共 結 来 縁 ~ あるヴァイオリン&ヴィオラ講師の戯言 ~

山川異域、風月同天、寄諸仏子、共結来縁…山川の域異れど、風月は同天にあり、諸仏の縁に寄りたる者、来たれる縁を共に結ばむ

今日はビーバーの誕生日〜《ロザリオのソナタ》より第14曲『聖母被昇天』

2021年08月12日 17時15分25秒 | 音楽
今日は朝から曇っていたこともあってか、ここ数日間の殺人的な暑さからは開放されました。しかし、西から徐々に接近している秋雨前線の影響で午後からは雨も降り始め、湿度もどんどん上がってきました。

お盆休み中とはいえ、新型コロナウィルス蔓延防止措置のための緊急事態宣言発令下であることもあって特にどこへ出かけるわけでもなく、ひたすら自宅でグダグダする日々が続いています。それでも、一人でいることが全く苦でない私にしてみたら何の問題もありません(爆)。

ところで、今日8月12日はドイツバロックの巨匠ビーバーの誕生日です。



ハインリヒ・イグナツ・フランツ・フォン・ビーバー(1644〜1704)は北ボヘミア・ヴァルテンベルク(現チェコ領ストラーシュ・ポド・ラルスケム)で生まれました。早くから楽才を発揮し、1668年から1670年の間チェコのクロムニェジーシュ城のヴァイオリニストを務めた後ザルツブルクの宮廷楽団のヴァイオリニストとなり、次いで1684年には同楽団の宮廷楽長となりました。

数あるビーバーの作品の中でも代表作と言えるものが、イエス・キリストの生涯を全16曲のヴァイオリンソナタで表現した《ロザリオのソナタ(ミステリーソナタ)》です。ヴァイオリンのヴィルトゥオーゾ(演奏技巧に優れた奏者)でもあったビーバーのヴァイオリン作品には当時としてはかなり高度な技術を必要とするものも多く、この作品にもそのヴィルトゥオーゾぶりを遺憾なく発揮しています。

《ロザリオのソナタ》の一番の特徴は『スコルダトゥーラ』という特殊調弦を多用したことです。通常ヴァイオリンの調弦は低い方からソ・レ・ラ・ミとなっていますが、この《ロザリオのソナタ》では全16曲のうち通常調弦は第1曲『受胎告知』と終曲『守護天使のパッサカリア』だけで、あとは一曲一曲全て調弦方法が違うのです。

そんなビーバーの代表作《ロザリオのソナタ》から、今回は第14曲『聖母被昇天』の動画を転載してみました。



聖母被昇天とは、聖母マリアがその人生の終わりに肉体と霊魂を伴って天国にあげられたという信仰のことで、カトリックでは明々後日8月15日がその出来事を記念する祝日とされています。上の絵はエルミタージュ美術館に所蔵されているムリーリョの『聖母被昇天』ですが、天使たちに迎えられて法悦の表情を浮かべながら天へと昇っていく聖母マリアの様子が、ムリーリョならではの明るく柔らかな筆致で描かれています。

聖書の中で聖火聖母マリアの被昇天についての直接的な記載はありませんが、カトリックでは何世紀にもわたって大切に伝えられてきました。この教義も神から啓示された伝承の一部であるということを歴代の司教たちが一致して認め、第260代ローマ教皇ピウス12世が公に教会の教義であることを公布して.聖母マリアがイエス・キリストの母であることを特に強調したと考えられているものです。

因みにこの『聖母被昇天』のスコルダトゥーラ(特殊調弦)は低い方からラ・ミ・ラ・レです。動画の楽譜を見ると一番上のヴァイオリンのところにとんでもない記号が書かれていますが、先程のスコルダトゥーラをした上で通常の調弦のつもりで演奏すると、ちゃんと音楽になるのです。

聴いていただくと、天へ向かう聖母マリアとマリアと共に楽しげに天へと昇っていく天使たちとの様子を描いたムリーリョの絵が目に浮かぶようです。最後の数小節はヴァイオリンがいなくなってしまうのですが、それが天へと昇っていって見えなくなっていった聖母マリアの有様を表しているようで秀逸です。

昔、音楽教室の発表会で生徒にこの『聖母被昇天』を弾かせたことがありました。特殊な調弦の曲だけにヘタに絶対音感があるとかえって弾けなかったりするのですが、半年くらい時間をかけて準備し、無事成功させたことはいい思い出となっています。

今回はステファーノ・パパロッツィによる華麗な装飾付きのバロックヴァイオリンでの演奏を、スコルダトゥーラの楽譜動画と共にお楽しみください。



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