると増大する」という言葉だ。放置しておいても成長が解決してくれたり、テクノロジーが解決してくれたりするという考えは、成長やテクノロジーが勝手に生きて動いているという考え方だ。しかし、成長もテクノロジーも、みな人間が動かしている。私たちが成長やテクノロジーを、格差や貧困を縮小する方向で動かさなければ、それらはそのような機能を果たさない。賃金も、収益が上がっただけで自然に上がるわけではない。労使交渉や、それこそ官邸の賃上げ要請による「官製春闘」なしでは、おいそれと働き手に還元されない。
   ②理屈でそれが必要だという結論に達したら、難しくてもそれを可能にする道を探そうとする姿勢だ。ピケティの「世界的資本税」について聞くと、誰もが最初は「そんなこと、できるわけがない」とのけぞる。ただ、ほかに有効な手立てがないなら、それを実現する方法を考えてみよう。できそうもないから諦める・・・・のは止めよう、というのがピケティの主張だ。効果も上がらないのに「できること」をやって疲弊していくやり方は変えるべきだ。
   ③「オール・オア・ナッシング」の発想に陥らないことだ。「米国とEUとの間で(中略)租税回避防止策や多国籍企業への課税など、税制の分野で協力できることはあると思います。資産を世界規模で把握することは、金融を規制するうえでも重要です。完璧な世界規模の課税制度をつくるか、さもなくば何もできないか、というオール・オア・ナッシングの進め方ではだめです。その中間に多くのやり方があります。一歩一歩前に進むべきです」【ピケティ、朝日新聞へのインタビュー】
   ④格差批判と「そねみ」との峻別だ。格差が極端に広がることは、社会の他の構成メンバーへの想像力や共感力を失わせ、貧困に対する有効な措置を阻んでいく。こうした格差のマイナスを明らかにし、その縮小へ動くための最初の一歩が格差批判なのだ。
 (b)格差社会とは、格差の上の方にいる人たちが、下の方の現実を無視して自分に都合のいい解釈を普及させることがええきる社会でもある。それを見抜く論理力と情報力が元めっれる社会に足を踏み入れている。
 (c)ピケティの「格差は放置すれば広がる」は、「格差は自然に縮小する」という」政治的無為の正当化を、数字による実証で押し返す試みだ。このような、まやかしを見抜く実証精神が今こそ問われている時はない。

□竹信三恵子「格差は止めなければ止まらない ~政治的無為への警告としてのピケティ~」(「現代思想」2015年1月増刊号/総特集:ピケティ『21世紀の資本』を読む --格差と貧困の新理論」(青土社、2014)
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 【参考】
【ピケティ】総特集号(「現代思想」2015年1月増刊号)の目次
【ピケティ】『21世紀の資本』詳細目次
【ピケティ】に対するインタビュー ~失われた平等を求めて~
【ピケティ】勲章拒否の警告 ~再構築される「世襲的資本主義」~
【佐藤優】【ピケティ】はマルクスとは異質な発想 ~『21世紀の資本』~
【ピケティ】『21世紀の資本』に係る書評の幾つか
【ピケティ】は21世紀のマルクスか ~ピケティ現象を読み解く~
【ピケティ】資本主義の今後の見通し ~トマ・ピケティ(3)~
【ピケティ】現代経済学を刷新する巨大なインパクト ~トマ・ピケティ(2)~
【ピケティ】分析の特徴と主な考え ~トマ・ピケティ『21世紀の資本』~
【経済】累進資産課税が格差を解決する ~アベノミクス批判~
【経済】格差が広がると経済が成長しない ~株主資本主義の危険~
【経済】なぜ格差は拡大するか ~富の分配の歴史~

   




 

   

【ピケティ】総特集号(「現代思想」2015年1月増刊号)の目次

2015年01月15日 | 批評・思想
(1)トマ・ピケティ インタビュー
 「マルクスなんてどうでもいい 左翼ロックスター経済学者へのインタビュー」
   ・・・・インタビュアー:アイザック・チョティナー(本橋哲也・訳)
 「資本、労働、成長そして不平等」
   ・・・・インタビュアー:ニック・ピアス+マーティン・オニール」(渡辺景子・訳)

(2)『21世紀の資本』のインパクト
 「キャピタル・マン
   ・・・・エミリー・エイキン(沖公祐・訳)
 「私たちはなぜ新たな金ぴか時代に居るのか
   ・・・・ポール・クルーグマン」(山家歩・訳)

(3)日本から読む
 「国家の社会性を取り戻すために『21世紀の資本』が壊すトリクルダウンの幻想」
   ・・・・浜矩子
 「格差は止めなければ止まらない 政治的無為への警告としてのピケティ」
   ・・・・竹信三恵子
 「トマ・ピケティ著『21世紀の資本』の衝撃」
   ・・・・橘木俊詔

(4)格差と不平等の総合理論へ
 「『21世紀の資本』論と『資本論』 格差再拡大の政治経済学」
   ・・・・伊藤誠
 「公共哲学としての『21世紀の資本』 経済の民主化の構想のために」
   ・・・・中野佳裕

(5)議論の焦点
 「ピケティの「グローバル富裕税」論」
   ・・・・諸富徹
 「悲観的クズネッツ主義者の挑戦
   ・・・・中山智香子
 「メリトクラシー再考--ピケティ『21世紀の資本』を読んで」
   ・・・・堀茂樹

(6)浮上した課題
 「ピケティ『資本』への補足」
   ・・・・デヴィッド・ハーヴェイ(長原豊・訳)
 「主体性の唯物論的理論に向けて」
   スラヴォイ・ジジェク(松本潤一郎・訳)
 「絆創膏・疫病・資本--「富」 サゲのない三題噺」
   ・・・・長原豊
 「資産・レントそして女性 レント資本主義へのフェミニスト分析に向けて」
   ・・・・足立眞理子
 「ピケティ『21世紀の資本』批判
   ・・・・ボブ・ローソン」(佐藤隆・訳)

□「現代思想」2015年1月増刊号(青土社)
 総特集:ピケティ『21世紀の資本』を読む --格差と貧困の新理論
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【食】買ってもいいインスタント食品

2015年01月15日 | 生活
 『買ってはいけないインスタント食品 買ってもいいインスタント食品』の帯にいわく、
  <シリーズ50万部突破!>
  <定番商品のノンフライめんで「がん」になる!?>
  <便利なカップスープが下痢の原因!?>

 本書は4章に分かたれる。
   第1章 買ってはいけないインスタント食品・・・・<例>「日清ラ王」、「赤いきつねうどん」
   第2章 買ってはいけないと買ってもいいの中間・・・・<例>「日清麺職人」、「スープはるさめ」
   第3章 買ってもいいインスタント食品・・・・後述 
   第4章 より便利でおいしいインスタント食品を 
 第4章は、いわば資料であり、インスタント食品の歴史から容器・包装までを論じる。

 「はじめ」によれば、インスタント食品には大きな問題が3つある。
  (1)添加物が非常に多い。・・・・10~15種類の添加物が一度に胃の中に入る。消費者にメリットがない。
  (2)麺を油で揚げた製品が多い。・・・・油が酸化した過酸化脂質は毒性物質。
  (3)塩分(ナトリウム)が非常に多い。・・・・食塩に換算すると5g前後、多い製品は8gを超す。
 また、低カロリーの合成甘味料は、例えばアスパルテームは脳腫瘍を起こす。動物実験では白血病を起こす。
 こう書くと、世の食品は危険に満ち満ちているかのようだが、本書が検証した115品目の中には「体によい食品もたくさんある」のだ。よって、ここでは第3章の買っていい例をとりあげる。

 (a)麺類・つゆ
 「上州手振りうどん」(星野物産)、「讃岐ざるうどん」(石丸製麺)、「セブンプレミアムそば 手もみ式製法」(セブン&アイ・ホールディングス)、「深大寺そば」(しなの麺工房)、「揖保乃糸」(兵庫県手延素麺協同組合)、「トップバリュそうめん」(イオン)、「黄金の大地 まるごと有機そうめん」(はくばく)、「にゅうめん まろやか鶏だし」(天野実業)、「匠のだし蕎麦つゆ」(ヤマキ)、「特選 桃屋のつゆ 化学調味料無添加 濃縮2倍」(桃屋)、「キッコーマン 削りたて ざるそばつゆストレート」(キッコーマン)、「上野藪そばつゆ」(上野藪蕎麦総本店)

 (b)スパゲティ・ソース
 「マ・マー スーパープロント 早ゆでスパゲティ」(日清フーズ)、「オーマイ スパゲティ(1.3mm)」(日本製粉)、「ディ・チェコNo.10フェデリーニ(1.4mm)」(日清フーズ)、「バリラ スパゲティNo.5」(日本製粉)、「アンナマンマ トマト&ガーリック」(カゴメ)、「バリラ アラビアータ」(日本製粉)、「ベラ エミリア パスタソース イタリアントマト」(ミナト商会)

 (c)即席みそ汁・スープ等
 「赤だし なめこ汁」(天野実業)、「トップバリュ もずくスープ」(イオン)、「ふじっこ 純とろ」(フジッコ)、「マギー 化学調味料無添加コンソメ」(ネスレ日本)、

 (d)乾物
 「無添加ふりかけ ひじき」(浜乙女)、「トップバリュ のり茶漬け」(イオン)、「ラーメンの具」(魚の屋)、「ふえるわかめちゃん」(理研ビタミン)、「さっとそのまま 味噌汁の具」(ヤマナカフーズ)、「小町麩」(常陸屋本舗)、「素材力 こんぶだし」(理研ビタミン)

