今日はあまり日照のない天候となりました。当初「暖かくなる」と言っていた天気予報ほどには暖かくならず、家の中にいても上着を羽織っていたくらいでした。
ところで昨日、大学生になった昔の生徒から久しぶりに連絡があり、
「先生、『セルパン』って楽器知ってますか?」
と聞いてきました。聞くところによると、西洋文化を学ぶセミナーの中で現在では使われなくなった楽器のことについての講義があったようで、学校の吹奏楽部でユーフォニアムを吹いていたその子が、前身楽器としてのセルパンやオフィクレイドといった楽器に興味をもったようでした。
セルパンとは、16世紀の終わりから少なくとも19世紀半ばまで使われたテナー・バス音域の管楽器のことです。
こんな風に蛇行した形に曲げられた長い円錐形をしていて、これがくねった蛇のように見えることからフランス語で蛇を表すserpent(英語で言うサーペント) と呼ばれました。セルパンの素材には主にウォールナット(胡桃)が使われていて、黒かこげ茶色の革が張られています。
木製ではありますがリードではなく吹き口を備えているため、一応木管楽器ではなく金管楽器に分類されています。本体が金属で作られているにもかかわらず、木製のリードを使って演奏することによって木管楽器に分類されているサクソフォンと同じ理屈です。
現在の金管楽器同様にマウスピースに唇を当てて、管体側面に空けられた音孔をリコーダーのように指で押さえて演奏します。音域は楽器や奏者に応じて異なるものの現在のトロンボーンやユーフォニアムくらいの中低音域のもので、チューバが発明される以前は金管の低音楽器としても使用されていました。
開発当初は主に教会で歌われる単旋律聖歌(グレゴリオ聖歌)の低音部の音量補強のために使われていたと考えられていて、18世紀の中頃にはこの楽器は軍楽隊で使われ始めました。
やがて世俗音楽の分野にも使われるようになり、例えばメンデルスゾーンが1830年に発表した交響曲第5番にも低音部補強金管楽器としてセルパンが使われていました。
19世紀半ばになるとセルパンは
キーが付いてより音の安定したオフィクレイドという新たな楽器に取って代わられました。更にこのオフィクレイドは、バルブ化された金管楽器である現在のチューバやユーフォニアムによって取って代わられていきました。
以降、このセルパンやオフィクレイドが実演に用いられることは殆どなくなってしまいました。しかしながら博物館等に多くの原型がいまだ現存していて、そこから新たに製作されたレプリカを用いて古楽の演奏会などで使用されることが増えてきています。
そんなわけで、今日はその珍しいセルパンの音色をお楽しみいただきたいと思います。18世紀フランスの作曲家ミシェル・コレット(1707〜1795)によるソナタで、セルパンの素朴な音色を御堪能ください。
さて、先生はここまで教えたぞ。あとは自分で調べなさい(笑)。