はがき随筆・鹿児島

はがき随筆ブログにようこそ!毎日新聞西部本社の各地方版に毎朝掲載される
「はがき随筆」は252文字のミニエッセイです。

花々

2014-12-27 21:21:21 | はがき随筆
 「あっ、赤だ」
 ここの信号機の赤は、少し長い。車を止め、左側の家に目をやると、石垣から赤いバラが顔を出している。このバラは、一年中、次々ときれいな赤い花を咲かせ、道行く人たちの心を和ませてくれた。
 11月。久しぶりに長島の友人宅を訪ねた時、道路沿いにずっとツワブキが植えられ、黄色いきれいな花を咲かせていた。それはまるで、ずっとずっと続く花の道のじゅうたんのようで、心が和んだ。
 それぞれの場所で、それぞれに咲く美しい花々。強くてたくましい。
  出水市 山岡淳子  2014/12/20 毎日新聞鹿児島版掲載

ムカゴ

2014-12-27 21:14:16 | はがき随筆
 ムカゴ取りに友が誘ってくれた。不要になった傘を持ってくるように言う。友の車で山道に入ると、両道脇の立木に絡んだツルが黄色になっていた。葉腋に茶褐色の粒が付いていた。形も大きさもさまざま、木の側に立ち、枝を揺するとぽろぽろあられのように粒が落ちてきた。友が傘を広げ、逆さにもって枝の下でムカゴを受けた。なるほど傘の使い方を知った。収穫したムカゴ。大きいものはフライパンでしょうゆ味でいりあげた。1粒口に入れた。なんとも野趣豊かな味に感動。残りはムカゴ飯。ほくほくしたうまさ。山の味を頂いた。
 出水市 年神貞子 2014/12/19 毎日新聞鹿児島版掲載

何かあったか!

2014-12-27 21:04:52 | はがき随筆
 初冬のその日、私は夫を見舞えなかった。毎月同じ日に加治木の病院へ通ったが、風邪で寝込んでいた。風邪が治り、その日から3日目に病院へ行った。
 夫と話すうち、うっかり、血痰が出たと言った時の夫の「驚きと心配」。血痰は咳で喉を痛めたせいで「大丈夫よ」と、夫の不安を拭った。
 夫の死後、遺品の手帳に「陽子、来なかった。明日は来るだろう」「陽子、今日も来なかった。何かあったか?」と書いてあった。肺結核の夫は、必要以外、病院に来ないよう言っていたが、待っていた夫の気持ちが切なく胸に迫った。
  鹿児島市 内山陽子 2014/12/18 毎日新聞鹿児島版掲載

僕は迷子に…

2014-12-27 20:58:18 | はがき随筆
 小1のルウがバスから降りなかったと息子から電話があった。予定では吉田で乗り、中央駅で待ち合わせるはずだった。そこらを捜しても見つからない。息子は警察に捜索願を出した。
 胸が痛んだ。悪い想像ばかりした。3時間近くが過ぎた頃、見つかったとの連絡があった。ルウによると「次は中央駅です」の放送が聞こえなかったと。
 終点まで行き、尋ねた女子高生が駅へ戻るよう教えたという。時折来ていたカメラ店の辺りで保護された。
 後日、ルウは「僕は迷子になりそうだった」と。
 迷子になったんだよ、ルウ!
  薩摩川内市 馬場園征子 2014/12/17 毎日新聞鹿児島版掲載

モモ

2014-12-27 18:44:45 | はがき随筆


 ドアロックしないで洋式トイレに座る。すぐにモモが来て、右足の甲に頭をこすりつける。純白の猫モモ。東京で娘に拾われて3年。出水に来て3年になる。今では庭の生物が好きな猫版ファーブルだ。
 が、時々何がフラッシュバックしたのかビクッ! とおびえる。鳴き方を学ばないうちに捨てられたモモ。浅草の雑踏で何を経験したのか、心に消えない傷がきっとある。無心に眠るモモの姿を見ていると胸がいたむ。
 か細い声で「ミャン!」。どこで見ているのか、今日もトイレにやってきてグルグルと甘える。しばらく一緒に遊ぶ――。
 出水市 中島征士 2014/12/16 毎日新聞鹿児島版掲載

インテリヤクザ

2014-12-27 18:37:48 | はがき随筆
 高倉健の後を追うように、また一人「男」が消えた。
 スクリーンの外でも菅原文太の思い出がある。一つは学生時代。文太ファンの後輩が、硬派の雑誌を抱えて下宿に。対談の誌面を指し「シュトルム・ウント・ドランクッち、ドイツ語をしゃべっとる。文田はインテリヤクザや」と感心していた。
 もう一つは1981年秋、金沢で。地方自治の研究集会にゲストトーク者として登壇。マイクの前でうつむいたまま「高倉先輩は30分沈黙のまま降壇しても絵になるが、私はもう限界」と、明治期の自由民権運動の話を始めた。
  鹿児島市 高橋誠 2014/12/15 毎日新聞鹿児島版掲載

引導の予約

2014-12-27 18:31:38 | はがき随筆
 大崎町在住のNさんとは十数年来の知己の中である。
 ある日、久しぶりに友を伴い改まった様子で来訪された。聞くと、数年前に大腸がんを患い治療したが、最近再発して脊髄などに転移し、余命幾許もないとのこと。そして曰く「自分の人生を振り返ると、地獄しか行きようはないのだが、せめて、来るべきときには引導を渡してほしい」とのことである。こんな予約は初めてだが、快諾した。そして「私に」引導役をさせると、あなたは地獄に行けなくなるが、それでもいいずすか」と念を押した。彼は驚いた。やがて納得し笑顔で帰って行った。
  志布志市 一木法明 214/12/14 毎日新聞鹿児島版掲載

82歳の友

2014-12-27 18:25:58 | はがき随筆
 50㌔超のまきを背負って、山から出てくる82歳のばあちゃんは、まるで熊のようだ。のっしのっしと力強く、大地を踏み締めて歩く。同じ量を背負った私は右に左に振られて、足取りがおぼつかない。
 ばあちゃんに遅れて着くこと10分。「若いモンが情けない」。言いつつも、ばあちゃんの目が笑う。手打ちそばを披露すると「お前さん、こういうことは才能があるね」と茶化される。
 帰宅して、口を開けて待っていた我が家のばあちゃんにも、そばのフルコースを作る。
 明日は雨が降っても、あのばあちゃんは我が家に来る。
  出水市 道田道範 2014/12/13 毎日新聞鹿児島版掲載

出会い二つ

2014-12-27 18:01:36 | はがき随筆
 先日、「新しい方をお連れしてよろしいでしょうか」と係の方から、電話をもらった。「どうぞ、どうぞ」ということでお会いしたら、私の郷里のお名前なので、出身地をお聞きして、登録した。
 そして物売りの方。いろいろ話して盛り上がったところで、「私、○○さんて、三つ下の方を覚えていますけど」に端緒、というより、それがズバリ当たって「その家内なのです」と。これまた同郷の夫。なぜか不思議で親近感を持ち、まだ孫と娘にしかちぎっていない今年のレモン1個をちぎってさし上げた。この先、何があるのだろう。
  鹿児島市 東郷久子 2014/12/12 毎日新聞鹿児島版掲載