 (e)インスタントコーヒー・飲み物
 「ネスカフェ ゴールドブレンド」(ネスレ日本)、「ブレンディ スティック ブラック」(味の素ゼネラルフーヅ)、「スターバックス ヴィア イタリアン ロースト」(味の素ゼネラルフーヅ)、「モンカフェ マイルド ブレンド」(片岡物産)、「スターバックス オリガミ ハウス ブレンド」(味の素ゼネラルフーヅ)、「UCC アロマリッチセレクション」(UCC上島珈琲)、「お~いお茶 緑茶 ティーバッグ」(伊藤園)、「日東紅茶 デイリークラブ」(三井農林)、

 (f)レトルト食品
 「味の素KK 白がゆ」(味の素)、「十六穀がゆ」(たいまつ食品)、「カトキチ さぬきうどん」(テーブルマーク)、「セブンプレミアム えだまめ 塩味」(セブン&アイ・ホールディングス)

 (g)フリーズドライ食品
 「おかゆ 紅鮭」(天野実業)、「香る野菜カレー」(天野実業)

□渡辺雄二『買ってはいけないインスタント食品 買ってもいいインスタント食品』(大和書房(だいわ文庫)、2013)
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【ピケティ】『21世紀の資本』詳細目次

2015年01月14日 | 批評・思想
 謝辞 ・・・・p.xiii

はじめに ・・・・p.1
  データなき論争? ・・・・p.2
  マルサス、ヤング、フランス革命 ・・・・p.4
  リカード --希少性の原理 ・・・・p.6
  マルクス --無限蓄積の原理 ・・・・p.8
  マルクスからクズネッツへ、または終末論からおとぎ話へ ・・・・p.12
  クズネッツ曲線 --冷戦さなかのよい報せ ・・・・p.15
  分配の問題を経済分析の核心に戻す ・・・・p.17
  本書で使ったデータの出所 ・・・・p.18
  本研究の主要な結果 ・・・・p.22
  格差収斂の力、格差拡大の力 ・・・・p.24
  格差拡大の根本的な力 --r>g ・・・・p.27
  本研究の地理的、歴史的範囲 ・・・・p.30
  理論的・概念的な枠組み ・・・・p.33
  本書の概要 ・・・・p.36

第Ⅰ部 所得と資本 ・・・・p.39
 第1章 所得と産出 ・・・・p.41
  長期的に見た資本-労働の分配 --実は不安定 ・・・・p.43
  国民所得の考え方 ・・・・p.46
  資本って何だろう? ・・・・p.48
  資本と富 ・・・・p.50
  資本/所得比率 ・・・・p.54
  資本主義の第一基本法則 --α=r×β ・・・・p.56
  国民経済計算 --進化する社会構築物 ・・・・p.60
  生産の世界的な分布 ・・・・p.64
  大陸ブロックから地域ブロックへ ・・・・p.64
  世界の格差 --月150ユーロから月3,000ユーロまで ・・・・p.68
  世界の所得分配は産出の分配よりもっと不平等 ・・・・p.72
  収斂に有利なのはどんな力? ・・・・p.74

 第2章 経済成長 --幻想と現実 ・・・・p.77
  超長期で見た経済成長 ・・・・p.78
  累積成長の法則 ・・・・p.79
  人口増加の段階 ・・・・p.82
  マイナスの人口増加? ・・・・p.84
  平等化要因としての人口増加 ・・・・p.88
  経済成長の段階 ・・・・p.91
  購買力の10倍増とはどういうことだろう? ・・・・p.93
  経済成長 --ライフスタイルの多様化 ・・・・p.95
  成長の終わり? ・・・・p.98
  年率1パーセントの経済成長は大規模な社会変革をもたらす ・・・・p.101
  戦後期の世代 --大西洋をまたがる運命の絡み合い ・・・・p.102
  世界成長の二つの釣り鐘曲線 ・・・・p.105
  インフレの問題 ・・・・p.108
  18、19世紀の通貨大安定 ・・・・p.110
  古典文学に見るお金の意味 ・・・・p.112
  20世紀における金銭的な目安の喪失 ・・・・p.113

第Ⅱ部 資本/所得比率の動学 ・・・・p.117
 第3章 資本の変化 ・・・・p.119
  富の性質 --文学から現実へ ・・・・p.119
  イギリスとフランスにおける資本の変化 ・・・・p.122
  外国資本の盛衰 ・・・・p.126
  所得と富 --どの程度の規模か ・・・・p.128
  公共財産、民間財産 ・・・・p.129
  歴史的観点からみた公共財産 ・・・・p.132
  イギリス --民間資本の強化と公的債務 ・・・・p.135
  公的債務で得をするのは誰か ・・・・p.138
  リカードの等価定理の浮き沈み ・・・・p.141
  フランス --戦後の資本家なき資本主義 ・・・・p.142

 第4章 古いヨーロッパから新世界へ ・・・・p.147
  ドイツ --ライン型資本主義と社会的所有 ・・・・p.147
  20世紀の資本が受けた打撃 ・・・・p.153
  米国の資本 --ヨーロッパより安定 ・・・・p.157
  新世界と外国資本 ・・・・p.162
  カナダ --王国による所有が長期化 ・・・・p.164
  新世界と旧世界 --奴隷制の重要性 ・・・・p.166
  奴隷資本と人的資本 ・・・・p.169

 第5章 長期的にみた資本/所得比率 ・・・・p.172
  資本主義の第二基本法則 --β=s/g ・・・・p.173
  長期的法則 ・・・・p.176
  1970年代以降の富裕国における資本の復活 ・・・・p.179
  バブル以外のポイント --低成長、高貯蓄 ・・・・p.182
  民間貯蓄の構成要素二つ ・・・・p.184
  耐久財と貴重品 ・・・・p.186
  可処分所得の年数で見た民間資本 ・・・・p.188
  財団などの資本保有者について ・・・・p.189
  富裕国における富の民営化 ・・・・p.191
  資産価格の歴史的回復 ・・・・p.194
  富裕国の国民資本と純外国資産 ・・・・p.199
  21世紀の資本/所得比率はどうなるか? ・・・・p.202
  地価の謎 ・・・・p.204

 第6章 21世紀における資本と労働の分配 ・・・・p.207
  資本/所得比率から資本と労働の分配へ ・・・・p.207
  フロー --ストックよりさらに推計が困難 ・・・・p.211
  純粋な資本収益という概念 ・・・・p.213
  歴史的に見た資本収益率 ・・・・p.214
  21世紀初期の資本収益率 ・・・・p.216
  実体資産と名目資産 ・・・・p.218
  資本は何に使われるか ・・・・p.220
  資本の限界生産性という概念 ・・・・p.222
  過剰な資本は資本収益率を減らす ・・・・p.224
  コブ=ダグラス型生産関数を超えて --資本と労働の分配率の安定性という問題 ・・・・p.226
  21世紀の資本と労働の代替 --弾性値が1より大きい ・・・・p.229
  伝統的農業社会 --弾性値が1より小さい ・・・・p.230
  人的資本はまぼろし? ・・・・p.231
  資本と労働の分配率の中期的変化 ・・・・p.233
  再びマルクスと利潤率の低下 ・・・・p.236
  「二つのケンブリッジ」を越えて ・・・・p.239
  低成長レジームにおける資本の復権 ・・・・p.241
  技術の気まぐれ ・・・・p.243

第Ⅲ部 格差の構造 ・・・・p.245
 第7章 格差と集中 --予備的な見通し ・・・・p.247
  ヴォートランのお説教 ・・・・p.248
  重要な問題 --労働か遺産か? ・・・・p.251
  労働と資本の格差 ・・・・p.253
  資本 --常に労働よりも分配が不平等 ・・・・p.254
  格差と集中の規模感 ・・・・p.257
  下流、中流、上流階級 ・・・・p.259
  階級闘争、あるいは百分位闘争? ・・・・p.261
  労働の格差 --ほどほどの格差? ・・・・p.264
  資本の格差 --極端な格差 ・・・・p.266
  20世紀の大きなイノベーション --世襲型の中流階級 ・・・・p.270
  総所得の格差 --二つの世界 ・・・・p.272
  総合指標の問題点 ・・・・p.276
  公式発表を覆う慎みのベール ・・・・p.277
  「社会構成表」と政治算術に戻る ・・・・p.279

 第8章 二つの世界 ・・・・p.281
  単純な事例 --20世紀フランスにおける格差の縮小 ・・・・p.281
  格差の歴史 --混沌とした政治的な歴史 ・・・・p.284
  「不労所得生活者社会」から「経営者社会」へ ・・・・p.286
  トップ十分位の各種世界 ・・・・p.289
  所得税申告の限界 ・・・・p.292
  両大戦間の混沌 ・・・・p.294
  一時的影響の衝突 ・・・・p.297
  1980  年代以降のフランスにおける格差の拡大 ・・・・p.301
  もっと複雑な事例 --米国における格差の変容 ・・・・p.302
  1980  年以降の米国の格差の爆発的拡大 ・・・・p.305
  格差の増大が金融危機を引き起こしたのか? ・・・・p.308
  超高額給与の台頭 ・・・・p.310
  トップ百分位内の共存 ・・・・p.312

