読売新聞 2016年02月06日
![](https://blogimg.goo.ne.jp/thumbnail/25/a6/560f415d8b961e5f925fd45da0eb7559_s.jpg)
動物素材を使わない洋服のブランドをプロデュースした杉本さん。この日着ていたワンピースもレーヨン製だ=工藤菜穂撮影
ファッション界で動物愛護への取り組みが広がっている。世界的な意識の高まりを背景に、動物の毛や皮を全く使わないブランドや、少なくともむやみに殺される動物からの素材は使用しないというメーカーが現れている。
一方、人工の毛皮やダウンも天然に近い良質のものが開発されている。(福島憲佑)
女優の杉本彩さんは昨年12月、自ら企画する服飾ブランド「ディアエルザ」の販売をスタートさせた。大人の女性に向けたシンプルなデザインのコートやワンピース、ブラウスなどを扱うが、どれもレーヨンやアクリルなどの化学繊維が原料で、ダウンや毛皮などは使っていない。
「食肉の副産物としての牛革などを否定するつもりはないが、それを得る過程で動物虐待がなかったと確認できないものは使いたくない」と杉本さん。
自ら動物愛護団体の理事長を務めるなど、以前から保護活動にも取り組んできた。「毛皮やダウンがどうやって採取されているかを知らない若い人の意識を変えたい」と杉本さんは話している。
スウェーデンの衣料大手「H&M」は、世界約80の製造工場が仕入れるウールやダウンなどの仕入れ先についても、素材となった動物の飼育環境が適正かどうかなどを調査した上で契約を結んでいる。2013年には、自社のニットの素材として使われていたアンゴラウサギの毛の取り扱いをやめた。生きたまま毛が抜かれていることが「残虐だ」として一時批判され、同社で扱う製品に問題ある採取法はなかったものの、世論の反発を案じたという。
動物保護に取り組むブランドもある。イタリアの高級服飾ブランド「ロロ・ピアーナ」では、希少動物ビキューナを保護するため、08年にはペルーに、13年にはアルゼンチンに民間保護区を設置し、密猟者から保護したり、生態研究を支援したりしている。ビキューナの毛は柔らかく滑らかな高級素材で、同ブランドのストールでは、カシミヤ製の約6万円に対し、ビキューナは約60万円に上る。
同ブランドは、保護区で先住民らが伝統的な方法で生きたまま捕獲して刈り取ったものなど、殺さないで得た毛しか使っていない。「動物保護がビジネスを守ることにもなる」との立ち位置だ。
動物の毛や毛皮を加工して衣服としてきた歴史は世界中にある。寒冷な欧州などでは毛皮の服が発達し、権威の象徴としても使われてきた。シベリアなどの先住民族の狩猟に詳しい国立民族学博物館教授の佐々木史郎さん(文化人類学)は、「毛皮などを利用する技術も、人類が長い時間をかけて洗練してきた文化だ。簡単には否定できない。むやみに命を奪わないでもすむように考えていくことが大切だ」と話している。
進化する化学繊維
化学繊維も進化している。毛皮では、海外高級ブランドでも人工素材を取り入れていて、キツネの毛皮をイメージして作られた「スーパーフォックス」=写真、岡田織物提供=はアクリル100%。素材を提供した三菱レイヨンのアクリル繊維事業部長、河崎隆雄さんは「一見して天然素材か人工素材かは分からない」と話す。天然の毛皮は染色が難しいが、人工的な毛皮は様々に染めることができる。河崎さんは「デザインの自由があり、表現の幅を広げる可能性がある」と指摘する。
ダウンも、天然に近い素材が開発されている。保温性を示すダウンパワーという指標で、天然の300以上に対し、従来のポリエステル製の中綿は150だった。現在、同社では240程度の製品を開発し、天然素材にかなり近づけている。また、天然素材に比べて、人工素材は供給が安定しているというメリットもある。
南米に生息するラクダ科の動物。ビクーニャ、ビクーナとも呼ばれる。その毛は衣服に使える獣毛では最も細いと言われ、高値で取引されてきた。密猟が横行し、ペルーでは13~16世紀に約300万頭生息していたのが、1960年代には5000頭ほどに激減。最近は同国内で18万頭まで回復している。
http://www.yomiuri.co.jp/komachi/beauty/bnews/20160204-OYT8T50012.html
