面白くて怖い評伝。
歌人若山牧水と小枝子の関係を追った一冊。
証言などを交えた資料と牧水の短歌から、二人の恋の顛末を描きだしていく。
スリリングでミステリーのようだ。
短歌を読み、そこから何が読みだせるかを俵万智が語っていく。
有名なあの歌の背景にはこんな日々が、こんな思いがあったのかと知ることができる。
引かれた短歌について書かれた鑑賞は楽しいし、ああ、そうかと納得させられながらも、
うわっ、こわっ、と思える心理分析も入ってくる。恋愛心理への洞察力にも驚かされる。
牧水自身が、驚きながら、そうか、確かになぁと呟きそうだし、
ええっ!そこまで語ってくれるなよ、
おれの気持ちってこんなだったのかと自身の無意識に気づかされそう。
で、あの時小枝子はそんなことまで思っていたのかと、むしろ牧水の純情(?)が、
果てなむ国へ行くかも。
さらに、すごいのは、俵万智が『サラダ記念日』当時の自らの短歌と牧水の短歌との関係を
客観的に描きだしているところだ。
ああ、こんなふうに自身を見つめる自分の目があるのだと感心させられる。
これがこの歌人の作品を支えているのだと思った。
牧水と小枝子との関係、牧水と俵万智自身との関係を描きながら、
それを通して俵万智そのひとの思いまでもが筆致の中に潜んでいるようだ。
語り口は、古典の素養を背景に口語短歌を牽引している歌人らしく、書き言葉と話体が折り合い、
関西人の突っ込みも交えながら、評論口調とエッセイが仲むつまじく手を携えていて読みやすい。
随所の決めフレーズの余韻も愉しめる。
で、やっぱり、恋愛心理は怖い。