 第9章 労働所得の格差 ・・・・p.316
  賃金格差 --教育と技術の競争か? ・・・・p.316
  理論モデルの限界 --制度の役割 ・・・・p.320
  賃金体系と最低賃金 ・・・・p.322
  米国での格差急増をどう説明するか? ・・・・p.326
  スーパー経営者の台頭 --アングロ・サクソン的現象 ・・・・p.327
  トップ千分位の世界 ・・・・p.331
  ヨーロッパ --1900?1910年には新世界よりもより不平等 ・・・・p.334
  新興経済国の格差 --米国よりも低い? ・・・・p.338
  限界生産性という幻想 ・・・・p.343
  スーパー経営者の急上昇 --格差拡大への強力な推進力 ・・・・p.346

 第10章 資本所有の格差 ・・・・p.350
  極度に集中する富 --ヨーロッパと米国 ・・・・p.350
  フランス --民間財産の観測所 ・・・・p.351
  世襲社会の変質 ・・・・p.353
  ベル・エポック期のヨーロッパの資本格差 ・・・・p.357
  世襲中流階級の出現 ・・・・p.360
  米国における富の不平等 ・・・・p.362
  富の分岐のメカニズム --歴史におけるrとg ・・・・p.365
  なぜ資本収益率が成長率よりも高いのか? ・・・・p.368
  時間選好の問題 ・・・・p.373
  均衡分布は存在するのか? ・・・・p.376
  限嗣相続制と代襲相続性 ・・・・p.377
  民法典とフランス革命の幻想 ・・・・p.379
  パレートと格差安定という幻想 ・・・・p.382
  富の格差が過去の水準に戻っていない理由は? ・・・・p.384
  いくつかの部分的説明 --時間、税、成長 ・・・・p.387
  21世紀 --19世紀よりも不平等? ・・・・p.390

 第11章 長期的に見た能力と相続 ・・・・p.392
  長期的な相続フロー ・・・・p.394
  税務フローと経済フロー ・・・・p.396
  三つの力 --相続の終焉という幻想・・・398
  長期的死亡率 ・・・・p.401
  人口とともに高齢化する富 --μ×m効果 ・・・・p.403
  死者の富、生者の富 ・・・・p.406
  50代と80代 --ベル・エポック期における年齢と富 ・・・・p.408
  戦争による富の若返り ・・・・p.411
  21世紀には相続フローはどのように展開するか? ・・・・p.413
  年間相続フローから相続財産ストックへ ・・・・p.416
  再びヴォートランのお説教へ ・・・・p.419
  ラスティニャックのジレンマ ・・・・p.422
  不労所得生活者と経営者の基本計算 ・・・・p.425
  古典的世襲社会 --バルザックとオースティンの世界 ・・・・p.426
  極端な富の格差は貧困社会における文明の条件なのか? ・・・・p.430
  富裕社会における極端な能力主義 ・・・・p.432
  プチ不労所得生活者の社会 ・・・・p.434
  民主主義の敵、不労所得生活者 ・・・・p.438
  相続財産の復活 --ヨーロッパだけの現象か、グローバルな現象か? ・・・・p.441

 第12章 21世紀における世界的な富の格差 ・・・・p.446
  資本収益率の格差 ・・・・p.446
  世界金持ちランキングの推移 ・・・・p.448
  億万長者ランキングから「世界資産報告」まで ・・・・p.453
  資産ランキングにみる相続人たちと起業家たち ・・・・p.456
  富の道徳的階層 ・・・・p.460
  大学基金の純粋な収益 ・・・・p.464
  インフレが資本収益の格差にもたらす影響とは ・・・・p.469
  ソヴリン・ウェルス・ファンドの収益 --資本と政治 ・・・・p.473
  ソヴリン・ウェルス・ファンドは世界を所有するか ・・・・p.475
  中国は世界を所有するのか ・・・・p.478
  国際的格差拡大、オリガルヒ的格差拡大 ・・・・p.480
  富裕国は本当は貧しいのか ・・・・p.482

第Ⅳ部 21世紀の資本規制 ・・・・p.487
第13章 21世紀の社会国家 ・・・・p.489
  2008年金融危機と国家の復活 ・・・・p.490
  20世紀における社会国家の成長 ・・・・p.493
  社会国家の形 ・・・・p.496
  現代の所得再分配 --権利の論理 ・・・・p.498
  社会国家を解体するよりは現代化する ・・・・p.500
  教育制度は社会的モビリティを促進するだろうか? ・・・・p.503
  年金の将来 --ペイゴー方式と低成長 ・・・・p.507
  貧困国と新興国における社会国家 ・・・・p.511

 第14章 累進所得税再考 ・・・・p.514
  累進課税の問題 ・・・・p.514
  累進課税 --限定的だが本質的な役割 ・・・・p.517
  20世紀における累進課税 --とらえどころのない混沌の産物 ・・・・p.519
  フランス第三共和国における累進課税 ・・・・p.524
  過剰な所得に対する没収的な課税 --米国の発明 ・・・・p.527
  重役給与の爆発 --課税の役割 ・・・・p.531
  最高限界税率の問題再考 ・・・・p.535

 第15章 世界的な資本税 ・・・・p.539
  世界的な資本税 --便利な空想 ・・・・p.539
  民主的、金融的な透明性 ・・・・p.542
  簡単な解決策 --銀行情報の自動送信 ・・・・p.546
  資本税の狙いとは? ・・・・p.549
  貢献の論理、インセンティブの論理 ・・・・p.552
  ヨーロッパ富裕税の設計図 ・・・・p.553
  歴史的に見た資本課税 ・・・・p.556
  別の形態の規制 --保護主義と資本統制 ・・・・p.560
  中国での資本統制の謎 ・・・・p.561
  石油レントの再分配 ・・・・p.563
  移民による再分配 ・・・・p.565

 第16章 公的債務の問題 ・・・・p.567
  公的債務削減 --資本課税、インフレ、緊縮財政 ・・・・p.568
  インフレは富を再分配するか? ・・・・p.572
  中央銀行は何をするのか? ・・・・p.575
  お金の創造と国民資本 ・・・・p.578
  キプロス危機 --資本税と銀行規制が力をあわせるとき ・・・・p.582
  ユーロ --21世紀の国家なき通貨? ・・・・p.585
  欧州統合の問題 ・・・・p.588
  21世紀における政府と資本蓄積 ・・・・p.592
  法律と政治 ・・・・p.595
  気候変動と公的資本 ・・・・p.597
  経済的透明性と資本の民主的なコントロール ・・・・p.599

おわりに ・・・・p.601
  資本主義の中心的な矛盾 --r>g ・・・・p.601
  政治歴史経済学に向けて ・・・・p.604
  最も恵まれない人々の利益 ・・・・p.606

 凡例 ・・・・p.i

 図表一覧 ・・・・p.95
 原注 ・・・・p.17
 索引 ・・・・p.1

□トマス・ピケティ『21世紀の資本』(山形浩生・守岡桜・森本正史・訳)『21世紀の資本』(みすず書房、2014)
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【五輪】が都民の生活を圧迫する ~汚染市場・アパート立ち退き~

2015年01月14日 | 社会
 東京オリンピック・パラリンピックのための整備事情が性急すぎて、都民の生活を圧迫している。

 東京都は、豊洲新市場(江東区)の土壌汚染対策工事の完了を受けて、2014年12月17日、新市場建設協議会を開いて次の提案を行った。すなわち、豊洲の開場時期を「2016年11月上旬としたい」と。築地市場(中央区)から引っ越す大卸や仲卸などの代表は合意した。
 計画では、五輪の開催年に合わせて環状2号線を築地市場の跡地に通す。ために、2017年4月までに更地にしなければならない。そこから逆算した期日が「2016年11月上旬」なのであった。

 だが、関係者にとっては刑の執行日の宣告と同じで、「合意」というよりは「不承不承」だ。五輪が汚染市場を生んだと知ったら、国際世論はどう反応するだろうか。【坂巻幸雄・日本環境学会】

 対策工事完了後、2年間の地下水質モニタリングが定められている【土壌汚染対策法】。この調査で特定有害物質の含有量が基準値以下であることを確認しなければ、同法の指定区域を解除できない。
 豊洲には、以前東京ガスの工場があり、これに由来するベンゼンやシアン化化合物などが検出されている。
 2013年3月、都議会予算特別委員会で、塚本直之・市場長(当時)は、「2年間のモニタリングを実施した上で指定を解除する」と答弁した。今後のモニタリングで基準値以上の有害物質が検出された場合、指定区域が解除されないまま開場されることになる。
 と・こ・ろ・が、井川武史・東京都新市場整備部課長によれば、「塚本元市場長は2年間のモニタリングが開場の条件とは言っていません。また、指定解除を目指すスタンスは変わっていません。昨年11月からモニタリングは始めているので、16年11月開場には間に合います」とのこと。

 しかし、都は汚染が検出された場合の指定解除のための対策を予定していない。それなのに、「指定解除を目指す」というのは、とんでもないインチキだ。【水谷和子・一級建築士】 

   *

 さらに、新国立競技場(五輪の主会場となる)も、計画が迷走している。
 当初は、総工費が最大3,000億円と資産されたが、著名な建築家や市民団体から「景観を破壊する」などと批判が相次いだ。高さを75mから70mに抑え、面積も2割縮小した。それでも1,625億円かかる。予算は国費で賄われるが、政府は都にも負担を求めている。

 事業主体の独立行政法人日本スポーツ振興センター(JSC)は、国立競技場を改修すれば777億円で済むと試算していた。
 だが、陸上競技で世界標準の9レーン(現状は8レーン)へ改修できないなどという不明瞭な理由で、JSCは新設の姿勢を崩さない。
 コンペで選ばれたザハ氏の本来のデザインを損なう現行案で建築された場合、将来の東京は巨大な「粗大ゴミ」を抱え込む。【磯崎新・建築家】