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動物素材を使わない洋服のブランドをプロデュースした杉本さん。この日着ていたワンピースもレーヨン製だ=工藤菜穂撮影
ファッション界で動物愛護への取り組みが広がっている。世界的な意識の高まりを背景に、動物の毛や皮を全く使わないブランドや、少なくともむやみに殺される動物からの素材は使用しないというメーカーが現れている。
一方、人工の毛皮やダウンも天然に近い良質のものが開発されている。(福島憲佑)
女優の杉本彩さんは昨年12月、自ら企画する服飾ブランド「ディアエルザ」の販売をスタートさせた。大人の女性に向けたシンプルなデザインのコートやワンピース、ブラウスなどを扱うが、どれもレーヨンやアクリルなどの化学繊維が原料で、ダウンや毛皮などは使っていない。
「食肉の副産物としての牛革などを否定するつもりはないが、それを得る過程で動物虐待がなかったと確認できないものは使いたくない」と杉本さん。
自ら動物愛護団体の理事長を務めるなど、以前から保護活動にも取り組んできた。「毛皮やダウンがどうやって採取されているかを知らない若い人の意識を変えたい」と杉本さんは話している。
スウェーデンの衣料大手「H&M」は、世界約80の製造工場が仕入れるウールやダウンなどの仕入れ先についても、素材となった動物の飼育環境が適正かどうかなどを調査した上で契約を結んでいる。2013年には、自社のニットの素材として使われていたアンゴラウサギの毛の取り扱いをやめた。生きたまま毛が抜かれていることが「残虐だ」として一時批判され、同社で扱う製品に問題ある採取法はなかったものの、世論の反発を案じたという。
動物保護に取り組むブランドもある。イタリアの高級服飾ブランド「ロロ・ピアーナ」では、希少動物ビキューナを保護するため、08年にはペルーに、13年にはアルゼンチンに民間保護区を設置し、密猟者から保護したり、生態研究を支援したりしている。ビキューナの毛は柔らかく滑らかな高級素材で、同ブランドのストールでは、カシミヤ製の約6万円に対し、ビキューナは約60万円に上る。
同ブランドは、保護区で先住民らが伝統的な方法で生きたまま捕獲して刈り取ったものなど、殺さないで得た毛しか使っていない。「動物保護がビジネスを守ることにもなる」との立ち位置だ。
動物の毛や毛皮を加工して衣服としてきた歴史は世界中にある。寒冷な欧州などでは毛皮の服が発達し、権威の象徴としても使われてきた。シベリアなどの先住民族の狩猟に詳しい国立民族学博物館教授の佐々木史郎さん(文化人類学)は、「毛皮などを利用する技術も、人類が長い時間をかけて洗練してきた文化だ。簡単には否定できない。むやみに命を奪わないでもすむように考えていくことが大切だ」と話している。
進化する化学繊維
化学繊維も進化している。毛皮では、海外高級ブランドでも人工素材を取り入れていて、キツネの毛皮をイメージして作られた「スーパーフォックス」=写真、岡田織物提供=はアクリル100%。素材を提供した三菱レイヨンのアクリル繊維事業部長、河崎隆雄さんは「一見して天然素材か人工素材かは分からない」と話す。天然の毛皮は染色が難しいが、人工的な毛皮は様々に染めることができる。河崎さんは「デザインの自由があり、表現の幅を広げる可能性がある」と指摘する。
ダウンも、天然に近い素材が開発されている。保温性を示すダウンパワーという指標で、天然の300以上に対し、従来のポリエステル製の中綿は150だった。現在、同社では240程度の製品を開発し、天然素材にかなり近づけている。また、天然素材に比べて、人工素材は供給が安定しているというメリットもある。
南米に生息するラクダ科の動物。ビクーニャ、ビクーナとも呼ばれる。その毛は衣服に使える獣毛では最も細いと言われ、高値で取引されてきた。密猟が横行し、ペルーでは13~16世紀に約300万頭生息していたのが、1960年代には5000頭ほどに激減。最近は同国内で18万頭まで回復している。
http://www.yomiuri.co.jp/komachi/beauty/bnews/20160204-OYT8T50012.html