(中日新聞 2010年3月29日)
【カリ(コロンビア)=阿部伸哉】名古屋市で10月に開かれる生物多様性条約第10回締約国会議(COP10)に向け当地で開かれた作業部会は28日、「遺伝資源から生じる利益の公正な配分」(ABS)への国際枠組みについて、議定書草案を条件付きで合意した。
作業部会は22日に始まり、共同議長案を基に、条約事務局が草案を25日に提示。しかし遺伝資源の対象を派生商品まで拡大しようとする途上国側と、動植物や微生物に限定しようとする先進国側が対立した。
さらに、先進国の研究者が途上国で遺伝資源の調査を行う際、途上国側に研究内容を開示すべきだとの条件に、先進国側が「巨費を投じた研究や技術を無条件に途上国に渡すことはできない」と抵抗。最終日の28日、「草案は共同議長が議定書の要素を詳しく書いたものにすぎない」との注釈が添付された上で、草案をCOP10の本会議に送付する合意が行われた。
今後、6月のカナダ・モントリオールでの作業部会など会合を2度開き、対立点の解消を図る。
<解説>利害の対立どう決着?
「先進国は、途上国にいくら分け前を払えるのか」。生物多様性条約の下、遺伝資源の公平な利益配分(ABS)を決める名古屋議定書の草案は、作業部会で条件付きながら合意されたが、実際に同条約第10回締約国会議(COP10)で成案し採択にこぎ着けるかは極めて困難な道筋と言える。
この条約は、ゾウやサイなどの希少な野生動物の保全や古里のため池や水田の生物の復活などが主題となっている印象を受ける。しかし、実際に最大の問題となるのは、途上国の熱帯雨林に自生する薬用植物や医療に役立つ微生物などから巨額な利益を得ている先進国の企業から、途上国がいかに利益を取り戻すかの経済闘争だ。
途上国や非政府組織(NGO)は歴史上、先進国が植民地で栽培し利益を受けてきた天然ゴムやコーヒーについても「生物学的海賊行為」として、利益を途上国へ配分すべきだとも主張しており、先進国側から議定書草案が受け入れられない理由ともなっている。
経済界がCOP10に深くかかわろうとしているのは、議定書の内容によっては企業の海外戦略に大きな影響を受けるからだ。
今後、2回の協議を経て草案はCOP10に諮られるが、激しく対立する利害をどう決着し名古屋議定書とするのか。議長国日本の力量が問われることになる。
(東京社会部・蒲敏哉)
http://www.chunichi.co.jp/article/feature/cop10/list/201003/CK2010032902000201.html
【カリ(コロンビア)=阿部伸哉】名古屋市で10月に開かれる生物多様性条約第10回締約国会議(COP10)に向け当地で開かれた作業部会は28日、「遺伝資源から生じる利益の公正な配分」(ABS)への国際枠組みについて、議定書草案を条件付きで合意した。
作業部会は22日に始まり、共同議長案を基に、条約事務局が草案を25日に提示。しかし遺伝資源の対象を派生商品まで拡大しようとする途上国側と、動植物や微生物に限定しようとする先進国側が対立した。
さらに、先進国の研究者が途上国で遺伝資源の調査を行う際、途上国側に研究内容を開示すべきだとの条件に、先進国側が「巨費を投じた研究や技術を無条件に途上国に渡すことはできない」と抵抗。最終日の28日、「草案は共同議長が議定書の要素を詳しく書いたものにすぎない」との注釈が添付された上で、草案をCOP10の本会議に送付する合意が行われた。
今後、6月のカナダ・モントリオールでの作業部会など会合を2度開き、対立点の解消を図る。
<解説>利害の対立どう決着?
「先進国は、途上国にいくら分け前を払えるのか」。生物多様性条約の下、遺伝資源の公平な利益配分(ABS)を決める名古屋議定書の草案は、作業部会で条件付きながら合意されたが、実際に同条約第10回締約国会議(COP10)で成案し採択にこぎ着けるかは極めて困難な道筋と言える。
この条約は、ゾウやサイなどの希少な野生動物の保全や古里のため池や水田の生物の復活などが主題となっている印象を受ける。しかし、実際に最大の問題となるのは、途上国の熱帯雨林に自生する薬用植物や医療に役立つ微生物などから巨額な利益を得ている先進国の企業から、途上国がいかに利益を取り戻すかの経済闘争だ。
途上国や非政府組織(NGO)は歴史上、先進国が植民地で栽培し利益を受けてきた天然ゴムやコーヒーについても「生物学的海賊行為」として、利益を途上国へ配分すべきだとも主張しており、先進国側から議定書草案が受け入れられない理由ともなっている。
経済界がCOP10に深くかかわろうとしているのは、議定書の内容によっては企業の海外戦略に大きな影響を受けるからだ。
今後、2回の協議を経て草案はCOP10に諮られるが、激しく対立する利害をどう決着し名古屋議定書とするのか。議長国日本の力量が問われることになる。
(東京社会部・蒲敏哉)
http://www.chunichi.co.jp/article/feature/cop10/list/201003/CK2010032902000201.html