 この計画に伴って、近隣の生活者にも負担がのしかかる。
 都営霞ヶ丘アパートの立ち退き問題では、都は住民に事前相談はなく、同アパートの立地を「関連敷地」と設定。昨年11月に住民説明会を開き、
  ①2015年10月頃に部屋割り抽選会を実施。
  ②2016年1月頃に都が用意した別の都営団地へ引っ越す。
・・・・といったスケジュールを通告した。
 ここは高齢者が多く、引っ越し自体がストレスになる。「移転すろ、というならここで焼き殺してくれ」とまで言う住民もいる。【1950年代から同アパートに住む女性】 
 すべての人を100%満足させることはできないので、何らかの妥協はどこかでやっていただく。【桝添要一・東京都知事、2014年12月2日の会見】

 都が主体となる新国立競技場以外の建設費では、立候補段階の1,538億円から、現在は2,576億円(2014年11月19日、都発表)へと、1,038億円も額が膨らんでいる。

□永尾俊彦(ルポライター)「生活を圧迫する“東京五輪” 汚染対策は見切り発車、後世に残る“粗大ゴミ”も」(「週刊金曜日」2015年1月9日号)
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 【参考】
【食】移転先の土壌、ヒ素汚染残して開場 ~築地市場~
【選挙】石原都政で何が失われたか ~福祉・医療・教育・新銀行破綻・汚染市場~

【新聞】政府追従を公言 ~『読売新聞』の驚くべき「おわび」~

2015年01月13日 | 批評・思想
 2014年11月末、「読売新聞」が掲載した異様な「おわび」に世界中が仰天した。
 従軍「慰安婦」問題の報道で、同新聞発行の英字紙「デイリー・ヨミウリ」(現・「ジャパン・ニューズ」)が1992年2月から2013年1月にかけて、「性奴隷」(sex slave)などの表現を使用していた、と発表したのだ。
 同紙は、
  「慰安婦」(comfort women)という表現が「関連知識のない外国人読者には理解が困難」であったと説明し、
  「政府・軍による強制を客観的事実であるかのよう」な誤解を招いたことに遺憾の意を表した。

 「読売」のおわびは、日本在住の外国人記者に衝撃を与えた。
  「ニューヨークタイムズ」紙
  「ワシントン・ポスト」紙
  「英国放送協会(BBC)」
  その他、日本に特派員を置く主要報道機関
がおわびに係る記事を掲載した。

 「読売」は、
  安倍・現政権の気に障るような政治的表現をしない、と約束しただけでなく、
  20年以上も前の記事を自己批判する必要性を感じたのか、
   「記事データベースでも該当の全記事に、表現が不適切だったことを付記する措置」をとる。
 ・・・・とも述べている。
 このような公約は、ジョージ・オーウェル『1984年』の主人公、ウィンストン・スミスを彷彿させる。スミスは、真理省の役人として、全能の政府の絶えず変化するイデオロギーと政策に合わせ、日々歴史記録の改竄作業を行っていた。

 さらに、「読売」は、12月の続報において、
  今後、編集局内で本紙と「ジャパン・ニューズ」の情報共有をさらに進め、
  社論を踏まえた「ジャパン・ニューズ」の紙面づくりを徹底する。
 ・・・・と高らかに宣言した。

 このような、上から強制されたイデオロギーに服従するあからさまな姿勢に、世界中のジャーナリストは愕然とした。
   「罪の告白に名を借りた政治的表明ではないか、との批判もある」【「ニューヨークタイムズ」紙】   
   おわびは「驚くべきもの」だ。【「ワシントン・ポスト」紙】
   「読売」のおわびは「日本の一部メディアが、戦中の日本の歴史を書き換えようとする政府主導の動きに追随している、との懸念を煽るものだ」。【「ガーディアン」紙】

 日本の新聞社が過去の記事の過ちを撤回しても、外国人読者にはたいして興味のないことだ。しかし、このおわびが世界中の新聞の見出しを飾ったのは、「読売」がメディア界の常識からあまりにかけ離れていることを示したからだ。
 民主国家においては、大手メディアの役割は政府を監視し、その説明を検証し、行動を調査することであるはずだ。
 「読売」が国民の信頼する政府の監視役というよりは、自民党の代弁者を長年務めてきたことは、外国人識者の目には明らかだった。

 それにしても、「読売」内部が劣化していることに驚きを禁じ得ない。政府のイデオロギーへの服従を公言することで、信念を持った姿勢と世界から称賛されるどころか、冷笑と恐怖を呼び招くことすら予見できないのだから。
 「読売」のおわびは、報道倫理の観点からすると恥でしかない。しかし、同紙の編集委員は、政府への追従と自己検閲は、むしろ誇るべきことだと信じているらしい。

□マイケル・ペン「政府追従を公言--『読売新聞』の「お詫び」 ~マイケル・ペンのペンと剣~」(「週刊金曜日」2015年1月9日号)
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【ピケティ】に対するインタビュー ~失われた平等を求めて~

2015年01月12日 | 批評・思想
(1)競争がすべて? バカバカしい、平等と資本主義とは矛盾しない
 Q:あなたは「21世紀の資本」の中で、あまりに富の集中が進んだ社会では、効果的な抑圧装置でもないかぎり革命が起きるだろう、と述べています。経済書でありながら不平等が社会にもたらす脅威、民主主義への危機感がにじんでいます。
 A:その通りです。あらゆる社会は、とりわけ近代的な民主的社会は、不平等を正当化できる理由を必要としています。不平等の歴史は常に政治の歴史です。単に経済の歴史ではありません。
 人は何らかの方法で不平等を正そう、それに影響を及ぼそうと多様な制度を導入してきました。本の冒頭で1789年の人権宣言の第1条を掲げました。美しい宣言です。すべての人間は自由で、権利のうえで平等に生まれる、と絶対の原則を記した後にこうあります。「社会的な差別は、共同の利益に基づくものでなければ設けられない」。つまり不平等が受け入れられるのは、それが社会全体に利益をもたらすときに限られるとしているのです。

 Q:しかし、その共同の利益が何かについて、意見はなかなか一致しません。
 A:金持ちたちはこう言います。「これは貧しい人にもよいことだ。なぜなら成長につながるから」。近代社会ではだれでも不平等は共通の利益によって制限されるべきだということは受け入れている。だが、エリートや指導層はしばしば欺瞞的です。だから本では、政治論争や文学作品を紹介しながら社会が不平等をどうとらえてきたか、にも触れました。
 (中略)

 Q:最近は、不平等を減らす力が弱まっているのでしょうか。
 A:20世紀には、不平等がいったん大きく後退しました。両大戦や大恐慌があって1950、60年代にかけて先進諸国では、不平等の度合いが19世紀と比べてかなり低下しました。しかし、その後再び上昇。今は不平等が進む一方、1世紀前よりは低いレベルです。
 先進諸国には、かなり平等な社会を保障するための税制があるという印象があります。その通りです。このモデルは今も機能しています。しかし、それは私たちが想像しているよりもろい。
 自然の流れに任せていても、不平等の進行が止まり、一定のレベルで安定するということはありません。適切な政策、税制をもたらせる公的な仕組みが必要です。

 Q:その手段として資産への累進課税と社会的国家を提案していますね。社会的国家とは福祉国家のことですか。
 A:福祉国家よりももう少し広い意味です。福祉国家というと、年金、健康保険、失業手当の制度を備えた国を意味するけれど、社会的国家は、教育にも積極的にかかわる国です。

 Q:教育は不平等解消のためのカギとなる仕組みのはずです。
 A:教育への投資で、国と国、国内の各階層間の収斂を促し不平等を減らすことができるというのはその通り。そのためには(出自によらない)能力主義はとても大事だとだれもが口では言いますが、実際はそうなっていません。米ハーバード大学で学ぶエリート学生の親の平均収入は、米国の最富裕層2%と一致します。フランスのパリ政治学院というエリート校では9%。米国だけでなく、もっと授業料の安い欧州や日本でも同じくらい不平等です。

 Q:競争が本質のような資本主義と平等や民主主義は両立しにくいのでしょうか。
 A:両立可能です。ただしその条件は、何でもかんでも競争だというイデオロギーから抜け出すこと。欧州統合はモノやカネの自由な流通、完全な競争があれば、すべての問題は解決するという考えに基づいていた。バカバカしい。たとえばドイツの自動車メーカーでは労組が役員会で発言権を持っています。けれどもそれはよい車をつくるのを妨げてはいない。権限の民主的な共有は経済的効率にもいいかもしれない。民主主義や平等は効率とも矛盾しないのです。危険なのは資本主義が制御不能になることです。

(2)国境超え、税制上の公正を(私は楽観主義で、解決を信じる)
 Q:税制にしろ社会政策にしろ、国民国家という土台がしっかりしていてこそ機能します。国民国家が相対化されるグローバル時代にはますます難しいのでは。
 A:今日、不平等を減らすために私たちが取り組むべき挑戦は、かつてより難しくなっています。グローバル化に合わせて、国境を超えたレベルで税制上の公正を達成しなければなりません。世界経済に対して各国は徐々に小さな存在になっています。いっしょに意思決定をしなければならない。
 (中略)

