《物語の始めに、三沢兵馬という少し偏屈な老人が東京・東小金井に所有する、中国の伝統的家屋建築の「四合院造り」という印象的な家が登場する。十文字の通路を有する方形の中庭を囲んで東西南北四棟があり、そのうちの一棟に間借りする二九歳の金井綾乃が牽引役となって物語は進んでいく。
綾乃の実家は滋賀県近江八幡市、かつての中山道の宿場町武佐宿の武佐。ある日実家の母から、祖母・徳子の九〇歳を祝う「晩餐会」の知らせが届く。祖母が計画した一世一代の晩餐会を背景に、金井家の家族やその周辺の人々に丁寧に光が当てられ、一人一人の生命の煌きらめきが物語に映し出されてゆく。中でも徳子おばあちゃんが一六歳の日に下したある決意が語られる場面は、固かた唾ずをのむ緊迫感が走る。
久しぶりに家族たちが顔を合わせる前夜祭。そして大団円の晩餐会には、どんな物語が用意されているのか。・・》
《よき時、それはかつての栄光ではなく、光あふれる未来のこと。》
金井家の家族やその周辺の人々、そして三沢兵馬の家族の未来・・、戦争時代の想像しづらい生き方があり、今でもありそうな親子関係もあり・・、この著者の作品は、また読んでみたいと思います。