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今日もソメイヨシノの開花が促進されそうな暖かな日和となりました。
そんな中、今日は夕方から都内西荻窪に出かけました。今日は西荻窪駅から徒歩5分ほどのところにある『音や金時』という場所で、《ホラーサーン合同新年会》なるライブが開催されました。
3月なのに『新年会』とはこれ如何に?と思ったのですが、何でもペルシャ文化圏では春分の日を「ナウローズ」と呼び、この日を日本で言う元日として、そして春の始まる日として盛大にお祝いするのだそうです。因みに夏の始まりは夏至、秋の始まりは秋分、冬の始まりは冬至なのだそうで、ある意味分かりやすいと言えるかも知れません。
本番の時間になると
目にも鮮やかな民族衣装を身に纏った出演者が登場しました。
今回はウードとラバーブ奏者の佐藤圭一さん、トンバクと歌唱のやぎちさとさん、以前、高円寺のライブにも伺ったドゥタール奏者の駒崎万集さん、笹塚でのワークショップでもお世話になったクルディスタンタンブールとタール奏者の北川修一さんの4名によるセッションでした。
ウードは古くからペルシャ文化圏で演奏されている撥弦楽器で、ヨーロッパのリュートや日本の琵琶の原型と言われています。ただ、指板にはリュートや琵琶にあるフレットは無く、撥にあたるプレクトラムで弦を弾きます。
ラバーブはアフガニスタンの他にもトルコやインドネシアにまで見られる弦楽器です。ただ、トルコ等で使われるラバーブは縦に構えて弓で演奏する弓奏楽器なのですが、アフガニスタンで言うラバーブは御覧のような撥弦楽器で、奏弦の他に多くの共鳴弦が張られています。正面からの見た目より共鳴胴に奥行きがあるため、小柄に見えてなかなか太い音が出るのが特徴です。
それにしても、このラバーブや
馬車道のセッション会に登場したブルガリアのガドゥルカ、
国立でのアイリッシュライブで聴いたスウェーデンのニッケルハルパといった楽器を見ると、如何に共鳴弦というものに惹かれた民族が多いかということに、改めて驚かされます。
トンバクはイランを中心とした地域で用いられる打楽器で、
このようなゴブレット型をしています。これを横にして膝の上にのせて叩きますが、中央付近を叩くと深い音が、縁に近い部分を叩くと軽い音がします。特に歌の伴奏打楽器として活躍しているようで、日本でも奏者が増えています。
ドゥタールはウズベキスタンやタジキスタンといった中央アジア圏に見られる撥弦楽器で、『ドゥ』は数字の2、『タール』は弦という意味です。2本の絹糸の弦が張られていて、華奢に見える見た目よりも馬力のある音がします。
クルディスタン・タンブールはイランのクルド族の間に伝わる撥弦楽器で、その歴史は実に4000年にも遡ると言われています。ドローン(執拗低音)としての銅線と奏弦としての一対の鋼鉄弦が張られていて、金属弦ならではの済んだ音色が印象的です。
タールもイランから、アゼルバイジャン、ジョージア(旧グルジア)、アルメニアといったカフカース地方と呼ばれる地域で演奏される撥弦楽器で、
桑の木を掘って作られた胴体に薄い子羊の皮を張り、2本1対の金属弦が3対張られています(画像の左側の1対はドローン弦)。棹には25から28のフレットがあり、真鍮のピックを用いて弦を爪弾くと、金属弦ならではの済んだ音色がアンサンブルから浮き立って聞こえてきます。
余談ですが、ヴァイオリンやギターといった西洋の弦楽器の発祥はペルシャ文化圏と言われています。その原型となった弦楽器のひとつは瓢箪を縦に割ったものに動物の皮を張って棹を付けたもので、今でもヴァイオリンやギターの胴体に見られるくびれはこの名残とされていますが、このタールを見ると、その瓢箪を使った原型楽器が偲ばれるような気がします。
今回のライブで用いられた楽器はそれぞれ主に演奏されている国は違いますが、それでも同じ中央アジア・ペルシャ文化圏の楽器として音色に共通するものがあるようで、国境を感じさせない見事に融和した心地よいアンサンブルを聴かせてくれました。
ちょっと大変そうだったのが弦楽器の調弦。
何しろそれぞれがヴァイオリンなどと比べると素朴な造りになっていることもあって、ちょっとしたことでチューニングが狂ってしまいます。更に、曲目毎にチューニングが変わるためその都度それに対応しなければならず、特に
弦の細いタンブールやタールは、傍目に見ていてもかなり大変そうでした。
休憩時間を挟んで2時間程のライブは各々のソロタイムを交えたりしながらの充実した内容で、詰めかけたオーディエンスから惜しみない拍手が贈られ、大いに盛り上がってのお開きとなりました。
終演後に出演者にお話を伺いましたが、皆さんもあちこちでライブが潰れたり延期になったりしているようです。時節柄仕方ないことだとは思いますが、そんな中で今回このライブが開催出来たということは、会場側の決断とオーディエンス側の理解との上に成り立っていると言えるでしょう。
こうした催しが普通に行える日が、一日も早くやってくることを願って止みません。