(3)民間資産への累進課税、日本こそ徹底しやすい
 Q:先進国が抱える巨大な借金も再分配を難しくし、社会の不平等を進めかねません。
 A:欧州でも日本でも忘れられがちなことがある。それは民間資産の巨大な蓄積です。日欧とも対国内総生産(GDP)比で増え続けている。私たちはかつてないほど裕福なのです。貧しいのは政府。解決に必要なのは仕組みです。
 国の借金がGDPの200%だとしても、日本の場合、それはそのまま民間の富に一致します。対外債務ではないのです。また日本の民間資本、民間資産は70年代にはGDPの2、3倍だったけれど、この数十年で6、7倍に増えています。

 Q:財政を健全化するための方法はあるということですね。
 A:日本は欧州各国より大規模で経済的にはしっかりまとまっています。一つの税制、財政、社会、教育政策を持つことは欧州より簡単です。だから、日本はもっと公正で累進的な税制、社会政策を持とうと決めることができます。そのために世界政府ができるのを待つ必要もないし、完璧な国際協力を待つ必要もない。日本の政府は消費税を永遠に上げ続けるようにだれからも強制されていない。つまり、もっと累進的な税制にすることは可能なのです。
 (後略)

□インタビュアー:大野博人(朝日新聞論説主幹)「(インタビュー2015)失われた平等を求めて 経済学者、トマ・ピケティさん」(朝日新聞デジタル 2015年1月1日)
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 【参考】
【ピケティ】勲章拒否の警告 ~再構築される「世襲的資本主義」~
【佐藤優】【ピケティ】はマルクスとは異質な発想 ~『21世紀の資本』~
【ピケティ】『21世紀の資本』に係る書評の幾つか
【ピケティ】は21世紀のマルクスか ~ピケティ現象を読み解く~
【ピケティ】資本主義の今後の見通し ~トマ・ピケティ(3)~
【ピケティ】現代経済学を刷新する巨大なインパクト ~トマ・ピケティ(2)~
【ピケティ】分析の特徴と主な考え ~トマ・ピケティ『21世紀の資本』~
【経済】累進資産課税が格差を解決する ~アベノミクス批判~
【経済】格差が広がると経済が成長しない ~株主資本主義の危険~
【経済】なぜ格差は拡大するか ~富の分配の歴史~

【ピケティ】勲章拒否の警告 ~再構築される「世襲的資本主義」~

2015年01月11日 | 批評・思想
 トマ・ピケティがレジオン・ド・ヌール勲章の受章を拒否した【注】。「勲章の人選などはフランス政府の役割ではない。政府は、フランスとEUの経済立て直しに専念すべき」だというのが理由だった。

 ピケティは、資本は放置すれば拡大を続け、過去に蓄積された富が異常なほどの重みを持つ社会を生む、と警告する。

 正月に伝えられたこの爽やかなニュースは、前年の暮の紅白歌合戦の惨憺たる印象を拭う。
 紅白は、一人で歌う自立した歌手の姿が激減し、AKB48と、そのクローンのようなアイドル・グループが占拠していた。
 こうしたグループの経営手法は、「過去の蓄積による今を支配」そのものだ。つんくや秋元康といった年配男性が蓄積した富、人脈、ノウハウを駆使して、蓄積のない少女たちを束で集め、使い捨てのように入れ替えていく。ほとんどのメンバーの賃金は、アルバイト並みの安さだが、「卒業」してスターとなったひと握りの少女たちが広告塔となることで、応募者は群がり、莫大な利益を生む。

 与党税制改正大綱(2014年12月30日発表)でも、「過去の蓄積による今の支配」が基盤だ。
 まず、子や孫に結婚や子育て費用を贈与すれば、一人当たり1,000万円までは贈与税が非課税となる制度が新設された。
 2013年度に導入された子や孫への教育費を1,500万円まで非課税とする制度も延長された。
 住宅購入費も延長の上、限度額が1,000万円から1,500万円に拡大される。

 一方、生活保護費は切り下げが続く。
 返済がいらない給付型奨学金は、いまだに導入されていない。
 結婚・教育・住宅は、人が生き、次世代を再生産するための基本的な支えだ。それが、各家庭の富の蓄積度によって決定される政策が、大手を振って横行し始めている。

 法人税減税によって企業の賃上げの原資を生み出す、という政府説明も奇妙だ。労組の弱体化もあって、企業利益が増えれば配当か、海外投資に回ることが常態となっているからだ。
 賃金に回るとしても、
  (1)黒字経営で交渉力のある労組がある一部企業と、
  (2)それ以外の企業
の社員の格差は開く。

 政府が集めた税を再分配することで国民の健康で文化的生活を維持する機能が壊れ、富裕層や大手企業の配下にある者たちだけに富が移転される「世襲的資本主義」が再構築されようとしている。
 ここに、「褒める」というもう一つのアメが加わる。子育て支援、キャリア支援などで政府が「優良」と認定した企業を表彰する手法だ。
 だが、こうした企業表彰は、企業の内部に立ち入った審査が難しい。しかも、企業のPRに比重がかかる結果、ワークライフバランスで表彰された大手企業で過労死訴訟が起きる事態も起きたりする。

 安倍政権のスローガン「日本を取り戻す」は、戦前の社会の基盤だった世襲制度の回復なのか。
 「表彰より格差是正の経済政策を」という勲章拒否ピケティのメッセージは、日本政府に対してこそ、突きつけられてよい。

 【注】記事「ピケティ氏、仏勲章を辞退 「決めるのは政府ではない」」(朝日新聞デジタル 2015年1月2日)

□竹宮三恵子「再構築される「世襲的資本主義」 ピケティ勲章拒否の警告 ~竹宮三恵子の経済私考~」(「週刊金曜日」2015年1月9日号)
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 【参考】
【佐藤優】【ピケティ】はマルクスとは異質な発想 ~『21世紀の資本』~
【ピケティ】『21世紀の資本』に係る書評の幾つか
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【経済】なぜ格差は拡大するか ~富の分配の歴史~


【佐藤優】世界各地のテロリストが「大規模テロ」に走る理由

2015年01月10日 | ●佐藤優
 2014年12月16日、ペシャワル(パキスタン北西部)で、パキスタン・タリバン運動(TTP)のテロリストが軍系列の学校を襲撃し、児童生徒ら148人を殺害した。
 <地元紙ドーンは、治安当局が傍受したとされる実行犯と指示役の通話内容の一部を報じた。
 同紙によると、実行犯の一人が「講堂の子どもたちは皆殺しにした。どうしたらいいか」と尋ねたところ、指示役は「軍の兵士が来るのを待て。自爆する前にやつらを殺せ」と命じた。会話は7時間半に及んだ襲撃の最終段階のもので、その後、最後に残った2人が軍部隊に突撃したという。
 指示役はペシャワル近郊出身の男で、隣国アフガニスタンの東部ナンガルハル州内から通話していたと治安当局はみている。アフガン東部には、犯行声明を出したパキスタン・タリバーン運動(TTP)のトップ、ファズルラ幹部が潜伏しているとの情報もある。>【注】

 タリバンとは、アラビア語の「神学生」の謂いだ。
 タリバンは、アフガニスタンとパキスタンにまたがって居住するパシュトゥーン族を中心に広がっていった。
 パキスタン軍統合情報局(ISI)は、タリバーンに対する資金援助を行っていた。当初、タリバンはそれほど過激な団体ではなかったが、1990年代、アラビア半島のアルカイダの影響を受けて過激化し、世界イスラム革命を志向するようになった。やがてタリバンやアルカイダと連携し、ウサマ・ビンラディンらによる米国同時多発テロ(2001年9月11日)を引き起こした。米軍はタリバンに対する掃討作戦を徹底的に行った。
 その後、ISIもタリバンとの関係を絶った(ただし、ISIの下級将校はいまだにタリバンとつながっている)。

 TTPは、バイトゥッラー・マスフードが創設した(2007年12月)組織だ。本家タリバンとの関係は薄い。2009年8月、米軍の空襲によってバイトゥッラーが殺害され、弟(ハッキームラ・マスフード)が指導者を継いだ。
 TTPは、2012年10月、女子が教育を受ける権利を主張していたマララ・ユスフザイ(当時15歳)を殺害する目的で襲撃し、重傷を負わせ、国際的にひんしゅくを買った。
 ハッキームラは、2013年11月、米軍の無人戦闘機の攻撃によって死亡した。
 その後、マララさん襲撃に関与したマウラーナ・ファズルラが指導者を継ぎテロ活動を続けている。

 TTP、本家タリバン、アルカイダ、「イスラム国」は、「既存国家制度を破壊し、地上に単一のカリフ(イスラム)帝国を建設する」という共通の目的を追求している。
 このような状況で、TTPから「イスラム国」に移籍するテロリストが増えている。
 TTPは、構成員を自らの組織に引き留めるために、12月16日の大規模テロを引き起こしたと見られる。
 今後、各地のアルカイダ系組織が「イスラム国」の影響を受けると同時に、構成員が「イスラム国」に向けて転出するのを避けるために、世界各地でテロ活動を増加させる危険性がある。

 【注】記事「学校襲撃の指示役「自爆前に兵士殺せ」 地元紙報道」(朝日新聞デジタル 2014年12月18日)

