(National Geographic News March 12, 2010)
John Roach
現在のメキシコに住んでいた古代先住民の「二重埋葬」の慣習が明らかになった。最近の調査によると、腐敗した遺体を掘り起こし、四肢と頭を切断した後に再び埋葬していたという。
人類学者の研究チームが調査したのは、メキシコ、バハカリフォルニア・スル州のカペ地方。この地域の先住民は、紀元前3000年頃から、ヨーロッパ人が初めてこの地を訪れた16世紀までのおよそ4500年間に渡って二重埋葬を行っていたという。
メキシコ国立人類学歴史学研究所(INAH)で自然人類学の研究を行っているアルフォンソ・ロザレスロペス(Alfonso Rosales-Lopez)氏によれば、先住民らは、死を「自由が失われ苦痛に満ちた状態」と捉え、死者の手足を切断すれば苦痛から解放されると考えていたようだ。
死を命の終焉ではなく新たな状態への移行と見なす文化は世界中に存在するが、二重埋葬も彼らの信仰に見合った慣習だとロザレスロペス氏は話す。
ロザレスロペス氏は、1991年からバハカリフォルニア州南部の沿岸地域で100件以上の二重埋葬を調査しており、結果をまとめた論文を執筆中である。
当時の死者は、息を引き取った直後に獣の皮で包まれた後、胎児と同じ体勢にされ、リュウゼツランで作ったひもで固く縛られる。リュウゼツランは、蒸留酒テキーラの原料となる多肉植物である。遺体は1体ずつ浅い墓穴の中へ安置され、貝殻や木炭とともに土で覆われる。
「これで埋葬は終わったかのように思える。だが、実際の遺体はいくつもの部分に切断されているので、次の段階が控えていたことがわかる」。ロザレスロペス氏はそう語る。
6~8か月後、埋葬された遺体は再び掘り起こされることになる。「この時点の遺体は、腐敗が相当進んでおり、四肢と頭を切り離しやすい状態になっていただろう」とロザレスロペス氏は指摘する。
切断された四肢と頭は、胴体部分と一緒に墓穴へ埋め戻される。
調査チームはこれらの墓地遺跡付近で、矢じり、ナイフ、銛(もり)など、食物の調達や調理に使用したとみられる石器や、軟体動物の殻、種子、植物など食料の残骸も発見している。
『The Prehistory of Baja California: Advances in the Archaeology of the Forgotten Peninsula』の著者の1人で、考古学研究のコンサルティング会社「ASM Affiliates」の上級考古学者ドン・レイランダー氏は、二重埋葬はケープ地方特有の慣習だと考えている。
またレイランダー氏は、ロザレスロペス氏らの調査がメキシコ古代先住民の文化に新たな知見をもたらしたと高く評価している。
例えば、この遺跡から見つかった二重埋葬の痕跡や貝殻や骨は、地域の先住民が半定住生活を営みながらも儀式を重要視していたことを示唆しているとレイランダー氏は言う。
彼らが生活の場を移動した後も、かつての居住地を放置しなかったことが出土した品々から伺えるからだ。ロザレスロペス氏も、死者の亡骸を守る義務感からかつての居住地をたびたび訪れていたのだろうと話す。
ただレイランダー氏は、当時の文化についてわかったのは一部に過ぎないと話す。同氏によると、ケープ地方の先住民文化は200年以上前に消失しており、学術的な記録もほとんど残っていないという。
遺体切断に関してもロザレスロペス氏が目的を説明しているが、レイランダー氏は「まだ憶測の域を出ない」とコメントしている。
http://www.nationalgeographic.co.jp/news/news_article.php?file_id=20100312002&expand&source=gnews