今日は湿度が高めだったものの、一日を通して気温がそこまで上がらず、わりと過ごしやすい陽気となりました。このままいい感じに秋になっていってくれることを、ひたすら願って止みません。
ところで、今日9月28日は
モーツァルトの歌劇《魔笛》が完成した日です。正確に言うと《魔笛》はアリアや合唱の合間を台詞で展開させるジングシュピール(歌芝居)なのですが、現在では一般にオペラの一種として分類され、モーツァルトが生涯の最後に完成させたオペラとされています。
台本は興行主・俳優・歌手で、モーツァルトも属していた秘密結社フリーメーソンの会員でもあったエマヌエル・シカネーダー(1751〜1812)が自分の一座のために書いたものです。お伽噺的な内容の中にフリーメーソンの理念がそこかしこに匂うこの作品は、現在もモーツァルトのオペラの中で筆頭の人気を持つものとなっています。
内容等についてはここで改めて述べることでもないので、今回は割愛します。それで、昨年は第1幕の夜の女王のアリア『恐れるな若者よ』を取り上げましたが今回は私の大好きなアリア『復讐の炎は地獄のように胸に燃え』を取り上げてみようと思います。
第1幕のアリア『恐れるな若者よ』では、娘パミーナを奪われた哀れな母親を切々と歌い上げた一方で、第2幕では本性を現してパミーナに短刀を渡し、太陽を司る神官である夫ザラストロを刺し殺して昼の世界をものにするよう迫ります。そして
「もしできないというのであれば、そなたは私の娘ではない。縁は永遠に引き裂かれ、母と娘としてまみえることはない。」
と脅して歌うのが、この名アリアです。
正に鬼気迫るアリアですが、その狂気を表すかのように
超高音のファの音が2回も出てきます。この超高音を含むアリアを歌うには、並外れた技巧と美声の持ち主でなければつとまりません。
初演では、夜の女王はモーツァルトの妻コンスタンツェの実姉ヨゼーファ・ホーファーが歌ったという記録があります。当然ながら歌える歌手がいなければ作曲家も無茶な音符は書かないわけですが、このヨゼーファ・ホーファーという類まれな歌手がいたが故にこの名アリアが生まれた、言い方を変えればヨゼーファ・ホーファーという歌手がいたばかりに、後世のソプラノ歌手は大変な思いをすることにもなったわけです。
そんなわけで、今日は歌劇《魔笛》の中から夜の女王のアリア『復讐の炎は地獄のように胸に燃え』をお聴きいただきたいと思います。20世紀最高の夜の女王エディタ・グルベローヴァの歌唱で、モーツァルトが晩年にソプラノ歌手に突きつけた超絶技巧アリアをお楽しみください。