□佐藤優「テロリストが「大規模テロ」に走る理由 ~佐藤優の人間観察 第96回~」(「週刊現代」2015年1月17・24日号)
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 【参考】
【佐藤優】【ピケティ】はマルクスとは異質な発想 ~『21世紀の資本』~
【佐藤優】ロシアが中立国へ送った「シグナル」 ~ペーテル・フルトクビスト~
【佐藤優】戦争の時代としての21世紀
【佐藤優】「拷問」を行わない諜報機関はない ~CIA尋問官のリンチ~
【佐藤優】米国の「人種差別」は終わっていない ~白人至上主義~
【佐藤優】【原発】推進を図るロシア ~セルゲイ・キリエンコ~
【佐藤優】【沖縄】辺野古への新基地建設は絶対に不可能だ
【佐藤優】沖縄の人の間で急速に広がる「変化」の本質 ~民族問題~
【佐藤優】「イスラム国」という組織の本質 ~アブバクル・バグダディ~
【佐藤優】ウクライナ東部 選挙で選ばれた「謎の男」 ~アレクサンドル・ザハルチェンコ~
【佐藤優】ロシアの隣国フィンランドの「処世術」 ~冷戦時代も今も~
【佐藤優】さりげなくテレビに出た「対日工作担当」 ~アナートリー・コーシキン~
【佐藤優】外交オンチの福田元首相 ~中国政府が示した「条件」~
【佐藤優】この機会に「国名表記」を変えるべき理由 ~ギオルギ・マルグベラシビリ~
【佐藤優】安倍政権の孤立主義的外交 ~米国は中東の泥沼へ再び~
【佐藤優】安倍政権の消極的外交 ~プーチンの勝利~
【佐藤優】ロシアはウクライナで「勝った」のか ~セルゲイ・ラブロフ~
【佐藤優】貪欲な資本主義へ抵抗の芽 ~揺らぐ国民国家~
【佐藤優】スコットランド「独立運動」は終わらず
「森訪露」で浮かび上がった路線対立
【佐藤優】イスラエルとパレスチナ、戦いの「発端」 ~サレフ・アル=アールーリ~
【佐藤優】水面下で進むアメリカvs.ドイツの「スパイ戦」
【佐藤優】ロシアの「報復」 ~日本が対象から外された理由~
【佐藤優】ウクライナ政権の「ネオナチ」と「任侠団体」 ~ビタリー・クリチコ~
【佐藤優】東西冷戦を終わらせた現実主義者の死 ~シェワルナゼ~
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【ウクライナ】内戦に米国の傭兵が関与 ~CIA~
【佐藤優】日本が「軍事貢献」を要求される日 ~イラクの過激派~
【佐藤優】イランがイラク情勢を懸念する理由 ~ハサン・ロウハニ~
【佐藤優】新・帝国時代の到来を端的に示すG7コミュニケ
【佐藤優】集団的自衛権、憲法改正 ~ウクライナから沖縄へ(4)~ 
【佐藤優】スコットランド、ベルギー、沖縄 ~ウクライナから沖縄へ(3)~ 
【佐藤優】遠隔地ナショナリズム ~ウクライナから沖縄へ(2)~
【佐藤優】ユニエイト教会 ~ウクライナから沖縄へ(1)~ 
【佐藤優】独裁者の「再選」が放置される理由 ~バッシャール・アル=アサド~
【佐藤優】経済と政治を行き来する新大統領の過去 ~ペトロ・ポロシェンコ~
【佐藤優】安倍首相とイスラエル首相「声明」の意味 ~ベンヤミン・ネタニヤフ~
【佐藤優】ロシアが送り込んだ「曲者」の正体 ~ウラジーミル・ルキン~
【佐藤優】ロシアは日本をどう見ているか ~日本外相の訪露延期~
【佐藤優】ウクライナ衝突の「伏線」 ~オレクサンドル・トゥルチノフ~
【ウクライナ】危機の深層(2) ~ブラック経済~
【ウクライナ】危機の深層(1) ~天然ガス~
【ウクライナ】エネルギー・集団的自衛権・尖閣問題 ~日本外交のジレンマ(3)~
【ウクライナ】米国の迷走とロシアの急成長 ~日本外交のジレンマ(2)~
【ウクライナ】と日本との歴史的関係 ~日本外交のジレンマ(1)~
【佐藤優】ウクライナ危機と米国が陥った「恐露病」
【佐藤優】プーチン政権がついに発した「シグナル」の意味 ~ロシア外交~
【佐藤優】プーチンは「世界のルール」を変えるつもりだ ~クリミア併合~
【ウクライナ】暫定政権の中枢を掌握するネオナチ ~クリミア併合の背景~
【佐藤優】北方領土返還のルールが変化 ~ロシアのクリミア併合~
【佐藤優】ロシアが危惧するのは軍産技術の米流出 ~ウクライナ~
【佐藤優】新冷戦ではなく帝国主義的抗争 ~ウクライナ~~
【佐藤優】クリミアで衝突する二大「帝国主義」 ~戦争の可能性~
【佐藤優】「動乱の半島」クリミアの三つ巴の対立 ~セルゲイ・アクショーノフ~
【佐藤優】ウクライナにおける対立の核心 ~ユリア・ティモシェンコ~
【ウクライナ】とEU間の、難航する協定締結に尽力するリトアニア
【佐藤優】ロシアとEUに引き裂かれる国 ~ウクライナ~


【佐藤優】【ピケティ】はマルクスとは異質な発想 ~『21世紀の資本』~

2015年01月09日 | 批評・思想
【佐藤優】【ピケティ】はマルクスとは異質な発想 ~『21世紀の資本』~

 本書の特徴は2箇所にある。
 (1)比較的簡単な道具立て【注】で、ビッグデータを処理し、過去200年の資本主義が格差を拡大する傾向にあることを実証することである(ただし、二度の世界大戦期を除く)。
 (2)資本主義の行き詰まりを解消するためには、国家が介入し、資本税を徴収することが所与の条件下では最も効率的であるということを説得することである。

 【注】資本主義の2つの基本法則(作業仮説)
   第一基本法則・・・・α(利潤シェア)=r(資本収益率)×β(資本所得比率)
   第二基本法則・・・・β(資本所得比率)=s(貯蓄率)/g(経済成長率)

 (1)については、ここではさて措く。
 ピケティは、経済学者として、事態を純粋に観察するという姿勢を取らない。政治経済学者として、問題を解決することに強い関心がある。
 ピケティが重要な処方箋として提示しているのが資本税の導入だ。資本税によって、富の公平配分を実施することを考えている。
 資本家は、資本税の徴収に対して、当然、激しく抵抗する。
 それに対抗して資本税を強制的に徴収することができるのは、暴力装置を合法的に独占する国家だけだ。
 国家は抽象的な存在ではなく、官僚によって運営されている。ピケティが想像するような資本税の徴収が行われる状況では、国家と官僚による国民の支配が急速に強化される。ピケティは、国家や官僚を中立的な分配機能を果たすと見ている。しかし、この見方は甘い。

 本書とマルクスの『資本論』を類比的に読もうとするのは不毛な試みだ。
 マルクスの『資本論』によると賃金は生産の段階で資本家と労働者の力関係で決まる。利潤の分配は資本家間の問題だ。
 これに対してピケティは賃金を利潤の分配の問題と考える。この点でピケティの発想はマルクスとまったく異なる。以下の記述を読めば、ピケティがマルクスとは、まったく異質な発想をしていることがわかる。

 <限界生産性や、教育と技術の競争という理論の最も自につく不具合は、まずまちがいなく1980年以降の米国に見られる超高額労働所得の急増を説明できないことだ。この理論にしたがえば、この変化は技能重視の方向に技術が向かった結果として説明できるはずだ。米国の経済学者の中にはこの主張を受け入れる者もいて、最上位の労働所得が平均賃金よりも急速に上昇したのは、単に独自の技能と新技術によってこれら労働者が平均以上に生産性を上げたためだと考える。この説明には、何やら堂々巡りじみたものがある(なんといっても、どんな賃金階層の盗みであっても、何か勝手な政術変化を想定すればその結果として「説明」できてしまう)。そしてこの説明には他にも大きな弱点があり、それゆえ私にはかなり説得力に欠けた主張に思える。
 まず前章で示したように、米国における賃金格差の増大は、主に分布の一番上に位置する人々、つまりトップ1パ ーセント、あるいはさらに0.1パーセントに対する報酬の増加に起因する。トップ十分位全体を見ると、「9パーセント」の賃金は、平均的労働者よりも急速に増えているが、「1パーセント」ほどではないことがわかる。具体的には、年に10万ドルから20万ドル稼ぐ人々の賃金は、平均と比べて少ししか早く増加していないのに対し、年に50万ドル以上稼ぐ人々の報酬は爆発的に増加している(そして年に100万ドル以上稼ぐ人々の報酬はさらに急増している)。このトップ所得水準内でのはっきりとした断絶は、限界生産性理論にとっては問題になる。所得分配における各種グループの技能水準変化に着目すると、教育年数、教育機関の選択、あるいは職業経験といったどんな基準を使っても、「9パーセント」と「1パーセント」の間に何らかの断絶を見出すのはむずかしい。能力と生産性という「客観的」 評価に基づいた理論が正しいなら、現実に見られるようなきわめて差の大きい増え方ではなく、トップ十分位内でだいたい同じくらいの賃上げが見られるはずだし、そうでなくともその中でのサブグループ同士で、賃金上昇にたいした差はつかないはずなのだ。
 誤解しないでもらいたい。私はカッツとゴールディンが明らかにした、高等教育と訓練への投資の明確な重要性を否定しているわけではない。米国、そしてそれ以外の国でも、大学教育へのアクセスを拡大する政策は、長い目で見れば必要不可欠だしとても重要だ。しかしそのような政策の価値がいくら高くても、1980年以降の米国における最上位所得の急上昇に対しては、限定的な効果しか持たなかったようなのだ。
 要するに、ここ数十年間は二つのちがう現象が作用していたわけだ。まずひとつはゴールディンとカッツが示した、大卒と高卒以下の所得絡差の増大だ。これに加えて、トップ11パーセントでは(そしてトップ0.1パーセントではさらに)報酬が急増した。これは大卒者、そして多くの場合その中でもエリート校で何年間も学び続けた人だけに見られる、きわめて固有の現象だ。量的には二つめの現象のほうが最初の現象よりも重要だ。特に前話で示したように、トップ百分位の儲けすぎによって、1970年代以降の米国国民所得におけるトップ十分位のシェア的大のほとんど(4分の3近く)を説明できるのだから。そのため、この現象について適切な説明を見つけることが重要になるが、どうもそこで注目すべきなのは教育的要素ではないらしい。>(326~327頁)

