斉藤千絵 有料記事
北海道新聞2024年7月29日 9:13
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使い込まれたアイヌ語の辞書を手に、今後の活動について話す泉裕さん
岩見沢市生涯学習センターいわなびで毎月第1土曜に岩見沢アイヌ語勉強会「ミナパ」を主宰する。
アイヌ民族の講師を招いてアイヌ料理の調理試食会を開いたり、新十津川のコタン(集落)跡を訪ねたりと、勉強会で意識するのは言語だけではない生きた文化だ。「歴史や文化への想像力を持ち、互いに良い関係を築いていけたら」と願う。
札幌市生まれ。もともとアイヌ文化や自然に興味があったものの、「自分がアイヌ語の勉強会を主宰するとは思ってもいなかった」と振り返る。
■出会いと別れ転機
転機になった出来事が、二つある。一つ目は道職員だった約10年前、自宅を構えていた岩見沢市から網走市に単身赴任し、釧路管内弟子屈町の屈斜路コタンを拠点に活動するアイヌ民族の音楽家ア◆イ(豊岡征則)さんと出会ったことだ。
自然に敬意を持ち、人間が絶滅させた生きものたちの魂を鎮める歌舞を奉納する「絶滅種鎮魂祭」などに信念を持って取り組むア◆イさんに「理解はできないものの、刺激を受けた」。より深く知りたいという気持ちから、独学でアイヌ語を学び始めた。
さらに約8年前、高校を卒業したばかりの次女を難病の全身性エリテマトーデスで突然亡くした。「短い人生で、彼女はやりたいことをやり遂げることができたのか」。そんな思いが頭から離れなくなり、同時に「娘に『お父さんは自分のやりたいことをやってるの』と言われている気がした」
50歳で道庁を早期退職すると、岩見沢市内の自宅でアイヌ語教室を開いていた元高校教諭の杉山四郎さん(76)の元で本格的にアイヌ語を学んだ。ミナパは、杉山さんの勧めで22年1月に開設。今年1月には、教室を閉じた杉山さんから生徒を引き継いだ。
■笑い合える社会に
ミナパは、アイヌ語で「みんなで笑う」の意味。差別や分断を乗り越えて、さまざまな民族やバックグラウンドを持つ人たち皆が笑い合える社会になるようにとの願いを込めた。
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※◆は「ト」の右上に〇
<略歴>いずみ・ゆたか 1969年、札幌市生まれ。札幌光星高を卒業後、東京の大学を経て道庁入り。当時の空知支庁(現・空知総合振興局)、滝川保健所などに勤務した。2020年3月に早期退職。22年に岩見沢アイヌ語勉強会「ミナパ」を立ち上げた。
https://www.hokkaido-np.co.jp/article/1043719/