 トップ0.1%、1.0%が得ているのは、賃金ではない。資本家としての利潤だ。
 マルクス経済学の視座から見るならば、資本家間の利潤の分配が不均等になっているということである。ピケティは、<要約すると、長い目で見て賃金を上げ賃金格差を減らす最善の方法は、教育と技術への投資だ。結局のところ、最低賃金と賃金体系によって賃金を5倍、10倍にするのは不可能だ。そのような水準の達成には、教育と技術が決定的な効力を持つ。>(325~326頁)と強調する。

 ただし、米国のトップクラスの大学・大学院(1年の学費が500万円かかる)の出身者は、学生の時点で資本家の予備軍なのである。この人たちは、資本家として企業で働き、資本の利潤の中から分配を得るのである。
 これに対して、普通の大学教育を得た者を含む圧倒的大多数の労働者は、生産の段階で労働力商品の対価としての賃金を得るのだ。
 ピケティの分析では、労働者の賃金も資本家の利潤も共に分配論で処理されるので、資本主義の構造的問題がぼやけてしまう。

□佐藤優「トマ・ピケティ『21世紀の資本』の甘さ ~マルクスとは異質な発想、ぼやけた資本~主義の構造的問題」(WEBRONZA 2015年01月01日)
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 【参考】
【ピケティ】『21世紀の資本』に係る書評の幾つか
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【ピケティ】『21世紀の資本』に係る書評の幾つか

2015年01月08日 | 批評・思想
●nikkei BPnet

 ピケティの主張を一言で結論すると、「現在は『第2のベルエポック』に入っている」。
 ピケティの功績の一つは、過去200年以上の期間について欧米の膨大なデータを分析し、ベルエポックにおける所得と富の集中、分配の不平等を統計的に跡付けたことだ。そのうえで、現代、とくに1980年以降の欧米は「第2のベルエポック」に入っていると指摘している。
 最大の特徴であるデータ分析については、英米の経済学者の協力を得ながら、所得と富の分配関連のデータを税務統計から導き出した。ピケティは膨大な税務統計を集めて、それを加工・分析し、200年というスケールで具体的な数値を大量に用いてに不平等の実態を明らかにした。
 さまざまなデータ分析のなかでも目を見張るポイントは、所得格差と富の集中の拡大と縮小、そして再拡大という流れを100~200年の時間軸で実証的に追いかけたことだ。ベルエポックで広がった所得と資産の格差は、第一次世界大戦から1970年代までの間に縮小する。しかし、1980年以降、これら格差は再び拡大して100年前の状態に近づいている、という。
 また、ピケティは分配の不平等度を所得階層別、資産階層別の比率で誰にもすぐ分かる形で表示している【注】。
 資本対所得比が上昇しているということは、蓄積された資本が投資などでうまく回れば、資本所得(企業収益、配当、賃貸料、利息、資産売却益など)が増えるということを意味する。つまり、富を持つ者はそれだけ大きな所得を得て、ますます豊かになっていく。
 ピケティは資本対所得比の上昇について、さらに経済理論的に深掘りして、資本主義の基本特性として、資本収益率(r)と経済成長率(g)の乖離を実証的に明らかにしています。資本収益率とは、投下した資本がどれだけの利益を上げているかを示す。経済成長率はGDPがどれだけ増えているかだ。
 歴史的に見ると、戦後の一時期を除いて、資本収益率は経済成長率を上回っているというのがピケティの注目すべき指摘だ。つまり、「r>g」という不等式が基本的に成り立つということだ。
 gの増加は中間層や貧困層を含めた国民全体を潤しますが、rの増加は富裕層に恩恵が集中します。gよりもrが大きい期間が長くなればなるほど、貧富の格差は広がり、富が集中化していく。これがベルエポックと「第2のベルエポック」における格差拡大の真相ということになる。
 その意味で、rとgが逆転した1914~70年の約60年は画期的だった。戦後の人口増加や雇用増に直結する技術革新によりgが上昇したことで、不平等が是正されていった。とりわけ第2次世界大戦後の30年間は「栄光の30年」だったと言える。
 では、どうして1980年代に「栄光の30年」は終わりを迎え、現在は再び資本収益率(r)が経済成長率(g)を上回るようになったのか。その一因として、ピケティはロボットやITの活用を挙げている。
 そのうえでピケティは、世襲の復活について警鐘を鳴らしている。「第2のベルエポック」で大きな資産を築いた富裕層がその資産を子孫に継承することで、100年ぶりに世襲による階級が復活しつつある。しかもそれは、巧妙かつ目に見えない形で進行している、と謂う。
 ピケティはそうした格差の固定化、さらに拡大を防ぐために、グローバル累進課税という制度を提言している。まず、一種の富裕税をグローバルに創設して、年0.3%から最大で10%を資本に課税する。つぎに、年間所得50万ドル(5,000万円)以上に対して、80%程度の税金(限界税率)をグローバルに取り立てる、というものだ。
 しかし、このグローバル累進課税構想は米国の保守派を刺激した。「ピケティはマルキストだ」といった批判がわき起こっているのだ。事実は、ピケティはフランス社会党のシンパではあるが、決してマルキストではない。
 一方で、「所得を創出するのはそもそも資本ではないのか。累進課税でその資本を封じ込めたら元も子もない」という批判もある。いまのところ、英国のエコノミスト誌をはじめ、この批判がもっとも多く、そして説得力のあるものとなっている。
 このように、ピケティにはいかにも社会党シンパらしいイデオロギーの臭いがしないこともないが、データに基づいたファクト・ファインディングについては率直に評価するべきだし、先進国を中心に世界で、いま所得と富の格差が拡がっている「21世紀的現実」に注視は怠れない。
 ピケティの主張・提言を引き続き検証しながら、政治的な分配問題を含めた議論を活発にしていくことが、21世紀の「政治経済学(political economy)」に課せられる最大のテーマになっていくはずだ。

 【注】具体的に見ると、米国の上位10%の所得階層が国全体の所得に占める割合は、1910年には約50%だった。その比率は次第に減少し、第二次世界大戦後は30%程度にまで下がる。ところが2010年には、再び50%ほどへと大きく上昇している。
 富の不平等についてはどうか。1910年には、上位10%の富裕層が国全体の富の80%を占めていた。大戦後にその比率は60%程度にまで減少するが、2010年には再び上昇して70%近くになっている。
 こうした不平等拡大の背景には、資本対所得比の上昇がある。これは、国内総生産(GDP)に対して国民全体が持っている資本蓄積(総資産)の割合だ。1910年には、資本対所得比は約700%の高い水準だった。それが戦後、戦災による設備や家屋、インフラの損耗などもあり、200%程度にまで下がる。それが2010年には500~600%へと増加しているのだ。

□齋藤精一郎「ピケティ『21世紀の資本論』はなぜ論争を呼んでいるのか ~世界経済の行方、日本の復活~」(nikkei BPnet 2014年5月20日)

   *

●BLOGOS

(1)我が国の格差拡大の問題
 略。

(2)ピケティ教授の格差の分析
 略。

(3)格差是正のための政策のあり方
 ピケティは、「資本・所得倍数(ストックである資本をフローの所得で割った比率)が上昇して資本主義が先鋭化しても、それ以上に経済全体のパイが成長すれば労働者は報われるはずである」という考えに対して、データを示して、資産保有者と労働者の所得格差がますます拡がっていることを解明した。
 また、資本に対する税制が低下する一方で、経済成長率が低下していることも格差拡大を誘導していることを指摘している。とくにITの発達で労働者の「生産財」として相対的価値が低下し、一方で資本収益率が守られる優遇措置により、現代資本主義は宿命的に格差を生み出す構図にあることを明らかにした。
 この格差拡大を防止するためには、政府が積極的に市場をコントロールする必要がある。ピケティは、資産や高額所得に対する累進課税、あるいは資産格差の是正という視点から、相続への重い課税などを提唱しているが、我が国としても、これまでの所得再分配政策や雇用政策を検証しながら、ピケティの提言について具体化に検討すべきだ。
 今日、我が国の政府・与党は法人税減税の方針を打ち出し、また租税特別措置法の維持、株式や投信など個人の資産運用への優遇措置など講じているが、企業や資産家の資産増大に大きく寄与するだけに、このような政策のあり方についても格差の視点から再検討していく必要がある。
 我が国においては、近年、労働分配率が低下し続け、労働者の賃金水準は低迷したままで、ワーキング・プアも増加している。その結果、生活することが困難な労働者が増え、消費の低迷が続き、経済全体の足を引っ張っている状況にある。いまこそ、給与水準と最低賃金の水準を引き上げ、また非正規雇用労働者については、「同一価値労働・同一賃金」を保障する制度設計をしていく必要がある。
 ピケティの分析と提言を念頭に、格差の拡大・格差の固定化を防止する視点からも、まずは労働・雇用政策の抜本的見直しをはかっていかなければならない。

□加藤敏幸「トマ・ピケティの『21世紀の資本』の読み方」(BLOGOS 2014年12月08日)

   *

●WEBRONZA

 本書は経済格差について何を語っていないか・・・・この点にこそこの本の特徴がある。

(1)技術を持つ熟練労働者と技術を持たない未熟練労働者の賃金格差
 これについて、本書は何も語っていない。「労働者の賃金がその限界生産性に依存し、技術を持った生産性の高い労働者の賃金は未熟練労働者の賃金より高い、という理論はそもそもナイーブすぎる」。さらに、「人的資本という概念は幻想である」とまで言っている。ピケティは労働者間の賃金格差には全く関心がないらしい。
 本書から日本の正規と非正規の労働者間の格差について、何か知見を得ようとか、解決のヒントを探そうと考えている人は、この本に失望するだろう。

(2)企業経営者の報酬が天井知らずの上昇を見せているという近年の現象
 これについて、語っているけれども、本書の主題ではない。歩書の主題はあくまで持つ者と持たざる者の格差、富の所有の格差である。
 もっとも、(2)について語ったことが、本書のアメリカにおける大成功の大きな要因であった。

 <この経営者報酬の天井知らずの上昇、という現象を説明するピケティの仮説は「1980年代に始まる所得税の限界税率の低下」である。だが、それで十分な説明になっているのだろうか?
 ピケティのこの本に対し、おそらく最も好意的な書評を書いたポール・クルーグマンですら、その書評の中で「(富裕層の税負担の低下が報酬を稼ぐエリート層を大胆にさせた)というピケティの診断は、彼の富の分配と富への報酬に対する分析と比べて、厳密さや普遍性を欠いている。規制緩和を分析の枠組みに組み込み損ねていることには失望する」と述べている。>
 <ピケティ自身が認めているように、例えば現代のアメリカで資本所得を主な収入として生活する富裕層は人口の僅か0.1%に過ぎない。大恐慌の直前には1%の有閑階級が存在した。><今日では、富裕層1%のうちの0.9%は労働報酬で生活しているスーパーマネジャーである。有閑階級は実質的に消滅している。>
 <そうであれば経済格差を語るのに「資本所得対労働所得」というに二項対立だけで説明するのは不十分ではないだろうか?>

(3)所得や資産の格差で生じる社会階層はどの程度固定的なのか・・・・ピケティは労働者間の所得格差について関心がないので、社会階層の固定性・流動性の問題もこの本の射程外である。

□吉松崇「トマ・ピケティトマ・ピケティ『21世紀の資本』をどう読むか? そこに書かれていないものは何か」(WEBRONZA 2015年01月01日)

   *

●朝日新聞

(前略)
 本書の分析結果が国際的に敬意を払われているのは、ピケティが、「分配論」(第3部)の科学的基礎として「資本蓄積論」(第2部)を、詳細な実証分析に基づいて展開しているからだ。格差拡大傾向の指摘だけなら、本書がここまで影響力をもつことはなかったであろう。(中略)
 しかし、資本蓄積は別の問題を引き起こす。格差の拡大だ。ピケティの功績の一つは、歴史上ほぼすべての時期で「資本収益率(r)」>「経済成長率(g)」が成立していることを明らかにした点にある。これは、資本の所有者に富を集中させるメカニズムが働いていたということだ。(中略)
 資本蓄積が高水準に達し、しかも低経済成長レジームに入った21世紀では、新たに付け加えられる富よりも、すでに蓄積された富の影響力が相対的に強まる。これは、「r>g」による格差拡大メカニズムをいっそう増幅させる。ピケティは1980年以降、国民所得に占める相続と贈与の価値比率が増加に転じたことを確認、相続による社会階層の固定化に警告を発する。
 だが「r>g」は、20世紀がそうだったように、資本主義に不可避的な経済法則ではない。特に国家による資本(所得)課税のあり方は、資本収益率に決定的な影響を及ぼす。1980年以降、グローバル化で各国間の租税(引き下げ)競争が強まり、資本課税は弱体化してしまったが、ピケティは、国際協調に基づく「グローバル資本税(富裕税)」の導入が不可欠だと強調する。これは、個人が国境を超えて保有する純資産総計への課税だ。その実現は、夢物語ではない。OECDで租税情報の国際的自動交換システムの構築が進展しているからだ。
 こうした課税システムは、経済と金融の透明性を向上させ、資本の民主的統制を可能にする。21世紀をどのような世界にするかは結局、市場と国家に関する我々の選択にかかっている。その意味で本書は、格差拡大に関する「運命の書」ではなく、資本主義の民主的制御へ向けた「希望の書」だといえよう。

□諸富徹(京都大学教授・経済学)「(書評)『21世紀の資本』 トマ・ピケティ〈著〉」(朝日新聞デジタル 2014年12月21日)から一部引用
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 【参考】
【ピケティ】は21世紀のマルクスか ~ピケティ現象を読み解く~
【ピケティ】資本主義の今後の見通し ~トマ・ピケティ(3)~
【ピケティ】現代経済学を刷新する巨大なインパクト ~トマ・ピケティ(2)~
【ピケティ】分析の特徴と主な考え ~トマ・ピケティ『21世紀の資本』~
【経済】累進資産課税が格差を解決する ~アベノミクス批判~
【経済】格差が広がると経済が成長しない ~株主資本主義の危険~
【経済】なぜ格差は拡大するか ~富の分配の歴史~

   
   

【ピケティ】は21世紀のマルクスか ~ピケティ現象を読み解く~

2015年01月07日 | 批評・思想
 ピケティ経済学は私たちの社会への見方にどんな影響を与えるか。

 ピケティらの学術的研究がこれだけのインパクトを与えるに至った背景には、1980年代からグローバルに浸透してきた新自由主義への経済政治体制が、21世紀の現在、貧富の格差として顕在してきたことがある。
 新自由主義は、第二次世界大戦後に広く採用された所得分配の平等化政策に対する反動として、経済・政治・軍事・メディア・学問など、社会のあらゆる側面で推進されてきた。
 階級差別の復興と呼んでいいし、世襲資本主義と呼んでもいい。
 ピケティが好んで引用するオースティンやバルザックのような19世紀の小説家が描いた世界、富者と貧者が完璧に別れた世界がネオリアリズムの抱く幻想なのだ。

 格差の進行に対する社会的反応は二つ。
 (1)右傾化。こうした国内の身近な格差の進捗を、国外からの移民労働力や発展途上国の市場進出のせいであるとする。そして、より強い国家による排外主義的統合をめざす。・・・・極右政党の勢力拡張や「ヘイト・スピーチ」の蔓延といった事象に象徴される。
 (2)左傾化。貧富の拡大を国境で閉じられた現象と考えず、世界的規模の階級闘争への呼びかけと捉える。・・・・国政代表民主主義の代替物としての地域アイデンティティ重視、「オキュパイ運動」、「反原発デモ」といった街頭直接行動の興隆として現れる。
 ・・・・(1)が主に「過剰開発国」(<例>欧米や日本)において、(2)が「開発途上国」(<例>南米や中国)において勢力を保っている、とも言えそうだ。しかし、どの地域でも二つの勢力がせめぎあい、ともすれば国家主義的なアナーキズムかの二極に社会が分解しかねない。

 そうした状況で、ピケティの本がメディアにも大きく取り上げられ、「ピケティ・パニック」とも言われる反響を呼んでいるのは、次の二つの情念があるからだろう。
  (a)ピケティの評判がソ連崩壊とともに葬られたはずのマルクスの亡霊を蘇らせかねないという恐怖
  (b)資本主義の延命を図るための有効策として活用したい欲望
 「パニック」を(a)は否定的に、(b)は肯定的に捉えるが、いずれも新自由主義的な資本主義がパニクっていることには変わりはないのだ。

 ピケティは、マルクス主義者ではない。資本主義の枠内で、収税方法を改善することで格差減少を具体化しようとする。
 彼は、マルクスは難しすぐて読みにくいし、データ分析がないので不十分だ、という。
 しかし、格差低減のためのピケティの提案二点
   ①所得税累進課税の引き上げ
   ②国境を越えた世界資産課税の徴収
は、(マルクスが統計データなしに無視した)富の私的蓄積が技術の進歩と生産性の増大によって相殺される傾向が、新自由主義の浸潤で無効となり、右と左に社会が分裂している今、マルクスが解明しようとした産業革命期における富の集中に対する処方箋を改めて獲得する手段にほかならない。

 かくしてピケティは、クズネッツの「逆U字型仮説」をクズにし、マルクスの「資本の無限集積と窮乏化の原理」にマルを付けるのだ。
   r(資本収益率)>g(経済成長率)
というピケティの定式を、
   「金としての資本」>「人としての幸福」
と読み替えるのだ。
 綿密なデータに基づく命題は正しい・・・・とすれば、あとは私たち自身の政治的意志の問題である。  

□本橋哲也「ピケティは21世紀のマルクスか ~ピケティ現象を読み解く~」(「週刊金曜日」2014年12月19日号)
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 【参考】
【ピケティ】資本主義の今後の見通し ~トマ・ピケティ(3)~
【ピケティ】現代経済学を刷新する巨大なインパクト ~トマ・ピケティ(2)~
【ピケティ】分析の特徴と主な考え ~トマ・ピケティ『21世紀の資本』~
【経済】累進資産課税が格差を解決する ~アベノミクス批判~
【経済】格差が広がると経済が成長しない ~株主資本主義の危険~
【経済】なぜ格差は拡大するか ~富の分配の歴史~